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蛇ちゃんの腹が一杯になるまでに蜂の子1000匹を消化すると言う事実にたじろいだ少し後。精霊さんとイルのお喋りタイムも終わったようでお暇したところである。
「頑張ってね!」
と送り出されたのだが、一体何に対しての頑張ってだったのか全然分からないままである。イルは心当たりがあったのか頷いていたけれど。もうそろそろ寝ないと明日に響くので、真っ直ぐ焼き魚と藻塩亭を目指すことにした。ま、期日のある仕事は王乳の丸薬だけだ。焦っても良い事ないか。
「私はちょくちょく一週間ほど寝るのだけれど、その間の食事はどうしよう?」
亀ちゃんを持ち上げて話しかけると亀ちゃんはしばらく考えているような動きを見せた。そう言えば、亀ちゃんも随分魅了の抵抗値が高いんだよな。
「――我。食事。十日。一度。充分。蛇。不知」
亀ちゃんは食事は十日に一度程度でいいと。それなら私のサイクルでも間に合うか。しかし蛇ちゃんはどうだろう?ちょっと考え、木箱を適当に作って蜂の子を中に収めた。上に穴あきの薄い板を被せておいてと。
「もしお腹がすいたら、ここから食べるといい。水はえーと、とりあえずこっちに置いておくから飲んで。部屋から出ないようにね。じゃあおやすみ」
亀ちゃんと蛇ちゃんに伝達事項を伝え、イルと魔力を交換。イルが食べる魔力の量は大人になってから殆ど一定量になった。もう一段階進化したらまた変わるかもしれないが、成長速度を考えると今悩んでも無駄そうだ。
「……辰砂、俺もちょっと今日はお腹空いてるんですけどもうちょっと貰っても良いですか?」
「そうなのか?いいよ、どれくらい?」
珍しくイルからそんな申し出があったので、余ったMPをほとんどあげた。残り1割を切ると魔力枯渇と言う状態異常になり、MPが1割を超えるまでMP回復量が半減するうえ倦怠感があるので1割は残すが。ところがイルはまだ足りないと言う。
戸惑いつつも自分用のマナポーションを飲み、回復幅が足らずスーパーマナポーションを飲み、まだ足らないと言うのでハイパーマナポーションを飲んだ。イルが満足する頃には飲み過ぎてちょっと気持ち悪くなっていたが、マナポーションの在庫整理になったので良しとしよう。
「ありがとうございます辰砂。俺の我儘聞いてくれて」
心なしか角に艶の出たイルが一息ついて椅子に腰かけた。お腹いっぱいで動きたくないらしい。
「それはいいんだけど、いつもはもしかして我慢してるのか?これだけ量に差があるってちょっと気になるぞ」
飲んだポーションの回復量を合計すると20000弱であった。明らかな飲み過ぎである。今のMPがほぼ1割なので、これはそのままイルに行った筈だが、普段は精々2000程度しか渡してないのである。おかしいだろ。
「あ、いやちょっと食べすぎました。丁度鱗が生え変わる周期なんで必要ではあったんですけど……ついうっかり」
てへ、みたいな顔をしたイルであった。正直コメントに困ったのは内緒である。と言うか鱗って生え変わる物なのか。
「えーと、まあ本当に足りてるならそれでいいけど、要る時は今みたいにちゃんと言ってくれ。マナポーションならいくらでも作れるんだから」
「そのつもりですとも」
寝る前に驚いてしまったが、まあ就寝する分には関係ない。どうせお風呂に入っている間に落ち着くだろうし。そういうわけで、おやすみなさい。
さて、どうにか睡眠時間6時間ほどをキープしつつ起床。起きる時間を遅らせたので今日はグラノーラの日である。毎日これだと飽きるが、時々だと不思議と美味しい。今日は天気が悪いので、洗濯は明日だな。
通勤中にタブレットでニュースを流し読みしていると、トップページに∞世界アップデートの日時が公表されたとあった。私が思っているより∞世界は注目されているようだ。
詳細を確認すると、昨日私がログインしている間に公式HPがアップされたらしい。次のアップデートは……今日の正午?その次は翌日正午、今週は計5回にわたって順次アップデートを繰り返すらしい。
何がアップデートされたのかはログイン時に説明されるようだ。詳細を発表するのは一連のアップデートを終えた後になるのだと言う。これも何かの戦略なのだろうか?
一カスタマーがあれこれ考えてもわからないものはわからない。職場についてしまったので一旦考えるのをやめた。どうせ期待することはたった一つである。――面白くあれ。