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 ギターが入手できないと聞いてしょげたおふくろさんであったが、ちょっと考えてみてほしい。魔石ギター(イコール)魔法楽器(イコール)魔法道具なのである。魔法道具ならば魔法道具職人たる私が作れない筈がないのであった。すぐさまおふくろさんに作成可能な旨を伝えて喜んでもらったことは言うまでもない。


「♪1エーンだって稼いじゃいねえってのに♪俺が何をした!何も盗んでねえし誰も殴ってねえ!飯が罪か?寝てりゃ税か?そんなのってねえぜ!よぉくわかってる、俺はただの屑さ♪なにも出来ねえから♪息が止まるまで叫び唄うのさ♪」


 採寸を済ませて発注まで済ませた後からずっと、おふくろさんが大変にご機嫌である。さっきの反体制ソング『息続く限り叫べ』をるんるん唄いながらピッケルを閃かせている。なお、ギターのデザインに関してはしっかり煮詰めてメッセージをくれるそうだ。


「おふくろちゃんたらご機嫌ねえ。ギター好きなの?」


 ロックが止まらないおふくろさんにカリスマさんが話しかけた。ちなみに今は神殿移動が出来ない私の為に、本来のルートから変更してゴーの街から南下中である。街の配置を考えると、順番通りナナリの街へ行こうとするとサンの街まで移動しなければならない。なので、私の移動距離が最も短くなるゴーの街からクーの街へ踏破することになりました。申し訳ない。


「ん?うん、昔から憧れてるよ。だけど俺、ずーっと集合住宅に住んでるから楽器類って持ったことなくて。高校ん時はバンド組んでる奴らとか憧れたなー。ほら、スプレーとかで髪固めて精一杯格好つけたりさ」


 懐かしそうなおふくろさんであった。イルがおふくろさんの頭部を見て首をひねっているのが見えるが、多分土竜の体毛(数ミリしかない)の何を固めるのか不思議なのだろう。今の話じゃないんだよ。


 ひとしきり思い出話に花を咲かせながら歩いて行くと、再びボスの影と順番待ちの行列が見えた。ここのボスは犬のようだ。


「お、あれかあ双子犬。て、うわあ。あれ倒すの……?」


 おふくろさんの言ったとおりであった。双子犬が可愛いらしい、とは聞いていたけれど、成程見た目が子犬なのか。犬種とかそう言う事ではなくて、あどけない子犬なのだ。心が痛む戦闘になること請け合いである。


『キャインッ』『キューン』と、時折聞こえてくる悲鳴が物凄く心を折りに来ている……。順番待ちをしているプレイヤー達も、重苦しい雰囲気を漂わせている気がする。


「あんな短い脚でたしたしされたら殴り返せねえよ……!」


「甘噛みされてもよしよししてしまいそうな私がいる……」


 行列から涙声と、それを何とか励まそうとする仲間たちのざわめきが聞こえてくるが、このルートは必須ではないのだから道を変えればいいんじゃないだろうか。クーの街にはナナリの街から東に行くルートもあるのだ。もしかして、あっちのボスの爬虫類も駄目で仕方なくこっちに来ているのかもしれないなあ。気持ちイルを背中に隠すように移動しておこう。


「え?どうしたんです辰砂」


「いや、イルをあんまり見せないようにしてるだけ。ボス戦前に心乱されるのって嫌だから」


「う、うん?わかりました?」


 イルにはさっぱり事情が飲み込めなかったようだが、わからないように言ったんだからそれでいいのである。世の中には鱗が苦手な人もいるが、それをイルが知らなくてもいいのだ。おふくろさんとカリスマさんがニヤッとしたが、たまたまだろう。


「……見た?お姫様ったらイルちゃん隠したわよ」


「見た。心乱されるのが嫌とか、聞いてる方が恥ずかしいわー。愛されてるねイルさん」


「またイルちゃんの全然わかってない感じがいいわねえ。もう甘酸っぱいったらもう~堪んないわあ」


「はあー友達の恋模様ってすげー楽しいのなー。いいぞもっとやれ」


 ……何となく、聞こえないけど、生暖かい目で見られている気がしてならないのであった。早く順番進まないかなあ。


「いや、イル(爬虫類系)をあんまり見せないようにしてるだけ。ボス戦前に(苦手な物を見て)心乱されるのって嫌だから」


「いや、イル(格好いい)をあんまり見せないようにしてるだけ。ボス戦前に(どきどきして)心乱されるのって嫌だから」


言葉、足らず。

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