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 何となくほかのプレイヤーに距離を置かれつつ、たどり着きましたのはクーの街。夕方になりつつあるので、急ぎ足で門番の所へ行く。ここの門番はまた随分強そうな風体だ。二人ともちゃんと仕事している、当たり前か。ロックの街がおかしいのだ。


 真面目な門番に通行の許可を貰って街の中へ。ロックの街を見た後なので、いやに寂しく感じてしまうな。


「やっぱ日中はこんなもんかあ」


「そうねえ、今からが本番でしょうね。んー、アレがそうかしら?」


「あー多分そうだよ。おっきいもん」


 街中を見回しながらお二人の会話を聞くともなしに聞いていて、ふと気になった言葉があった。アレとは何だろう?カリスマさんの示した先を私も見てみる。なんかびかびかの大きな建物があった。ぴかぴかではない、びかびかである。


「お二人ともご存じなんですね。物凄く派手ですが、あれって何屋ですか?」


 解らない事は素直に聞くに限る。尋ねてみれば、カリスマさんが振り返って教えてくれた。


「お姫様は興味ある?賭博闘技場らしいわ。昼間は競魔、夜間は対人戦やってるんですって。プレイヤーでも参加出来るそうよ」


 賭博ねえ。あんまり興味ないなあ。競魔は所謂競馬の魔物バージョンらしい。闘技場の運営組織が飼い馴らした同一種の魔物を競争させるのだとか。従魔師テイマーなら該当種族が手持ちにいれば、参加費を払って参加させられるらしい。


 ちなみに玉猪杯ボールボアカップ牙兎杯ファングラビットカップ草原馬杯フィールドホースカップの3種が競走、緑芋虫杯グリーンキャタピラカップ腐乱死体杯ゾンビカップ果実仙人掌杯フルーツサボテンカップはコンテスト形式らしい。緑芋虫杯は繭作りの美しさを競い、果実仙人掌杯は踊りのカッコよさを競い、腐乱死体杯は端的に言ってボディビル大会だそうだ。ちょっと意味がわからない。


「ねえ辰砂。とばくってなんですか?」


 神殿に向かいつつ腐乱死体杯の謎を考えていると、イルが小さく袖を引いた。近頃はなかったことだ。段々騒がしくなってきているせいかな。酔客が他の街よりかなり多いようにも見える、街の方向性上仕方ないのか。


「賭博は賭け事の事だな。例えば誰か二人、そうだなあ、男性と女性が何かで勝負することになったとする。種目は何でもいいけど、みんなでどっちが勝つのか予想する。十人中九人が男性が勝つと思って手持ちの100エーンを払い、一人は女性が勝つと思って100エーン払った。これが机の上にある」


「ふんふん。今みんなで1000エーン払ったんですね。で、これがどうなるんですか?」


「ま、例えば足の速さで競ったとするか。男性が勝ったら、1000エーンは九人で分け合う事になるね。女性が勝ったら1000エーンは賭けた一人で総取りだ」


「おお!100エーンが1000エーンになるんですか!何もしてないのに。あれ、走った二人は何も貰えないんですか?可哀相じゃないです?」


「大丈夫、実際にはみんなの賭けたお金から、頑張る人たちにも報酬が支払われます。何にもなかったら誰もやらないからね。ま、簡単に言うと外れたら無くなる、当たれば増える、そう言う遊びだよ。のめり込む人も多いらしい」


「へえー……うーん。面白いんですかねえ?」


 イルは納得しきれてないのか、腑に落ちない顔をしている。面白いと思う人はハマるものだからなあ。やっぱりと言うか、龍には賭博と言う発想自体が存在しないのだなあ。下手したら貨幣制度もなさそうである。


「こればっかりは人による。面白いと思うかもしれないし、どうでもいいかも知れないよ」


 ギャンブルは人を選ぶ遊びだと思う。イルに受けるかどうかは正直全く予想できないので返事も曖昧なものになった。イルと亀ちゃんが同時に首を傾けたのは可愛いけれども、納得いく答えは返してやれないのである。


「え、イルさんってギャンブルしたことないの?もしかして未成年……なわけないか、せっかくだし行ってみない?今からは対人戦の部になる筈だし、一回やってみたら」


 私たちのやり取りが聞こえたらしい。神殿の扉に手を掛けたおふくろさんが振り返った。確かにイルは499歳だし成龍だから未成年ではないが、こないだまで仔龍だったんだよなあ。まあ、何事も経験か。


「そうねえ。もう日も暮れるし、ボスの続きはまた明日にしましょうか。そろそろお腹も空いてきたし……闘技場内の食堂がすっごい充実してるんですって。なまぐさ抜きでも美味しいお店があるといいんだけど~」


 カリスマさんが頬に手を当ててにっこり笑った。ウールちゃんも食事の話が聞こえたのか、目がパッチリ開いている。意外と食いしん坊なのだろうか。


「辰砂が嫌じゃなきゃ行きたいです……あ、良いですか。じゃあ是非」


 イルが一度こちらを見たので頷いておく。それを確認しておふくろさんにイルが笑いかけた。おふくろさんが器用に土竜の爪でOKサインを作った後、にやーっとしながら私を見たのは何故だろう。


「辰砂って意外と束縛する方なんだね~」


 ……え?一瞬理解が追い付かず、呆けた隙におふくろさんはさっさと神殿内へ進んで行ってしまった。違うんですおふくろさん、イルはこないだまで子供だったんです!束縛とかじゃないんですよ!と、言うタイミングを綺麗に逃してしまったのであった。亀ちゃんが肩を叩く。


「――長。生。色々。有」


 長く生きれば色々あるさ、的な話だろうか……言うほど長生きではないんだよ。


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