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モグリ薬品店に薬草を納めた後は冒険者ギルドへ。今日は依頼達成の報告だけでなく、露店の許可を得なければ。
「ギルドカードを確認しますね。……はい、大丈夫です。ありがとうございました。では露店マットの保証金が10000エーンです。こちらはマットの返却時に戻って来るお金ですのでご安心ください。営業場所の指定はありませんが、他の方の露店を明らかに妨害する位置に広げるなどの悪質な行為を確認した場合は保証金が取り上げられ、また露店を開く事が出来なくなりますのでご注意ください」
今日も受付嬢は立て板に水だ。アナウンサーのような滑らかな注意事項をメモ帳に書いておく。もうメモ帳には一日一回目を通すことにする、どうも注意事項の類は記憶から抜けやすい。
10000エーンを預けて露店マットを受け取り、早速美のカリスマの所へ向かう。理由は簡単、厳ついおっさんの隣だとおかしな奴が寄ってこなさそうだからだ。知り合いなら頼みやすい、勿論カリスマさんに断られたら諦めるが。
「あらお姫様。丁度良かったわぁ。貴方向けの装備、今仕上がった所なの」
昨日と同じ所に露店を開いたカリスマさんに挨拶すると、立ち上がって歓迎してくれた。何でも丁度メッセージを作成していたところだったと言う。
「装備してみてくれるかしら?引っかかる所なんかあれば今手直ししちゃうから」
そう言ってカリスマさんは試着室を手で示した。ゲームなのにと一瞬思ったものの、そう言えば装備コマンドなんてないんだったと思いだした。本当に着たり脱いだりしないといけないのだ。
さっさと着替えて試着室から出る。全体的に白で統一されており、袖付きのタイトドレスに近いだろうか。ひだが優雅なスカートが美しいが、丈が足元まであって足に布がまとわりつく。これでは蹴れない。
「ん、やっぱり似合うわねえ。気に入らないって顔してるけど。どこが嫌なのかしら?」
動作を確認しているとカリスマさんから声が掛けられた。そんなに解りやすい顔をしていただろうか、大人げない事をしてしまった。謝って正直に理由を述べる。
「すみません。私の攻撃手段は主に蹴りなので、このデザインですと足に布が付いてきてしまって動きにくいです」
「え?魔法職じゃないの?蹴りなの?いやごめんなさい、アタシのリサーチ不足だったわ、もっと聞きとりしなきゃ駄目ね。ちょっと待って手直しするから着替えて頂戴」
一旦初期装備に戻ってカリスマさんの手直しを待つことになった。どうやら糸は魔法職が使うというイメージが強く、また防具を着けているわけでもない私が直接攻撃主体の戦闘をするとは夢に思わなかったらしい。言っておけばよかったか。
「マント程度の自由度があれば差し支えないって事よね、蹴りってことは脛当てがあった方が良いし、そうね、ブーツにも芯を入れたほうが……」
半分ひとり言を呟きながらも、カリスマさんの手元では針が閃くようだった。本当に私と同じ日に始めたのだろうか?この道五十年と言われても信じてしまいそうな手捌きである。
ほんの5分ほどで魔法の様な手直しは終わった。再度着てみると、先程と動きやすさが格段に違う。ぱっと見では解らないが前後左右に深いスリットが4本程入っていて楽だ。踏み込みの際に邪魔にならぬよう、くるぶし丈だったのがふくらはぎのあたりまで短くなっている。
ブーツは完全に別物と化していた。ショートブーツだった筈が、腿の半ばまである上、爪先と踵、脛、膝の前面に芯の入った物になっていた。後ろ側で編み上げになっていて、現実ではとても履けないデザインだ。
「これなら蹴りに威力も乗るわよ!最初とはちょっと変わったけど、これはこれでいいじゃない。どうかしら?」
ご満悦のカリスマさん。確かにこれなら動きやすいし私のプレイスタイルにもぴったりだ。ただし、この装備は明らかに私の全財産よりも高価だ。少なくともしばらく露天商をしなければ間に合わない。
「あらそうなの?それじゃあ仕方ないか。全部で60000エーンだからお金が貯まったら渡すわね。そうだ、露店なら隣でおやりなさいよ。おかしな男も結構いるし、アタシなら虫除けになれるわよ」
頼もうと思っていた事を勧められて恐縮しきりである。最初にハgとか思ってしまって申し訳なかった。カリスマさんは腕も中身も素晴らしいオネエである。
お言葉に甘えて隣にマットを広げ、品質別にポーションを並べた。値段設定は今朝のパーティと同じにしておこう。不公平は良くない。マナポーションは品質Dを460、Eを310エーンとした。
しかしこれだけだとマットの上が寂しい。ポーションが品質別に2種、マナポーションは品質D、Eの2種だけだ。マナポーションの品質Cは私用なので売れない。夕方のお手伝いで今日は多めに作ることにするか。
並べてしまえばあとはやる事が無いので、カリスマさんを見習って水晶磨きに没頭する。付加魔法を付けて魔法を補助する装飾品なら売れるかもしれない。