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 宿を取って、騒ぐ水龍に魔力をやった後。つやつやしてベッドにひっくり返っている水龍を放置して、私は屑水晶を並べてみていた。アイテム名は全て屑水晶なのだが、取り出して並べると全て形が違う。濁っていたり傷が入っていたり小さすぎたり、正しく屑扱いの品だ。


 透明な部分を切り出して使うと殆ど捨てなければならなくなる。いや、むしろ味だと考えればどうだろう?不揃いなパーツを繋いだアクセサリーもよく見かけるわけだし、数珠を作るわけでもないし。考えるよりやってみるか。


 初心者宝飾セットからカッターと研磨セット、磨き粉を取り出して小さなパーツに成型する。角を取って艶を出すだけでもそれらしくなった。ブレスレットになるくらいの数だけ作ろうか。


 しばし集中、数が揃った頃には月が高く上がっていた。忘れていた空腹感が私を苛む。一度切れた集中を取り戻すのは難しそうだ。すぴーすぴーと幸せそうな水龍を置いて外に出た。さあ、食事の時間だ。白いマントは暗くとも目立ってくれるだろう。無意識に舌舐めずりをして、治安の悪い方へ歩いていく。


 このイチの街は完全に田舎町のイメージで作られている。けれど、治安の悪い所が無いわけではない。例えば夜の方が活気のある場所など典型的である。明るい方へ行けばいいのだから簡単だ。


 意識的にマントの前を掻き合わせて、下の服が見えないようにする。捕まえるのは一人でいいのだから、道端をうろつくうちに誰か引っ掛かるだろう。駄目なら次の手を考えればいい。


 そこはかとなく甘ったるい匂いのする通りに入った。昼間の住人より随分薄い、露出の多い服を着た女達が店の前の椅子に座って客を待っている。店付きと野良の差がはっきりしているな、これは好都合だ。野良の振りをして、建物の影に陣取った。さて、上手くいくかどうか。


「お嬢ちゃん、迷子かい?」


 さすがは田舎町である、固定客が殆どで私のような新入りもどきに声をかけるような冒険心のあるものはいない。また悪漢を捕まえようかと思いだした頃、私に話しかける声があった。


「いいえ。自分の意志でここにいます」


 にこにこしている恰幅の良い中年だ。田舎町に似合わない、いやに綺麗な衣類が目に付いた。中年は大袈裟に手を広げて嘆いた。


「おお、お嬢ちゃんのような可憐な子がこんなことをしちゃあいけないよ。私の店においで、お茶をご馳走してあげよう」


 人の良さそうな笑顔を浮かべている中年に手を引かれて歩き始めた。ああ、こういう人が丁度良い。ぴったりである。


「……おじさまが、先に私と良い事をしてくれるなら。おじさまがお上手だったら言う事聞いてもいいですよ」


 建物の隙間の前で足を止め、挑戦的に見えるように中年を見上げる。粋がる馬鹿な小娘に見えれば上等だ。中年は隠しきれない下卑た顔を見せて、仕方ないなあと言った。


 建物の影に入って、数分後。私は宿に戻るべく歩いていた。気分的には胸やけである。昨日の若者は薄すぎる鶏がらスープみたいな味であったが、今日の中年は煮詰まったモツ鍋のような味だった。まさか人によって味が違うとは、明日はヘルシーでいきたい気分だ。


 魅了を意識して使ったのは初めてだが、無意識に発動させるより発動が早い。声を掛けられてから魅了状態になるまで一分かかっていないのだ。あるいは相手の同意が鍵なのか、もう少しやってみないと何とも言えないが。


 つらつらと考えながら宿に戻った。相変わらずベッドを占拠している水龍を掴み上げ、糸で籠を編んでそこに投げ入れた。ふがっとか聞こえたが気にしない、ベッドに入る。本当はもう少し作業しようかと思っていたのだが、胸やけがひどいのでもう寝よう。獲物はもう少し選ばなければならない……


 明くる朝。心配だったが胸やけもすっかり良くなっている。いや、気分の話なのだが。水龍が何時の間にか布団に戻っていたらしく、私が起き上がった拍子に転がり落ちた。ぷんぷん怒る水龍だったが、魔力で釣ればいちころだ。ちょろい奴である。


 さて、夢にクレマチスさんが出てきたので、メモ帳をめくる事にしようか。どうしてお前はステータスを管理しないんだとか何とか怒られた気がしているのだ。該当ページはすぐに見つかった。ステータスポイントはこまめに振ることとある。開いてみよう。


辰砂しんしゃ Lv.16 ニュンペー

職業: 冒険者、調薬師の弟子

HP:360

MP:1400

Str:330

Vit:120

Agi:330

Mnd:530

Int:530

Dex:530

Luk:130

先天スキル:【魅了Lv.2】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.3】【緑の手】【水の宰Lv.1】【死の友人】【環境無効】

