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しばらく後、カリスマさんはゆっくり私たちのところに戻ってきた。なんとも微妙なお顔であるが、突っ込んで聞くのもなあということでおふくろさんも私もあえては尋ねない方針である。


「ねえ、二人とも……お地蔵様の声、聴こえた?」


あ、話す方向なのか。もちろんお地蔵様は何もお話しではなかったので、首を振る。イルも、おふくろさんも、なんなら元の位置に戻った亀ちゃんも同じ動きである。カリスマさんはそれを見て、長い睫毛を伏せた。5cmもあると睫毛の角度が物凄くわかりやすい。


「アタシ、お地蔵様にね、ご加護と試練を頂いたみたいなんだけど……二人はどう?」


「加護に、試練ですか?」


「ちょっと待って、見てみるから」


加護?試練?それはまた初耳要素である。おふくろさんに続いて早速ステータスを開いてみる。見慣れたステータスの下部分、称号欄に【地蔵菩薩の加護】が追加されていた。イルにも増えている。何かしら効果があるのかは全然わからないが、なんとなく得した気分である。で、試練?試練らしきものはない。クエスト受注欄も確認したが、受注数は0件のままだ。


「俺もあるね、加護だけだけど」


「私とイルにもありますね。試練の方は特にないようですが」


それぞれ返答するとカリスマさんはまた一つ頷いて明らかに困った顔をした。ウールちゃんにも加護だけくっついていたそうで、受けた覚えのないクエスト『至天の途』が表示されているのはカリスマさんだけだという結果になった。しかもこのクエスト、普通表示される詳細部分が空白のままなのである。クリア条件も空白、期間は無期限なのが救いなのか?


「至天の途、ねえ。またなんだか意味深な感じだねー、でも何もわからないっていうのがもどかしい。確かカリスマさんってレアの天部系統だったよね?そこらへん絡みっぽいけどなー、でも確証はないし……決めつけちゃうとなあ」


おふくろさんが長い爪でヘルメットの下を掻きむしっている。そんなにしたらそこだけ禿げてしまうのではないだろうか?若干心配である。


「ね、そうなのよねえ……運営の姿勢を考えると、安直にとっても深読みしても落とし穴がありそうで怖いし。ちょっと、これについては保留しとくしかないわね」


誰も何も推測しきれないまま、カリスマさんがそう締めくくった。そうですね、これについては私たちでは特別力になれそうにありません。結局、街に入った後もカリスマさんは若干上の空のままだった。


しばらく後。今はナナリの街をぶらつき終えて、ハッチの街に向けて出発しようというところである。ナナリの街の特筆すべきものは見つけられなかった。ごく普通の、しかし何やら物足らない感じを残す不思議な街であった。市場の品揃えも微妙で、正直イチの町とあまり変わらない。完全な田舎町だ、町同士の配置を考えてももっと栄えておかしくない立地なのになあ。あ、でも考えてみるとゴーの街こそが要衝なのか。サンの街からナナリの街ルートは崖と谷が続くと聞いたし、明らか不利である。


「ここはねえ、百足のボスだから……あんまりアタシは役に立たないかもしれないの。ごめんなさいね、先に謝っておくわ」


どことなく茫洋とした顔つきの門番に見送られて、足を踏み入れたのはゴツゴツした岩が続く山道である。ほんと、このあたり実にゲームらしい部分である。普通街と街の間くらいの距離でこんなに環境が違うわけないのだ。そしてその岩の隙間から這い出してくるのが百足と鼠、と。弱いが数が多い、典型的な物量作戦の手合いのようだ。


「うう、来ないで頂戴〜」


途轍もない粉砕音と弱々しい声が聞こえてくるが、今近付くと半泣きのカリスマさんの範囲攻撃に巻き込まれてしまいそうである。しばらく距離を置く他ない。確かイルの装備を整えてもらった時の素材に百足が有った気がするのだが、材料集めの際もこんな状態だったのだろうか。ちらりとイルの方を見やると、丁度イルもこちらを見ていた。直後に背後で水が弾ける。どうも見逃した魔物がいたようだ。


「ありがとう」


「いいえ。辰砂を支えるのが俺の役ですからね」


にこっと笑ってイルは再び進行方向を向いた。ううん、別にイルを秘書とか執事にしたいわけではないんだけどなあ。とは言え助かっているのも間違いないのだ。悩ましいところである。

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