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 深夜。食事の時間である。とは言うものの、雰囲気が何やら物々しい。三人一組の柄の悪い男たちが巡回するように歩いている。誰かを探しているようだが。


 物陰に潜んでしばらく様子をうかがうが、何分狭い通りの中で複数組が動いているのでどうしてもすれ違わざるを得ない。昨日は何人かいた野良たちも一人もいない。これはもしかすると、昨日の食事が原因かもしれないな。


 三人捕まえるか、撤退するか。しかし食わねばどうせ死ぬわけで、選択肢などあってないようなものだ。


 路地を練り歩く、一番他の組と離れた三人組を尾けることにした。【魅了】を強く意識して三人組の背中を視界に収めている。目が合わなくても発動するのかわからないが、失敗したら今度は距離を取って相対する方向で行こう。足を止めろ、止まってしゃがめ。


 1分経過。かかった素振りは見られない。継続。


 2分経過。左側の男の足取りが重くなり、つられて他二人がペースを落とす。距離はまだ詰めない、継続。


 3分経過。残る二人も頭が重いのか手を額にやったり頭を振ってみたりしている。左側の男は完全に足を止めて屈んだ、屈服したらしい。


 結局全員をしゃがませるには3分半ほどかかった。毎日条件が違うから比較ができない。今日時間がかかったのは目が合ってないからなのか複数だからか距離が遠いからなのか、全然分からないままだ。


 やれやれ、と近づいて【吸精】。髪の毛は接触の妨害にはならないので、後ろ頭に手を付けて実行。薄気味悪い声が聞こえてくるのは無視した。


 左の男は塩を入れてない素のパスタ味、真ん中の男は古くなったキャベツ味、右の男はミント感が凄かった。私はミントが苦手なのですぐ辞めた。今のところ全員美味しくないのだが、これは修行か何かなのだろうか?


「異常はなかった。30秒後に立ち上がって、巡回に戻りなさい」


 指示を与えて素早く離れた。ふらふらと立ち上がり、こちらを振り向かないまま歩き始めた三人組を見送って宿に戻った。しかし、もう少し美味しい味に当たらないものか。せめて塩加減位は決まっていてほしい。


 宿に戻って今日もベッドに伸びた水龍を糸で作った寝袋に差し込む。ウナギ漁の筒みたいな見た目であるが、昨日の籠よりはフカフカだろう。


「……ジャ」


 寝言か?水龍が唸ったが動かないので気にせず就寝。そろそろログアウトしなければ仕事に障る、ついでにログアウトするか。メニューを操作していた私は水龍が横目で私を窺っていたことには気が付かなかった。


「……ンジャンジャジャ」


 現実時間にて、翌日夜。後は寝るだけになった私は早速∞世界にログインした。∞世界での一日は現実では4時間ほどに換算される。たった三日でグレッグ先生の依頼が終わったのは、プレイヤーの都合を鑑みて設定された期間だったのかもしれなかった。それはさておき、∞世界では5日が経過しているということだ。


「ジャジャジャジャジャジャジャジャジャ」


「痛い」


 景色が移り変わるや否や顔が凄く痛い。水龍が爪楊枝みたいな前足で私を引っ掻き回している。とても痛いので首根っこをひっつかんで顔から引きはがした。目から汗をかいているがどうしたのだろう?


「ジャジャァ……」


 力なくうなだれた水龍をしばらく観察する。こういう時意思疎通の手段がないのは大変不便だ。そういえば表面が乾燥しているような気がする、これは精霊さんに頼まれたときと同じ奴か。


 指先から魔力玉を作って水龍を上に乗せた。みるみる食べきって唸り始める。これはあれか、お代わりを要求しているのか。また作っては渡し、三度繰り返したところで面倒になった。私の身の丈ほどの大きさに作って勝手に食えとやってみた。


