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「ったく……、これで全部だな?据付すっからちょっと待ってろ。仕事がはええから勘弁してやるけどな、普通忘れるような事じゃねえんだからな!?やるからにゃ責任持て!責任!」


夜明けとともに工房を訪れて現在、∞世界内の朝7時。過去最高のスピードで仕上げた魔法道具たちがお弟子さんたちの手で運び去られていくさまは壮観である。計画性のなさはいつもの事だが、余所様にご迷惑をおかけするのはいけなかった。


「誠に申し訳ありません」


これに尽きる。深々と下げた頭に溜め息が落ち、サイプレスさんは次は気をつけろよと言ってくれた。何とかご勘弁頂けたようである。反省しています。


「……別行動は頂けませんね。把握してなかったとは不覚です」


イルが難しい顔で出してもらったお茶を飲んでいる。そうか、そう言えば打ち合わせの時にはイルはアルフレッドさんの所に顔を出していたのであった。なんだかんだで私が忘れ去っている事柄はイルが指摘してくれるのだが、これは指摘しようがなかったな。


「いや、そもそも私が忘れなければいい話だから。イルは自分の思うように過ごしなさい。一応、別れてる間の話は戻って来てから伝えるから」


「そうですか?一応じゃなくって、ちゃんと伝えてくださいね。俺ちゃんと予定管理しますから、頼ってくれていいですよ」


にこっと笑うイルが頼もしく、対照的に私自身の不甲斐なさが際立つ。何とも言えない心持で家の仕上がりを待つことになった。


「っしゃ、出来たぞ。検品してくれや」


イルが次なる作品に取り掛かり、私はストレージの在庫と睨めっこして今からの献立と必要な材料を考えているところでサイプレス氏からお呼びがかかった。何とも早いお仕事であるが、そう言えば配線もコンセントも一切ないのだ。早くて当たり前である。


「ありがとうございます」


さっそく出来たての厨房にお邪魔する。おお、絵に描いたような石と木の厨房だ。アイランド型の作業台、併設された流しと壁際にもう1つ。魚をさばくためだけの船型の作業台、足元にも頭上にも壁にも過剰なほどの収納が存在する。


さっき作った四口焜炉と少し間を開けて据えられた炭焼き台ににんまりしつつ、足元に据えられた大きなオーブン(これもさっき作った)を開閉する。保温庫はどこだろう?おおここか、これが一番作るのに時間がかかったなあ。欲張って温度五段階管理とかにしたものだから燃費はよろしくないのだが、後悔もない。


「おっと、備品類も見といてくれよ。基本的な料理器具、食器類は揃えたつもりだがあんたのこだわりは掴みきれねえからな」


サイプレス氏の冷静なご指摘を受けて我に返る。ええと、レイアウトは要望した通りで動線もばっちりだ。調理器具の類は収納を検めなければならないか。しばし開け閉めして納品書の一覧と照らし合わせる。特別欲しい物は見つからなかったので受領のサインを入れた。と言うかちゃんと火鉢と火箸と焼き網が各部屋分納品されていたことに驚いた。


「あんな曖昧な注文でよくここまでぴったりの物を見つけられましたね。さすが本職の方は違います」


思わず褒めると、サイプレス氏は肩をすくめた。


「あれだけ語られたら嫌でもわかる。みっちりした灰、炭を乗せても十分保つ壺、網が乗せられるように周りには縁が要るんだろ?俺はお前と打ち合わせした夜は腹が空いて空いてよ……死ぬかと思ったわ」


それはあれこれ作りたい料理を語ったせいだろうか?しかし聞き手がどう受け止めるかまでは私の責任ではないような気がする。まあ、正確にイメージが伝わったようで何よりだ。


「ありがとうございます。素晴らしい出来です」


「じゃ、納品だな。予定通り3000000エーンだ。魔法道具の遅滞は負けといてやるよ、珍しい依頼で勉強させてもらったからな」


有り難い申し出に甘えつつ、支払いを済ませる。金貨300枚をきっちり数えてお互いに笑みを交わした。素晴らしい取引であった。


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