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 宿屋の部屋に戻り、私は早速机に陣取って薬学辞典第1巻をめくった。目次をなぞるが、目に関わる薬はあまり品数がない。以前作った目薬は状態異常の『暗闇』を治す為の物だが、他には目に関わる名前が見つからない。仕方ないので全頁の効能の欄を辿る作業に移る。


「んー……」


 ジッドレは目の疲れ、なんて曖昧な言い方をしていたが、その後の言い訳には『視界がブレる』旨が含まれていた。うっかり症状を述べてしまった事に彼は気がついているだろうか? とは言え視界がブレるような状態異常の名前も知らないし、見る限りでは対応できそうな薬がない。私の調薬スキルでは対応できなさそうである。


 仕方ないので錬丹術の教本の方も開いてみた。【錬丹術Lv.7】で対応できるだろうか。うう自信がない、いやしかし次回の王乳の丸薬納入は私が対応しなければならないわけだし、スキルレベル上げも兼ねて色々試してみようか……。


 状態異常を一定時間予防出来、かつ解除し続けるタイプの丸薬は第3巻くらいから出て来始めた。この辺りの考え方も調薬とは一線を画している。【調薬】スキルで作成された薬品には予防効果はないものなあ。とはいえ、即効性は水薬に軍配があがるようだ。丸薬を先に飲んでいない場合は、状態異常が解除されるまでに少し時間がかかるとの事。


 何はともあれ、手持ちの材料ですぐ作れるものを一つ作ってみよう。なにしろほとんど実験してないスキルだから、レベルが足りないと作成できない可能性すらあるのである。


「『遍く御座します八百万の神、とりわけ『腰痛持ちの神』よ、何卒ご助力願いここに祈願奉る。私はここです。作りたいのは『腰痛快復の丸薬』です。希望数量は1個、材料は1個分あります。魔力を捧げますのでどうか成して頂きたく畏み畏み申す』」


 腰痛持ちの神様なる存在に魔力のない草三種類、きれいな水、質の良い大理石を捧げた結果、以下のものが作り出された。


『腰痛快復の丸薬 等級Ⅲ/品質E あらかじめ服用することで状態異常:腰痛を10分間予防できる。また発症後服用する事で30分かけて状態異常を解除する。再使用制限時間リキャストタイム10分。(保存期間残り:2か月29日23時間59分)』


 失敗しなかっただけマシ、という事にしたほうがいいだろうか。この性能だと、実用には耐えないと思われる。品質Eのせいでこれだけ効果時間が短いのか比較検討したいな。しかし、今捧げた材料は全て品質Aであったので、あとできる改善はスキルレベルの向上くらいしかない。手っ取り早い改良は見込めないようなので、教本をめくって作れる材料の丸薬を手当たり次第作成する事になった。


 救いは、腰痛快復の丸薬を1個作成しただけでレベルが一つ上がった事だろう。幸いな事にこの作業はそれほど長引かなさそうである。よしこの後は肩凝り快復丸薬作ってこむら返り丸薬作って残った材料でもう一回作れる丸薬洗い直して……


 しばらく後、どうやら祝詞はとにかく唱えれば良いというものではないらしいと発覚し、目論見が外れた上に大量に材料を失って寝台にうずくまる私をイルが必死に慰めるというシュールな図が展開されたのだった。


「辰砂、辰砂、ねえ、元気出してくださいよ。いくら何でも神様にお願いするのにやっつけ仕事みたいな心持ちでいたらそりゃすぐバレて材料と魔力だけ没収されてもしょうがないと思いますけど、悪気があったわけじゃなし、神様にお願いするときの心構えを知らなかっただけでしょう? バチが当たってないから目溢ししてもらえたんですよきっと。次は真面目にやるようにって意思表示なんです、ね、だからもう一回やりましょう」


「……うう」


 珍しくイルが饒舌である。確かに私は『神様にお願いする体のスキル』という認識しかしていなかったので感謝のかけらも持たず投げやりだった。しかしまさか∞世界内に本当に八百万の神様がおわして、しかもお叱りを受けるとは。失った材料の代わりに落ちてきたお札を再度見て――でかでかと『心構え×』と書いてある――もっともなご指摘です。申し訳ありませんでした。


「ありがと、イル。元気出たから大丈夫。とりあえず今日は寝て、明日もう一回ちゃんとやる」


 ちょっと、朝日を浴びて気持ちを切り替えてから再挑戦しよう。ついでに水かぶってみそぎしよう。欲にまみれた私をリセットするのだ。



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