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きりが良いとも言えないが、レベルが115になったところで夕暮れも近づいてきたためニーの街へ引き上げることにした。私のレベルが18も上がっている間にイルは2つしか上がってないなんて事は出来るだけ考えないようにした。次の進化はいつになる事やら。
蛇ちゃんは1m弱になった辺りで見た目上の成長が止まった。それでも倒せば倒すだけ命を食べていたようだから、何かしらの糧にはなったのだろう。どことなく顔つきもしっかりしてきたような気がするし、いやこれは少しばかり親ばかかもしれないが。
戻る道筋にもプレイヤーの姿を確認することは殆どできなかった。ニーの街まで戻ってきて、やっと数組パーティを見かけただけだ。それもそうかと納得しながら作業場へ移動する。とても気が重いけれど、明日の事を考えると今日は夜更かしするわけにはいかないのだ。寝るより先に集めた素材達を触りたい。
今日は汎用棟101号室が割り当てられた。誰もいないらしい。再び一人で納得しながら部屋に入ってストレージからあれこれ取り出す。先ずは、ポーション系薬草類から。
マーベラスナオル草を乾燥させて薬研で粉砕……しようとしたのだが、いくら砕こうとしてもかっさかさのナオル草はひしゃげもしない。大分頑張ったのだが、乾燥させて薬研に入れた形のままでナオル草が存在を主張しているのを見て心が折れた。
「器材か、レベル制限かな……」
フェンネル氏がいつだったか言っていた、器材の材質と薬材の相性がどうとかと言う話を思い出した。とは言え、石と接触して欠けもしないあたりシステム制限の様な気がしてならないが。恐らく【調剤】から【調合】、もしくはもっと先に進んだスキルにならねばこれらを使って調薬を行う事が出来ないと言う事だ。
ままならなさに一つ息を吐いた。折角売るほど集めてきたのに、自分じゃ試すことすらできないとは。とは言えいつまでもぼんやりしていても何も始まらない。見よ、イルもまた手芸に精を出している。そう言えば近頃石も集めてないなあ、明日は新しい採掘スポットでも探しに行こうか。
折角1時間借り切った部屋が勿体ないので、とにかく本日集めた植物達を整理したり鑑定したりすることにした。亀ちゃんお気に入りのショッキングピンクの茸はモーレツシャインタケと言うらしい。ブラックな香り漂う名前である。
あらかた整理が終わったところでストレージ端末を見直していると、砂漠薔薇が目にとまった。そう言えばこれも株ごと失敬してきたものの、育てる場所が見つからなくてそのままなのだった。
「植木鉢持って歩くわけにもいかないし、そもそも池がいるし、なあ」
ううむ。いずれか、私も拠点を構えることになるのだろうか。イルの希望が滝と川、私の希望は森と畑と池と……駄目だ見つかる気がしない。そんな物件は、確実に人里に存在しない。かといって隠遁生活を送るつもりはまだ無いわけで。
つらつらと考えに耽っていた私は、口から自分の考えが漏れていた事も、亀ちゃんがそれを聞いていた事も気付かなかったのであった。ただ帰る時に、亀ちゃんがどことなくご機嫌そうだなと思っただけである。
「俺には亀と蛇の機微はちょっとわからないですけどね。むしろ辰砂良く解りますね」
「雰囲気かなあ。ほら、何となく目がきらきらしてないか?」
「うーん、どうだろ……」
帰り道の雑談の際も我関せずの姿勢を貫いた亀ちゃんは、ずっと前足で何かしらのリズムを取っていたのであった。蛇ちゃんとは未だ意思疎通ができてないが、何となく目が物言いたげな感じなのでもう直ぐ何かしら意思表示するんじゃないかと期待しよう。
さて、夕飯食べたら就寝だ。しっかり癒し隊達とも触れ合ったし、何、明日も凹めばまた癒してもらえばいいのである。ぼちぼち頑張ろう。