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 今日も今日とてノース山へ移動。徐々にプレイヤーが山にも見られるようになってきた。ご同輩か、薬草集めらしき集団もいる。会釈しつつ、私も採集に励む。水龍は今日は大人しい、恐らく昨日の奥方の可愛がりが堪えたのだろう。


 ある一団が、薬草を引き抜いて集めているのを発見した。それだと他人が困ってしまう。主に私だ。


「突然すみません。薬草を引き抜くのは止めて頂けませんか」


 困ることは止めてもらうべく、私はしゃがんだ集団に声をかけた。胡乱げな視線が集中する。


「何でそんな事言われなきゃいけないんですか?根が今のところ一番効果が出るんですけど」


 はあ?とでも言いたそうな少年が立ち上がってこちらを向いた。根も調薬に使えるのか、しかしやはり生え変わるのにどれほどかかるかも解らないし試そうとは思わない。


「根を残して採集すると、明日また新しい葉が手に入ります。根こそぎ取ってしまえば、新しく生える迄そこで採集できません。この辺りは私が毎日採集していますが、問題なく採集出来ているでしょう?」


 ほら、と手で示す。少年が顔をしかめた。関係ねーだろとでも言いたそうな顔である。


「それが、なんか俺らに関係あるんですか?そのうち生えるんでしょ?街中ポーション売り切れてんだから、自分で作らなきゃ間に合わないんですけど」


 思春期にありがちな自分中心の思考である。少年は見た目通りの年齢で考えてよさそうだ。


「私は街の薬品店の依頼を受けて薬草を採集しています。なので、ここが荒らされると薬品店のポーションが更に品薄になると思いますよ。悪循環だと思いませんか」


「ちょっと、シュン。やめとこうよ、どうせ根を使ったって5しか変わんないじゃん。毎日葉っぱ一杯取って本数稼いだ方がいいって」


 引っこ抜く手を止めて聞いていた少年の仲間の少女が立ち上がって少年に話かけた。少年は他人の言いなりになるのが気に入らないのだろうか、不機嫌さが一層増している。ここでひとつニンジンをぶら下げてみるか?


「私も【調薬】を齧っています。自分ではあまり使わないので、練習で作ったポーションをいくらかお譲りしましょうか?まだ品質がCとDですから、お店の物よりお安くしますよ」


 この二日間で出来たポーションは40と少し。グレッグ氏監修の元作ったので、不良品は存在しない。少女の顔が明るくなって、他のパーティメンバー達も立ち上がって口々に少年を説得し始める。


「おい、品質Dだってよ。安くしてくれるって言ってるし無理に草取りしなくても良いんじゃねえか」


「DならFより回復量が多いだろ。なあシュン、今日もレベル上げできるじゃん、な」


「一日草取りして次の日レベル上げってちょっと辛かったしさ、ねえ、お言葉に甘えようよー。お姉さん毎日ここに来るんでしょ?ポーション毎日売ってくれませんか?」


 最後の少女の質問には色よい返事をしてあげられないな。露店で売りたいから、毎日は無理だと答える。注文を受ける形で露店で渡すことは出来るだろうから、明日からは午後露店に来てほしい旨を伝えると少年を除くパーティメンバーの顔が明るいものになった。


「んじゃそれで――」


「ちょっと待てよ!大体こいつがほんとにポーション持ってるかも解んねーのに勝手に決めてんじゃねーよ!ほんとに持ってるんなら見せてみろよ、ああ!?」


 置いていかれる形になった少年、シュンが急に怒り出した。典型的な若者達だなあと感心しつつ、ストレージからポーションを一本取り出した。いや、品質別に出さなければともう一本取り出してシュンに渡した。


「うおー……店売りのと全然変わんねー」


「ちょ、回復量400もある!これで品質Dかよ、ぱねえな」


「ねえ、お金で済むならこのほうが良くない?」


 所有権を移すと、アイテムの詳細を確認する事が出来る。シュンが顔を真っ赤にして震えている他はおおむね好意的な受け止め方をしているようだ。


「何でこんな効果が出せるんだよ!何でこいつが!おかしいだろ!」


 引っ込みが付かなくなっているのかシュンが喚き始めた。非生産的な会話は好きではないのだが。と、慣れた様子で男二人がシュンを担いで離れて行き、残った女子二人が非礼を詫びながらウィンドウを開いた。初めて使うがこれが取引に使うトレード画面か。品物、数、金額を提示してあちらが納得すれば入金してくるシステムのようだ。


「では、品質Cを15本まで、410エーン。品質Dが25本まで、310エーンで。瓶は明日以降の露店で返して下さったら1個10エーン値引きします」


 練習品と言う事で、2割ほど割り引いた値段にした。品質Dの値段が適正かは解らないが、品質Fで100エーンになる事だしまあいいのではないだろうか。女子たちが顔を見合わせ、相談を始めた。


「ほんとは全部欲しいんですけど、手持ちが足りないのでCを10本とDを15本下さい」


「あたしたち、西の森を抜けたいんですけどね。あそこの蝶シリーズがめんどくさいんです」


「もう状態異常のオンパレードで。あたし僧侶目指して回復魔法取ったんですけど、レベルが低いせいかキュア系の魔法、あっ、状態異常回復ですよ、覚えなくってー」


 女子たちは聞いてもいない事を喋りながら8750エーンを入金してきた。これで取引は完了である。しかしそれはすぐに解決する事柄ではないだろうか。


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