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ニーの街は、グレッグ先生が教えてくれた通りかなり大きい街だった。この辺り一帯の領主館もここにあるのだと言っていた、恐らく小高い所にあるあの大きな館だな。多分すぐ忘れるだろう。
「着いたわね、それにしても大きな街。お得意様が増えそうでわくわくするわ。お姫様、復活地点に行きましょう?そこで解散でいいかしら」
カリスマさんの声に頷いて後をついて移動する。とにかく私は人に殆ど関わらず掲示板も利用しない為、プレイヤーの常識に疎いのだ。
「ニーの街で解放される機能の一つが、復活地点からの街移動よ。復活地点の中空に浮いてる光に触って街を選択したら移動できるんですって。他にもクラン開設とか、土地や家の購入とか、工房か店舗限定だけど賃貸物件も借りられるようになるの」
賑やかな大通りで人並みが鮮やかに別れてゆく。モーゼのようだ。まあ、真っ赤なアオザイ(戦闘服だそうだ)に身を包み、大ぶりのイヤリングを煌めかせたスタイリッシュな禿頭系偉丈夫が一般受けするとは考えにくいか。
「家ですか。いいですね」
宿屋は自分の匂いがしなくて落ち着かない。思う存分気を抜いて空中を漂いながら生活するのも良いだろう。目標が一つ増えた瞬間であった。
「家買うなら俺も部屋欲しい。滝と川があったら後は贅沢言わねーからさ」
水龍がおかしな事をうそぶいている。それが贅沢と言う奴だよ馬鹿者め。部屋の中に滝ってどうやって作るんだ。人目が無ければデコピンしているところである。と、歩きやすかった大通りは神殿に通じていたらしい。何時の間にか神殿まで来ていた。入ると驚くほど広いスペースの中に大きな男の像が設置されている。
「ニーの街はこの神殿に入ってすぐのこの神様の像が復活地点なんですって。なかなか色男じゃない、フフッ」
カリスマさんがにっこりした。それから少し真面目な顔になった。何分身長差があるので私もかなり顔を上向けてカリスマさんと視線を合わせた。首がだいぶ無理な角度になっている。
「今日はありがとうね、アタシの我儘に付き合わせちゃったわ。やっぱりアタシ一人じゃ無理だったと思う、来てくれてありがとう」
真面目な顔だとカリスマさんの顔のつくりは一級品だった。どうして上からけばけばしいメイクを施してしまっているのか。大変勿体ない事になっている。
「いいえ、私こそありがとうございました。それに沢山の事を教えてくれてありがとう。気の合う人と冒険するのは楽しいですね」
「そう言ってくれると嬉しいわ。また機会があったらパーティ組みましょうね、アタシのお姫様」
気障な台詞を残し、カリスマさんは手を振って人ごみの中に消えて行った。周辺の素材を集めたらまた営業するらしい。営業が先か、私がお金を貯めるのが先か。
一人になった私は、神殿の中を見て回ることにした。像から入口に一直線に向かっていくのがプレイヤーであるから除外するとしても、ここにはかなり人が多い。皆熱心な教徒なのだろうか?そう言えばこの神様は名前を何と言うのだろう。
「すみません、もし不躾な質問であったら申し訳ないのですが、こちらで祀られている神様のお名前は何と言うのでしょう」
ちょうど通りかかった、神父っぽい感じの方に尋ねてみた。神様の名前を知ること自体禁忌の宗教もあったりするのだがどうだろうか?幸い逆鱗には触れなかったようだ、神父っぽい方は穏やかな笑顔を浮かべたままである。
「来訪者の方ですな。ここでお祀りしている神々は3柱おわします。ご覧になられていた方が来訪者を遣わした主神ケーイ・チヤマ・ダ様、主神の右腕であられますノ・リコサ・サキ様、そして主神の奥方であられますトクメ・イキ・ボウ様です」
「……」
聞くんじゃなかった。開発責任者と副責任者がこれほど露骨に登場するゲームがかつてあっただろうか。関係記事で散々見かけた名前である。奥方は本当に山田氏の奥方なのか、本名よりマシかもしれないが匿名希望だからってそのまま名前に転用するなよ。
「え、ええと。ありがとうございました。折角来たので礼拝していきます」
硬直していた私はかなり不審だっただろうに、神父っぽい方の笑顔は小揺るぎもしなかった。
「お気になさらず。貴方に数多の神のご加護がありますように」
見送られて広間の奥に並んで設けられた祭壇に近づく。礼拝は祭壇の前に膝をついて頭を垂れ、祈ると言うかなりシンプルなやり方の様だ。同じ様に頭を垂れて祈ろうとし、何を司る神様なのか聞くのを忘れたので祭壇の方に目をやってみる。
『夜と酒と二度寝を司るもの ケーイ・チヤマ・ダ』
神様やるならせめてもっと主神らしい物を司れと思ったのは私だけではない筈だ。もしも私に加護をくれるなら夜の部分だけください。見なかったことにして左隣へ。
『出会いと婚活とプロポーズを司るもの ノ・リコサ・サキ』
かなり結婚したいのだろう。すごく私情の入ったセレクトである。たぶん、加護を与えるよりも与えられたいのではないだろうか。見るのが怖くなってきたが右端へ移動する。毒を喰らわば皿までもと言うし、ここで止めるつもりはない。
『美と愛と優しさと慈しみと子宝と育児と家事と内助の功と家庭円満無病息災交通安全学業成就安産祈願――』
「多いわ!」
叫んでしまった私に罪は多分ないと思いたい。もう最後まで読む気が失せたので、匿名希望様にも一応祈って神殿を出たのだった。山田GMは奥方を愛し過ぎである。
辰砂 Lv.27 ニュンペー
職業: 冒険者、調薬師
HP:525
MP:1730
Str:330
Vit:200
Agi:330
Mnd:530
Int:530
Dex:530
Luk:200
先天スキル:【魅了Lv.7】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.5】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】
後天スキル:【糸Lv.24】【宝飾Lv.5】【調薬Lv.15】【識別Lv.12】【採取Lv.21】【採掘Lv.19】【蹴りLv.28】【魔力察知Lv.4】【魔力運用Lv.7】【魔力精密操作Lv.12】
サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.12】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.6】【調薬師の心得】【冷淡Lv.2】【話術Lv.2】【不退転】【空間魔法Lv.6】【料理Lv.1】【付加魔法Lv.10】【細工Lv.2】【龍語Lv.5】
ステータスポイント:110
スキルポイント:25
称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】【熊薬師の愛弟子】