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 昼中には先日イルが購入したショコラオランジュ――オレンジピールにチョコをかけたもの――を摘みつつ、果実仙人掌杯フルーツサボテンカップを鑑賞した。絵面は大変微笑ましいものだったが、なにしろバランスボール程のサボテンが飛んだり跳ねたりして可愛さを競う大会だったので、詳細は省くことにする。

 緑芋虫杯グリーンキャタピラカップも、よくいえば安心して見ていられた。ちょっと気になったのが、連れている子供の掛け声が、聞き覚えのあるようなないような台詞回しだったことくらいか。「いっけーミドリン!」「グリリン、糸を吐け!」「ああ! ライガーは力尽きてしまった!」


「……何だっけなあ」


「あ、辰砂、お料理来ましたよ」


「ほんとだ。いい匂い」


 そして今は、いよいよ夜の部が始まるので、その前に腹ごしらえをしようとしているところである。私もイルも、本当には腹は膨れないのだが。何となくご飯を食べると落ち着くのだ。何か考えていた気もしたが、ご飯が先だ。


「この芋団子もちもちしてて食べ応えすごいですね。辰砂のはなんかお皿みたい。さっき窯で焼いてたし、すぐ焼けるように平べったいのかな」


 イルが今回頼んだのはトマトソースのニョッキのようだ。ニョッキっていうか、形だけ見てると白玉団子に見える。でも芋味らしいので多分ニョッキなのだ。対して私が食べているのは、もうお分かりだろうがピザだ。大変シンプルで、チーズと何かのハーブとオリーブオイル的な味がする。これはこれで美味しい。


「うん、そう。あの窯は石でできてて、一番下の部分で火を燃やして石に熱を移してから食べ物を焼くらしい。直火よりずっと均等に仕上がるんだってさ」


 もっちもっち咀嚼しているイルと皿を交換して今度はニョッキを頂いてみる。あーなるほど、芋感がすごい。じゃがいも味なのにさつまいもみたいな存在感がある。イルはイルでピザを一口食べて首を傾げた。何を思っているのかフォークを取ってチーズだけ食べ、生地だけ食べ、全部一緒に食べてから何度か頷いて、普通に食べ始めた。


「どうしたんだ? 急に分解して」


「ああ、なんか不思議になって。一緒に食べると生地がすごく美味しいのがわかるんですけど、生地だけ食べたら味気ないんです。チーズだけじゃしょっぱいし、料理って単純なようで奥深いですねえ」


 初めて食べるものが多いせいか、イルは大体食べ物をじっくり味わい、考察しながら食事を進めていく。龍は主食が魔力だから、これまで実際の食事をしたことなんて数える程もなかったらしい。


「俺、500年も食事しないまま生きて来ちゃって、今更すごい損した気がしてきました」


 素早くピザを食べ終えたイルは、芋団子と格闘している私を見ながら難しい顔をした。結構量があって、食べても食べてもなくならないのである。


「どうかな? 昔のイルって刃物みたいに尖ってたんだろ? そんな頃にご飯が美味しいことに気付けたかはわからないよ」


「う、ううん。いや別に尖ってたわけじゃあ……。まあ、そうですね。今考えたら湖を飲み干すとか、相当なバカだったなと思いますよ。若気の至りって言うか、なんて言うか」


 珍しい。イルが恥ずかしそうに顔を赤らめてもじもじしている。二度と見られないかもしれない表情を見つけてしまった。成龍になって考え方もだいぶ成熟して来たのだろうか、出会った頃からは考えられない台詞である。


「そう言えば最初の頃は今よりずっととげとげしかったんだっけ。お礼言ってるんだか喧嘩売ってるんだか、全然わからなかった事あったな。真珠あげた時だっけ?」


「あーあー思い出さないで! 自分でも恥ずかしいんですから! ほんと子供ガキだったんですよう」


 益体も無い話をしているうちに、夜の部開始時刻が近付いてきた。よし、本日のメインイベントに向かおう。

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