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「へえ。手広くやるんだね、お客さん。こいつはあくまでも初心者向けのセットだからな、本気でやるならその内道具も良い物揃えなよ」


 まあそうだろうと言う注意を受けて、コンパクトな木製のトランクを4つ受け取った。現代的な利便性と中世の世界観が入り混じっておかしなことになっているが、木箱で貰うより取り回しが良いか。


「細工と宝飾の素材を集めたいのだけど、どこか良いところを知りませんか?調薬は師事できたのですが」


「うん?あんた達は仲間内で情報を共有してるんだと思ってたんだが、ああ、教えないってわけじゃないさ勿論。昨日から素人が山ほど来てセット買ってくのに、だーれも喋ってくれねえからよ。ちょっと拗ねてる親父の愚痴だよ」


 仲間内というと、掲示板のことだろうか。どうやら住人に声をかけて情報を集めるプレイヤーは少ないようだ。皆どうやってプレイヤーを見分けているのだろうか?


「あーと、細工物と宝飾だな?まあ素人なら木片とか、紐とかが扱いやすくていいか、東の森辺りのドロップ品狙ってみるんだな。宝飾ったって素人じゃあ出来ることも少ないだろうしなあ。ついでにイースト山で水晶とか、ちょっとした石なんか拾ったらいいんじゃないかね」


 どうでもいい事を考えているうちに割と親切な助言を貰えた。お礼を言って今度は東の門へ向かった。勿論今度は水龍に出て来ないようよく言い含めた上である。噴水広場の手前の露天商の前を通りかかったとき、ふと足を止めた。


「これが気になるのかしら?今のところの傑作よ」


 広げられたマントが気になったわけではなく、売っている店主の服装に驚いただけなのだが、都合のいい勘違いに頷いておこう。水龍よ、取って食われはしないから震えるのを止めなさい。


「お嬢さんマント越しでも解るわぁ、すっごくスタイル良いわねえ。お姫様みたい。服も丁度良いのが無かったりして困ってるんじゃなあい?このアタシ、美のカリスマが良かったら相談乗るわよぉ」


「ありがとうございます?服は購入した事が無いので、このマントが傑作だと言う意味を教えてください」


 オネエ言葉に戸惑いつつ、マントの特色を訪ねてみる。ハg、禿頭の美のカリスマによればこのマントには汚れが付かず、店売りのものと違ってダメージカットが約3%見込めるのだと言う。


 このゲームには『防御力』という概念が無い。代わりに存在するのがダメージカット効果である。盾などで防御する、鎧ではじく、剣で受け流すなどの行動はいわゆる『パリィ』に含まれるので、また別の話になる。


「プレイヤーズメイドで3%は間違いなくアタシが最初だと思うわ。レシピはもちろん企業秘密よ?お姫様がうちの専属モデルになってくれるなら、このマント……勉強させて貰っちゃうけどどう?」


 どうやら自称美のカリスマはプレイヤーらしい。専属モデルについて尋ねると、この店の装備で身を固めて冒険していればいいとのこと。勿論その時その時で最新の装備を使って欲しいので、こまめに連絡を取り合うことが条件だと言う。


「一番大事な条件は、アタシの趣味とお姫様の外見が合致するように作った装備を選り好みしないこと!よ。絶対に似合わせてみせるけど、肝心のモデルが無地じゃなきゃ嫌とかチェック嫌いとか拘りが強いと上手くいかないのよね」


 あなたはそんなタイプには見えないけどと続けられた言葉に思わず頷いた。良く解っている、このハgじゃなかった美のカリスマ。


「いやねえ、初期装備に店売りのマント引っかけただけなんだからわかるわよ。じゃあ受けてくれるってことでOK?ありがと。じゃあフレンド申請送るわね、名前は?辰砂ちゃんね?見てくれと随分違うわねえ、まあいいけど……送ったわ」


 メニューからフレンド管理の項目を開く。申請を受けた旨の通知が届いており、承認して登録した。美のカリスマは自称ではなく名前だったのか。


「進捗なんかはメッセージで送るから。緊急だとボイスチャット使うかもしれないけど、出来るだけ邪魔はしないつもりよ」


「わかりました。カリスマさんはいつもこの場所で露店を?」


 一応確認しておく。プレイヤーが露店を開くにはギルドで許可証を得る必要があるらしい。保証金を納めて露店マットと言うアイテムを借りられるそうだ。終わったら返却して保証金が戻って来る。その内私もやってみるか、ポーションなら売れない事もないだろうし。


「空いてる限りここでやってるわ。さて、目玉のマントだけど。そうねえ……13000エーンでどう?原価考えるとこれくらいね」


「構いません」


 即答するとカリスマさんは目をぱちくりとさせた。ごついおっさんがやってもあまり可愛くない。


「いいの?あなた装備の相場なんてわからないでしょうに、比較検討とかしないの?」


「安易に無料提供をしない堅実な姿勢が気に入りましたので。カリスマさんなら安心できます」


 即決の理由を述べるとカリスマさんがにやにやしだした。何かが琴線に触れたらしいが、そろそろ行っても良いだろうか?


「はい、毎度あり。いってらっしゃーい」


 代金を支払い、マントを変更して移動再開。薄茶の生地が白地に紺の縁取りに変わり清潔感が出た。縁取り部分の刺繍が細かい。本人のなりはともかくカリスマさんは趣味が良いと思う。



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