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小生意気だと思っていた水龍がやはり生意気であったことを確認した後。なぜ急に言っていることがわかるようになったのかと言えば、【龍語Lv.5】が生えていたからだった。
『龍と意思疎通できるようになる。Lv5で日常会話程度、Lv.10で専門分野に関する討論が可能な程度の言語能力が身に付く』
果たして龍と専門分野の討論をする可能性は置いておいて、意思疎通の重要さを噛みしめているところである。
「えー、あのおっさんのとこ行くのかよ……あのおっさん超強そうだからヤなんだよなあ」
マントに隠れた水龍が嫌そうだが、聞こえない事にした。魔力がとか身のこなしがとか言っているが、水龍にこれほど脅威を抱かせるとはカリスマさん恐るべしである。
帰り道で少しだけ雑魚を狩り、常時依頼で1000エーン程度稼いだ。露店マットを借りてカリスマさんの露店へ向かう。先客がいたので目礼だけして隣にマットを広げて準備を進めた。毎回値段設定しないといけないのが面倒だ。
「はい、毎度。またよろしくね。……アタシのお姫様じゃない、こんにちは。平日はこのペースなのかしら?」
ログインペースを尋ねられて、頷く。家事を効率化すればもう少し増やせるだろうが、それにしても2時間が良いとこだろう。
「ええ。だいぶ混雑も落ち着いたみたいですね」
プレイヤーがひしめき合うようだった噴水前の広場もかなり空いていた。行きかうのは平日仕事組や学生組だろうか。カリスマさんも腕を組んで頷いた。
「そうねえ、お姫様にはよくないかもしれないわね……人が減ると売り上げも減るもの。ニーに行く予定はないの?」
ニーの街か。調薬道具のグレードアップの為には行かねばならないが、先に待たせているカリスマさんの装備を手に入れなければなるまい。装備を整えてから進むのが冒険のセオリーである。
「カリスマさんに渡すお金を溜めたら行ってみようかと思っています。先に進むほど魔物も手強くなるでしょうし、いつまでも初期装備で通用するとは思っていません」
「悪循環だわねえ。うーん……今、幾らまでなら払えるのかしら?ブーツだけでも装備すれば西の森のフィールドボスなら二人で何とかなると思うわよ」
所持金は現在32000エーン程度である。グレッグ先生様々だ。3日目の報酬額は18000エーンまで増えていたのだから有り難い話だ。それはさておき、30000エーンまでなら払える旨を伝える。
「30000エーンか。ブーツ単体が29000エーンだから大丈夫ね。はいこれ、毎度あり」
29000エーン渡してブーツを受け取る。詳細を確認してみようか。
『白袋猪の硬質なブーツ ホワイトボールボアの毛皮を加工したブーツ。爪先、踵、脛、膝部分には森蜘蛛の外殻製の心材が入れられており蹴りの威力を高めると同時に脚を保護する。被ダメージを3%カット。与ダメージにStr値の3%加算』
「どうかしら?自信作よ。アタシも次の街に進まないとこれ以上の素材は手に入れられないから、一緒に行かない?お得意様がみんな進んじゃって商売あがったりなのよね」
さっきの二人と言う台詞はカリスマさん自身を指した言葉であったらしい。自然に水龍の事だと思っていたが、教えていないのに知っているはずがなかった。
「辰砂、こいつ絶対強いしいいんじゃね?西って海があるんだぜ。俺海見たいし行きたい、こいつはちょっと気持ち悪りーけど」
フードの奥から囁き声が聞こえてくる。話が通じるようになったら主張が激しくなった。とは言え海なら水の魔力も溢れているだろうし、こいつの住処には向いているかもしれないか。いつまでも私の魔力だけで生活させるのも不憫である。
「カリスマさんが良ければお願いします。今から行きますか?」
戦うのなら、ポーション類を売らない方がいい。さっさとマットを片付ける。本日の売り上げは0、寂しいが仕方ない。
「いいの?悪いわね。その代わり絶対損はさせないから。行きましょ」
カリスマさんも手早くマットを巻き取った。衣類はボディバッグにおさめられていった。かなり上等な鞄だ。
「鞄も自作なの。お得意様限定でご注文も承るわ、もちろんお姫様はうちの広告塔だから大丈夫。いつでも言ってね、ストレージには劣るけどMP節約には便利よ」
とにかく裁縫に関わることは有能なオネエ、カリスマさんは頼もしく微笑みかけてくれたのだった。この商魂たくましいところが好ましい。水龍は苦手なようだが少なくともニーの街までは一緒なので頑張れよ。
マットを返却した足で西の門へ向かった。門番はさすがにプロだ、カリスマさんを見ても眉一つ動かさない。
「知ってるかもしれないけど確認ね。西の森に出る蝶は毒、麻痺、眠りの状態異常を仕掛けてくるわ、むしろそれしかしないわ」
この間の草取りパーティの話を思い出した。かなり手強いというような話だった気がする。
「状態異常回復薬はそれぞれ30程度ずつあります。今日から売ろうと思っていたので、ポーションとマナポーションも50ずつ有りますが、カリスマさんは本数に余裕がありますか?」
今は私とカリスマさんがパーティを組んでいる状態なので、物品を渡しても所有権自体は移らない。カリスマさんは店売りの品を20本ずつ調達してきていたのでひとまずはいいそうだ。