227
現在は食事を終えた後である。ウールちゃんが野菜サラダ貝割れ抜き、カリスマさんが雑穀をふんだんに使った野菜プレート10人前、おふくろさんは戸惑いつつハンバーグを選んだ。ポアレ?コンフィ?ナニソレと呟いていた辺り、他のは料理名がピンと来なかったらしい。
イルは結局ショコラ・オ・エクレール……エクレアを注文。食べやすい上美味しいと喜び、持ち帰りできると聞いてオランジェットも2箱注文した。なぜか持ち帰り分だけは自分のお小遣いから支払うと言うので別会計にしたが、意図は不明である。
「うおー!スクショより断然迫力あるなー!」
4階には、闘技が行われる競技場本体と投票所、特別待遇と思しき明らかに豪奢な観客席のブースが並んでいる。それらのうち、半分くらいはお金を出せば誰でも使えるようになっている。基本的には飲み食い禁止だが、このブースの中では大丈夫なのだとか。
「本当に良い席は、貴賓席なんでしょうね。惚れ惚れするような絨毯が敷いてあるわ。いつかウールちゃんも絨毯が織れる位良質な毛が作れるようになるかしら?」
「……クァリスマちゃんガ、欲しいナら。頑張っテみる」
「ええ、とっても。頑張ってねウールちゃん」
言葉数こそ少ないけれど、ウールちゃんがふんすと鼻息を荒くしたのは私にも聞こえた。カリスマさんは絨毯まで織れるのだろうか?どれほど万能なのかと言う疑問はさておき、カリスマさんが魔性の漢女感を出している気がしてならない。ウールちゃんが転がされてる。
「あ、これが顔見せかな?みんな雰囲気有るね、悩むなー」
投票所の方を見に行っていたおふくろさんが戻ってきたタイミングで、いかにもと言った風情の戦士や魔法使い達が入場してきた。多分戦う組み合わせなのだろう、二人ずつの組が3つほど間隔を開けて立っている。
『―――紳士淑女の皆々様、本日もお楽しみいただき誠にありがとうございまあぁぁぁあーっす!』
突如響き渡った大音量に、ウールちゃんがびっくりしたのかずり落ちた。すかさずカリスマさんがおんぶするような形で受け止め、事なきを得たようだ。
強烈な音量は第一声だけだったらしい。その後は鼓膜と心臓に優しいアナウンスが続いた。どうも、選手紹介と簡単な下馬評のようだ。名前を呼ばれた選手たちが思い思いにポーズを取ったり、魔法使いは魔法を使ったりしてアピールしている。
このアピールと、投票所近くに張り出された各選手のプロフィール――参加希望者は自作しなければならないそう――を元にして投票しろと言う事のようだ。闘技場所属の選手のプロフィールのクオリティが均一なのは当たり前だが、自作の方はバラつきが酷い。自分の美しさをつらつら語ってあるのが一番わけが解らない。良くこれで通ったものだ。
締め切り時間が迫ってきているのか、投票所の周囲には険しい顔の人々が熱気を放っている。黙する人、熱弁をふるう人、仲間内で舌戦を繰り広げる人等、様々だ。勝敗予想より、この光景を見ている方が面白いと思う私は少数派だろうか。おや?
「イルさん、もう決めた?さっき買い方とかも聞いてきたから、一緒に行こう」
「ありがとうございます。うん、もう決めてますよ。大丈夫」
おふくろさんがイルの面倒を見てくれている。さっき見に行ったのにはそう言う意図も含まれていたのか。ありがとうございますと意味を込めて、目礼を送っておいた。ぐっと親指を立ててくれたので、多分通じたと思う。