 あっという間に食べきられた。まだ足らんと言うのか。どこに収まっているのか不思議である。MPが100になるまで使い込む羽目になった。


「ケプー。ジャージャ」


 やっと満足したらしい水龍が腹を撫でてごろんと転がった。気のせいか一回り大きくなっている。取った栄養が一瞬で身になったのか、大変漫画チックな演出だ。


「お前は毎日食べないと飢えるのか。私は最大で5日寝たままになるから、お前の食事を考えなければならないな」


 寝ている間に干からびて死んでいました、では精霊さんに申し訳ない。水龍はちょっと考えた風に身をよじらせて、んじゃんじゃと空中を手で掻いてみせる。


「何?死ね?喧嘩なら高値で買うが、違うって?……手刀の練習だな?もうちょっと大きくなってからやったらどうだ、それも違う?」


 全然通じないジェスチャーにお互いが苛立つのがわかる。何が言いたいんだこのチビ龍が。あちらも似たことを思っているのか目つきが悪い。しかし今度は手で宙を掻き、掻いたところを両手で広げるような仕草をした。そこに手を突っ込んで何かを掴んで出す?


「ああ。ストレージ」


 やっとわかった。全く非効率なコミュニケーションだ。ストレージを開けと言うことは何かを出せと言うことだろう、こいつが用事がありそうなのはなんだろうか。肉を取り出してみる。――違う。布団用の毛皮?――これも駄目。薬草――出す前に押し戻された。匂いで奥方を思い出すのか震えている。じゃあ何なんだ?


 あとは細工中には興味がなさそうだった水晶の類しかない。屑水晶を幾つか手のひらに乗せると、両手を何度も大きく広げた。大きいのが欲しいのか?手持ちで一番大きいのは水晶だ。装飾品には大きすぎて使いあぐねた拳大のクラスターを取り出した。頭が上下、これでいいらしい。


「何に使うんだ?」


 尋ねてみると、水晶の前に踏ん張って両手を付きだし、水晶を睨み付け始めた。怪しい祈祷師が念じているように見える。つまりこれに魔法を掛けろということか。付加魔法だな。しかしそのジェスチャーはどこで学んだのか気になるところだ。


 水龍が欲しがるものなので、エンチャント(水)を選択した。MPをどれほど使おうか、いや待て。MP100しか残してないのに付加魔法など使っている場合ではない。


 品質Cのマナポーションを2本飲んだ。これで900を超えた、少々欲しがっても大丈夫だろう。ん?空き瓶を片方だけ叩いている、もう一本飲めと言うのか?そんなに注ぎ込ませるつもりなのか?


 疑いつつも改めてエンチャント(水)を始めた。水晶の隣に陣取った水龍が流れ込む魔力をチェックしている、ように見える。こいつには私には見えない状態の魔力が目視できているらしい。せっかく回復したMPが再び100まで戻ってしまった頃、ようやっと水龍が手を叩いた。


 満足げに水晶に巻きついた水龍。それでその水晶をどうするつもりなのか。疑惑の目で見ていると、水龍は水晶から青い塊を取り出して口に放り込んだ。ああ、そういうこと。冷蔵庫みたいな物か。


 それにしても、まだ何もそれらしいことをしてないのにどっと疲れた。精霊さんの所に行って癒されよう。


辰砂《しんしゃ》 Lv.16 ニュンペー

職業: 冒険者、調薬師

HP:360

MP:1400

Str:330

Vit:200

Agi:330

Mnd:530

Int:530

Dex:530

Luk:200

先天スキル:【魅了Lv.3】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.3】【緑の手Lv.1】【水の宰Lv.1】【死の友人】【環境無効】

後天スキル:【糸Lv.15】【宝飾Lv.5】【調薬Lv.15】【識別Lv.10】【採取Lv.21】【採掘Lv.5】【蹴りLv.18】【魔力察知Lv.3】【魔力運用Lv.4】【魔力精密操作Lv.6】

サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.9】【漁Lv.1】【魔手芸Lv.6】【調薬師の心得】【冷淡Lv.1】【話術Lv.2】【不退転】【空間魔法Lv.5】【料理Lv.1】【付加魔法Lv.4】【細工Lv.2】


ステータスポイント:0

スキルポイント:5

称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】【熊薬師の愛弟子】

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