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前回239話にて、人参スキーの種族名を「兎」と表現しておりましたが「狐」へと変更いたしました。プレイヤーネームに引っ張られてしまいました。誠に申し訳ありません。話の筋には影響いたしません。
さてさて、やっとニーの街へ戻ってこられた。ナナリの街からサンの街へ直接移動できると良かったのだが、フィールドボスの蛇を倒す行列に並ぶ時間が惜しかったので遠回りしたのである。ゴーの街からサンの街を経由したのは、申し訳ないが祠掃除を延期したせいだ。そろそろ主が怒っている気もしているが、ごめんなさい。そのうち亀ちゃんと蛇ちゃん連れて挨拶に行きますのでと、団栗にしか見えない精霊器を取り出して糸ハンカチに乗せ、拝んでおいた。
「ん?蛇ちゃん?」
珍しく蛇ちゃんが精霊器に興味を示した。腕を伝って手元まで降りてくるので、精霊器をハンカチごと動かして蛇ちゃんの顔の近くまで持っていく。ちらちらと舌を出し入れして、蛇ちゃんはじっと精霊器を見つめていた。しばらくして満足したのか、蛇ちゃんが再び首元に巻き付いて動かなくなったので精霊器を改めて拝み、巾着にしまった。
「――白。精霊器。所持。龍。匂。付。白。人気。会。遅。努力努力。早。大」
亀ちゃんはよくわからないことを言ってはしきりに道の葉っぱをかじっている。近頃いろんな植物類を食べているが、大丈夫なのだろうか?何処と無く顔がキリッとしているので、やる気は満ちているようだが……やっぱりよくわからない。
何はともあれ、到着したのはフェンネル氏の工房である。扉を開ければちょうどフェンネル氏がコップ片手に一息ついているところであった。多分営業時間はほぼ終わっているのだろう、若干申し訳ない。
「こんばんは、フェンネルさん。遅くにすみません。以前言われてた石を取ってきたので、新しい調薬道具を注文したいんですが」
「ん?おお、顔見ねぇと思ったら侯爵領に行ってたのか。硬金軽石と硬金重石、取れたか?言っとくが、生半可な大きさじゃお前さんの使う道具には使えねえからな」
若干警戒した表情のフェンネル氏であるが、きちんとフェンネル氏の言ったサイズは集めてきているのだ。無言でストレージから取り出して見せる。あれ、眉間にシワが寄った。
「改めて言ってなかったな、そういや……。このサイズだと、作れるのは一度に50本分だな。今使ってるのは確か100本分のやつだったよな?グレッグと揃いだから、確か」
「ええ。あ、そうか、道具を注文する前に材料の話を聞いたから、あの時点では50本分の道具の話だったんですね」
あー。そういえば作れない話の後に注文をかけた覚えがある。ううん、しかし宝石はともかく石材を掘るのはちょっと飽きたし、今回は50本サイズで作ってもらおう。ちょっと回数を二倍に増やせばいいだけだ。なあに素人セットみたいに6本しか作れないわけじゃなし。
「今回は50本分の大きさでお願いします。ちょっと、しばらく石材掘りは遠慮したいので」
正直なところを告げて、納期と予算を確認した。硬金重石の加工に少し手間がかかるので、作製には最短でも10日ほどかかるそうだ。予算の方もなかなかで、147000エーンとのことであった。一部材料持ち込みでサイズダウンしたのに値上がりしている。100本分のを作ったらどれだけかかったのだろう?
「まあ、35万はいくわな。とにかく削るのに手間がかかるのよ、大きけりゃ大きいほどな」
まあ、当たり前の話であった。大きな石を大きな器や大きな円盤に削り出そうというのだから、その手間たるや推して知るべしである。軽石のほうは扱いやすいらしいのだが、重石のほうがやたらと密度が高いせいで体力勝負になってしまうのだそうだ。
「クッソ疲れるからな。ま、請けた以上はきちっと仕上げるから安心してくれ。じゃ、10日後だったな、お待ちしてるぜ」
「よろしくお願いします」
すっかり慣れたやりとりを終えて工房を出る。調薬系の話に興味が全然ないイルだが、地味に石材を作業場へ運んでくれた。さすがはvit値1,000越えである。ちなみに私は重石の方は持ち上がらなかったので、糸で石材を扱っている。つくづく糸という武器の汎用性に助けられているのであった。