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2018.7.2追記:本文中で時が巻き戻る事象が発生していたので修正いたしました。話の筋にはなにも影響いたしません。

2018.7.2追記:人参スキーの種族を「兎」から「狐」へ変更いたしました。話の筋には影響いたしませんが、亀ちゃんの台詞が変更されました。

 念のため、イルにおっさん側へ待機してもらいつつ、改めて面通しは行われた。人参スキーは私に半分隠れるようにしているが、まあ最初から考えれば立派な進歩だ。


「おお、やっとツラ見せる気になったんかい。ったく手間かけさせやがって」


 物騒な台詞とは裏腹に、嬉しげにおっさんは尾鰭を揺らめかせた。ニタニタしているように見えるけれども、多分これはニコニコしているつもりなのだと思う。面構えで損するタイプなのだ。


「あ、あ、あのっ……僕に何かご用があるって聞いたんですけど」


「おおそうよ、俺ぁ今時珍しい見所ある若者に用事があんのよ」


 人参スキーは可哀想になる程緊張している。どれくらいかといえば、ずっと気をつけの姿勢のまま両手のひらが反り返るほど力が入っている程度である。そんなには緊張しなくてもいいと思う。水を差したくないので黙っているが。


 おっさんは人参スキーをひたと見据えた。そのまま、思わせぶりに口を閉ざしている。人参スキーの指先が震え始めた。早く言ってやってほしい、なんだか気の毒になってきた。力みすぎて指がもげたらどうしよう?


「おめぇ……テッペン狙う気ねえか」


 おっさんが本題を述べたのはたっぷり30秒は過ぎた後だった。勿体ぶり過ぎである。しかも大変わかりにくい。てっぺんとは何なのだろう。人面魚界のてっぺんということだろうか?


「……へ?」


 人参スキーもやはりというか意味が理解できなかったらしく、間の抜けた声が漏れていた。うん、気持ちはわかる。全然関係ない私が聞くわけにはいかないので、是非とも問いただしていただきたい。


「えっとあの、テッペンって何のですかね……?そもそもテッペンって頂点って意味で良かったですか」


 控えめではあるものの人参スキーも困惑しているせいか、いい感じに緊張が抜けて、聞くべきことが聞けている。良い傾向だ。おっさんは一つ頷いた。


「テッペンったらテッペンだろうよ?なあ、おめぇなら狙えるって俺ぁ思ったのよ……ええ?そう、この俺の長年練り上げてきた理論とおめぇの技術が合わさればなぁ」


 おっさんが語った内容を要約すると、おっさんは魚釣りというものに多大なる興味を抱いているが、何しろ自分が魚なものだから釣りが出来ない。従って自分の釣り理論を実践することが出来ない。忸怩たる思いを抱えて日々過ごしていたところ、天才的トゥイッチのミミズ――ではなくてそれを操っている人参スキーに出会ったと。これ以上ない機会だと思ったおっさんは人参スキーを非常に迂遠な感じで勧誘しているのであった。ちなみにここまで判明するのに軽く1時間はかかっている。言い回しがいちいちわかりづらいおっさんであった。


「ねえ辰砂、『ストラクチャーの種類とボトム〜トップウォーター間におけるベイトとルアーの有用性に差がつく条件のうち操作性の精度が占める割合』って何のことかよくわからないんですけど……わかる?」


「いや。フライって蠅のことかな……」


 私達からすると謎理論をぶち上げているおっさんであったが、人参スキーはいつの間にやらおっさんの前まで移動してうんうん頷いて見たりしている。人参スキーには分かっているようだった。もう日も落ちたし、なんかこの二人多分上手く行きそうだし……


「帰るか」


「そうですね」


 どちらともなく顔を見合わせて、そういうことになった。おかしなイベントに巻き込まれたが、もともとそういう予定だったのだ。フェンネル氏のところへ行こう。


「――挨拶。無?」


 そろりと踵を返してナナリの街へ進み始めたところで亀ちゃんから質問が出てきた。まあ、普段なら一言かけて帰るけれども。


「今声をかけると、人参スキーが我にかえっちゃいそうだからね。せっかく縮んだ距離が離れたら勿体ない気がして」


 私の回答に亀ちゃんは首を二度傾けて、少し間を空けた。その間にも歩は進めており、もうじき街が見えるあたりまで戻ってこれた。


「――夢中。間。魚。狐。友好?平静。狐。緊張?」


「えーと、まあそういうこと。だから二人っきり……人?まあいいや、彼らだけにしておいたら、話に一区切りついた後もそのままの距離感で付き合っていけるんじゃないかなと思って」


「まあおっさんの方は全然気にしてなさそうでしたからね。おおらかっていうか、大雑把な感じでした」


 そういえばあのおっさんと一番会話をしたのはイルだった。まあ初対面の怯えていた相手にあれだけ持論を語れるのだから、神経質で人嫌いというわけではないだろう。


「ま、なるようになりますよ。縁があればまた会うでしょう」


 イルが肩をすくめて、亀ちゃんが納得したらしく目を閉じた。そうだな、それくらいでいいだろう。よくわからない仲介役なんて早い所お役御免になっておかねば。

お知らせ:突然ですが書籍化する事になりました。正直とても驚きました。

完全に皆様に読んでいただいているお陰です。

詳細はやがてお知らせいたしますが、ひとまずお礼申し上げます。

ありがとうございます。

これからもぼちぼち頑張ってまいります。

どうぞ生暖かく宜しくお願い致します。

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