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夜の部を観戦するのは二度目である。やはり昼間に比べて年齢層が上だな。と言うか、実におっさん率が高い。おっさんと腕を組んだ綺麗なお姉さんもちらほらいるけど。しばらく行き交う人々を眺めていたイルが首を傾げた。
「ねえ辰砂、ここって公式な場なんですか? エスコートしてますよ」
「うーん、まあそう振る舞いたい人もいるし、気取らないで過ごしたい人もいる場だね。自分がどうしたいかで決めて良い場だと思えば良いよ」
エスコートというか多分いわゆる同伴出勤だと思うが、わざわざ教える類の情報でもないかという事で無難な感じで答えておいた。イルは興味深げに頷いている。
「腕を組むっていうか、腕に抱きついてる人がいるのはそういう訳なんですね。相手も迷惑そうじゃないし、あれはあれで有りなのかな」
迷惑とは思わないだろうなあ、と思いつつ曖昧に頷いていると、今日も顔見せが始まった。さて、イルの勝利の法則を検証していこう。と、その前に耳を抑えて大音量のアナウンスをやり過ごさなければ。
「はっきりしてるのは、左の組の小さい魔法使いと右の組の細い方の武闘家ですね」
アピールタイムを見届けた後にイルが選んだのは、3組中2組の本命側だった。券を購入してもよかったけれど、買う券が全部当たり続けるなんて、悪目立ちする未来しか見えない。若干残念だがメモに小さく書き綴って結果とすり合わせることにした。
9組の試合が終わり、今は最終組の顔見せを待っているタイミングだ。ここまでイルが選んだのは5組ほど、ちなみに全て的中させている。折角なので今ひとつ自信が持てない組でも判別させてみたのだが、これも4組的中した――つまり、全戦全勝であった。完全に胴元泣かせである。簡単に儲かりそうだが、全然身にならなそうだなあ。泡銭って身につかないと言うし。
「ここまで当たるんなら、イルの思う通りで正解な感じするけどなあ」
「だけど、みんな倍率が安い方でしょう? なんであの人だけあんなに高かったんだろう。今日は出てきてくれないのかな、もう一回あの人で試したいのに」
眉根を寄せてイルがメモ帳を見直している。亀ちゃん、流石に紙は糊で固めてあるから食べちゃ駄目だ。私の膝の上に陣取り、首を伸ばした亀ちゃんをさり気なく抱え直した。紙の代わりにストレージから山菜を取り出して食べさせよう。
「ほら亀ちゃん。ニセアカシアの花、甘いから食べてごらん」
幸いにして亀ちゃんは紙にこだわりがあったわけではないようで、すんなり花に意識を向けてくれた。天ぷらにしようと思って採集したのに、こないだ天ぷらにするのを忘れてしまった悲しい一品である。
「――美味。甘。蜜。多? 茎。固」
茎は固いと言いながらもお構い無しに食べていくあたり、さすが亀ちゃんであった。葡萄状の花房を食べ尽くして満足したのか、亀ちゃんが甲羅に引っ込んだところで最終組の顔見せが始まった。例の彼はいるだろうか?
「……いましたね。やっぱり明らかにダントツだけど、なんで人気ないのかなあ」
イルはすっと目を細めた。アナウンスが『大穴男』呼ばわりしているのが気に障ったらしい。彼も仕事だし、特に夜は客に大きくかけてもらわないと儲からないからある程度は仕方ないと思う。
「まあ、今日はどうなるのか見てみようか。この間がたまたまなのか、イルの感覚がズレたのか、それとも他に理由があるのかも知れない。まずは調べてみないとな」
私の提案に無言で頷いたイルは、大穴男氏が出入り口から戻っていくまで一瞬も目を離さないままだった。
来たる8月24日発売予定の当物語に関して、お知らせその3です。
・とうとう書影の公開が許可されました。
下部と活動報告に載せております。
この小説に不足している美少女成分を補うべく、辰砂さんが若返りました。かわいい。
ヒロインはいっぱいいるんですが、美少女がいないせいです(矛盾)。
第1巻のメインヒロイン?である、カリスマさんも非常に可愛らしくなりました。
いつの間にか紙の方の書籍は予約が開始されています。
・電子書籍も同日配信予定です。
こちらはまだ予約が始まっていません。
もうすぐ?だと思うので、始まりましたらまたお知らせいたします。
・ツイッターのダッシュエックス文庫公式アカウントでも、当作品の宣伝ツイートが時々呟いてもらえるらしいです。
もしよろしければ見ていっていただけると嬉しいですね。
URLはこちら:https://twitter.com/dx_bunko