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ミミズを端からスライスに仕上げて倒し、命を蛇ちゃんが食べた後。今は皆でロックの街へ進んでいるところである。もうボスは撃破したから、時々寄ってくる雑魚を適当に蹴散らしておけばよろしい。もうウールちゃんはカリスマさんの頭上へ、亀ちゃんはウールちゃんの毛から私の肩へ戻ってきている。
「――先刻。白。黒紫。光。我。死。蛇。平気。蛇。強」
さっきの光、昏光のことだろう、あれで亀ちゃんは死ぬが蛇ちゃんは平気で、蛇ちゃんが意外と強いと驚いているようだ。
「強い、というか。昏光に対しての相性じゃないかな。亀ちゃんは、死に関わらない精霊なのかもね」
亀ちゃんはしばし動きを止めて、考えているような素振りであった。ややあって一つ瞬きする。
「――昏光。蛇。不死。蛇。死。精霊?」
つまり、昏光で死なない蛇ちゃんが死の精霊なのかと聞いているのかな。それは些か安直であるような気がする。
「死なないことと、死は必ず結びつくわけじゃないと思うよ。今解ってるのは、蛇ちゃんは命が必要で、死を纏っても死なないって事だけ。安易に決めつけると、正解が遠ざかる事もあるからね」
「――理解。我。同意。短絡。思考。厳禁」
亀ちゃんは深く首を上下させて、それきり思惟に耽ったようだった。亀ちゃんは割合深く思索する方で、黙っている時間が長い。やたらめったら考えても、解らんもんは解らんとも思うけれど。ま、これも個性か。
「ふぁー、やっと出口かあ。歩いてると長く感じるなー。もう影に警戒すんの疲れたよ」
おふくろさんが溜息をついた。しかしピッケルが人影をしっかり捕らえているあたり、最後まで気を抜かない長所が良く解る。最後の最後でしくじるのって物凄く腹が立つからなあ。
「そうねえ、ちょっとここって神経使うわ。素材は欲しいけど、悩ましいところね。一通り街を回ったら裁縫師を何人か募集しようかしら」
とはカリスマさん。ウールちゃんは絶賛お昼寝中である。カリスマさんって前衛職だから結構激しく動くのに、一回寝たら全然起きないのだと言う。肝の太い羊君だ。と、カリスマさんが滑らかに棒を動かした。動かした場所に蝙蝠が飛んできて棒にあたり、落下。何だ今の技?凄いんだけど、凄過ぎてむしろ自然だった。
「ちょ、辰砂。今の見ました?見てもなかったですよ。何をどうやったらあんな達人の域に届くんでしょう」
イルも同じことを思ったらしい。と言うかイルならやりかねないと思ったが出来ないのか、珍しい。イルが出来ない事って結構少ないな。
「頑張ればできるタイプの業ではないかもね。私は糸を張り巡らせてないと背後は探れないなあ」
「俺も水無しだと完全には無理ですね……。カリスマ、さんってやっぱ凄いですね」
あ、完全じゃないけど一応できるのか。イルは感心しきりだが、大多数の人は背後をそんな詳細に把握できないからね。イルもどっちかって言うと少数派なんだけど、わかってないんだろうなあ。
「……ゴーの街に続いて、賑やかな街みたいですね?」
雑談を続けつつも洞窟を抜け、関所でチェックに合格し、いよいよロックの街が近づいてきた。まだ街に入ってもないけど、音楽らしき音がじゃんじゃか聞こえてきている。ゴーの街は太鼓とマラカスが多かったけど、ここはギターっぽい音がするな。
「そうねえ、ロックの街だものね」
「うん、ロックな街だからね」
カリスマさんとおふくろさんが同時に頷いた。何となくだが二人の意見にニュアンスの違いを感じるのは気のせいだろうか?
さすがに門番は楽器を持っておらず真面目に仕事に励んでいた。すぐ近くにはギタリストっぽいいでたちの人が複数名たむろしているのが見えるけどね。そこら中の道端でギターをかき鳴らしたらやかましいんじゃないだろうか。あれ、良く見たら門番の制服着た人もギター抱えてる。やっぱりあんまり真面目では無いのかもしれない。