後天スキル:【糸Lv.13】【空間魔法Lv.5】【付加魔法Lv.1】【料理Lv.1】【宝飾Lv.2】【細工Lv.1】【調薬Lv.11】【識別Lv.10】【採取Lv.19】【採掘Lv.5】

サブスキル:【誠実】【蹴りLv.17】【創意工夫】【魔力感知Lv.30(Max)】【魔力操作Lv.30(Max)】【罠Lv.9】【漁Lv.1】【魔手芸Lv.5】【調薬師の心得】【冷淡Lv.1】【話術Lv.2】【不退転】

ステータスポイント:150

スキルポイント:30

称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】


 おかしい所が沢山あるが、さっさとステータスを振ってしまおう。数字を揃える方向であっという間に決定。それからスキルを調べることにした。


 先ず取った覚えのないスキルがサブスキルに沢山あるのは何故なのか。この謎はすぐ解けた。心当たりのあるスキルがいくつかあったからだ。【蹴り】はしょっちゅう使っているし、【魔力感知】【魔力操作】はチュートリアルの時点で増えたのだろう。【調薬師の心得】はどう考えてもグレッグ先生に師事したことが関係ある。


 もしやとさらにメモ帳をめくれば、行動次第でスキル取得の可能性があると書いてあった。サブスキルのスキルは問題なく使用できるが、経験値は後天スキル枠に入れている時の半分になると。育てたいスキルは後天スキルに入れておくこととあった。


 どうやら、覚えて無いが説明は受けているようだ。この調子だと、興味の無い事はほとんど覚えてないのだろう。不出来な生徒ですいません、クレマチスさん。こまめにメモ帳を確認します。要るもの要らない物を入れ替えて、こんなものか。後天スキルが一つ空いたがまあいいや。


 さて次、【魔力感知】【魔力操作】のレベルの隣にある(Max)の文字だ。詳細を開いてみると、『スキルレベルが最大値に達しました。スキルポイントを使用して以下のスキルに進化させる事が出来ます』というポップアップウインドウが開いた。


 【魔力感知】から【魔力察知】へ、【魔力操作】から【魔力運用】と【魔力精密操作】へ。何故一つのスキルから二つ進化するのだろうか?良く解らないが、スキルポイントも余っているし進化させておこう。停滞させるのは好かない。丁度スキル枠も埋まって一石二鳥である。


 【魔力察知】と【魔力精密操作】に10ポイント、【魔力運用】に5ポイントかかった。これで残りは5ポイントだ。試しに糸を動かしてみる。おっ、編み物の目が緻密に作れる。今なら精霊さんの涙を倍は吸い取れるハンカチが作れるに違いない。


 ふと思いついて昨日のパーツを取り出した。穴はまだ開けてないのだが、糸を物凄く鋭くしたら針が無くても糸が通せるのではないだろうか?一つ摘まんで糸で刺した。おかしな表現だが本当にそうなのだから仕方ない。まるで抵抗を感じないまま糸は無事反対側へ貫通したのだった。拍子抜けだが、いやいや手間が省けたと思えばいいのだ。


 調子に乗ってビーズ状に糸に通して行き、全部同じでは面白くないと単結晶の原石を磨いただけの物を数本通した。これが手の甲側で見えて欲しいが、重たい方が内側に来るのが現実世界の物理法則である。多分逆になる。


 しばらく考えて、手首側には薔薇水晶、多分ローズクォーツを丸く磨いて通すことにした。デザイン的に女性向けであるし、安直にピンク色を選んだにすぎないが。粒が大きかったのでバランスがとりやすかったのもある。


 こうして出来上がった私の最初の宝飾品は、作り手に似つかわしくない可愛らしい感じの物体に仕上がったのであった。


辰砂しんしゃ Lv.16 ニュンペー

職業: 冒険者、調薬師の弟子

HP:360

MP:1400

Str:330

Vit:200(+80)

Agi:330

Mnd:530

Int:530

Dex:530

Luk:200(+70)

先天スキル:【魅了Lv.2】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.3】【緑の手】【水の宰Lv.1】【死の友人】【環境無効】

後天スキル:【糸Lv.13】【宝飾Lv.2】【調薬Lv.11】【識別Lv.10】【採取Lv.19】【採掘Lv.5】【蹴りLv.17】【魔力察知Lv.1】【魔力運用Lv.1】【魔力精密操作Lv.1】

サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.9】【漁Lv.1】【魔手芸Lv.5】【調薬師の心得】【冷淡Lv.1】【話術Lv.2】【不退転】【空間魔法Lv.5】【料理Lv.1】【付加魔法Lv.1】【細工Lv.1】

ステータスポイント:0

スキルポイント:5

称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】



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