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「やあ辰砂君、イル君。元気そうで何よりだよ、今日はどうしたんだい」


グレッグ先生は今日も朗らかである。表情だけでなく実際に健康そうで何よりだ。


「おはようございます、先生。実はフェンネルさんにお叱りを受けてしまいまして。折角調薬師なのにポーションとマナポーションばかり作っているなんて、道具が泣いていると」


私の用事を聞いたグレッグ先生は、ああ、と苦笑いをした。


「酔い止めでも頼まれたのかな」


「よく分かりましたね」


「昔からだからねえ、フェンネルは。……辰砂君はもう調剤になっていたよね。推薦できるな」


苦笑いから懐かしそうに目を細めた先生は、引き出しから便箋を取り出した。さらさらとペンが動いていく。


「ドワーフにしては酒が弱いのを物凄く気にしてるんだよ。それでも僕らからすれば十分強いと思うけど、兄弟で集まる時なんかは随分からかわれるらしくてね」


書くべき内容は少なかったらしく、あっという間に書き上げたそれに先生は乾いた葉っぱをくっつけた。驚くなかれ、∞世界においてインクを吸い取るのは砂でも捨て紙でも無く、この葉っぱなのである。誰が最初に使い始めたのか気になる。


「僕の所に来る時間がなかったんだろうなあ。家族にも知られたくないみたいで絶対自分で買いにくるんだよね……はい、出来たよ。それをMellowの店主さんに渡したら、薬学辞典第一巻が購入できるからね」


手早く封蝋まで仕上げて下さった封筒を恭しく受け取った。これで多少私の調薬師レベルが上がるかもしれない。きっと新しい材料を探さねばならない筈である。久しぶりに調薬師らしいことが出来そうでときめく。


「それにしても、シュウジ君もたまには顔を見せてくれてもいいのになあ。辰砂君はマメに来てくれるだけに淋しいよ。あれから何人か来訪者の人が弟子入りに来てくれたけど、愛弟子と胸を張って言えるのは辰砂君とシュウジ君なんだよね」


漏らされた物憂げな溜め息にイルと顔を見合わせた。うーん、メッセージでも送っといた方が良いかもしれない。と言うか愛弟子とか言われると照れる。


「見かけたら、たまには会いに行くように伝えておきますね」


メッセージと言ってもわからないだろうと言う事で、当たり障りなく誤魔化すと、グレッグ先生は嬉しげに笑った。


「よろしくね。どうもシュウジ君は生真面目すぎて心配だから、先生を安心させておくれって言っておいて。辰砂君はいい具合に適当にやれる子だから、ちょっとだけ見習ってほしいよ、なんてね」


先生は私達が店から出て、扉が閉まるまで手を振り続けてくれた。お邪魔いたしました。さてと、それではヨンの街に向かおうか。あの頼りなさそうなギルドマスターに会わずに済みますように。おっとその前にメッセージだ。


グレッグ先生が淋しがっていたので、たまには顔を出すようにと簡潔にまとめたメッセージをシュウジに送る。ついでにおふくろさんから瓶のスーパーシリーズの注文が来ていたので了承の返事もして、いざ出発。


「今日の昇格試験は何でしょうね?」


イルが首を傾けた。うーん、荷運び、お坊ちゃんの護衛ときて次は何になるか。ギルドマスターが忙しくしていればまともな依頼が回ってくるはずだが。


「あのあんぽんたんがまた張り切らなきゃいいですけどねえ」


イルも同じことを考えたらしい。遠くを見るような顔をしている。私もそう思うよ。既に糸を見せているので、次は簡単に捕まってくれないだろうし、楽は出来そうにない。


神殿経由でヨンの街に到着。そう言えばカストリ女史に顔を出せと言われていたのに全然出してないな。昇級試験が早く済むようなら、一度寄っておきたいところである。毒の調合も実に興味がある分野なのだ。


ささっと冒険者ギルドに到着して、昇級試験を受けたい旨を告げた。少しばかり実績が足らないと言う事だったので、再び納品系の依頼を見繕ってもらう。


「辰砂様、以前シノース活火山地下迷宮『火竜の巣』にて、かき氷屋の営業許可が必要かと言う内容のご相談にいらっしゃいましたよね。もしや地下迷宮の魔物素材がお手持ちにございますか?」


受付嬢は私の事を覚えてくれていたらしい。かき氷屋の話も、素材の話も含めて首肯すると受付嬢はスマイルを放った。


人造ゴーレム魔石の大規模な納品依頼が丁度ございます。引取数量の上限がありませんので、ご不要な物を全て引き取ることが出来ますわ」


それはいい話だ。人造魔石をストレージ内検索するとこれも結構あった、193個ほど。最初の迷宮内を探索した時と、左千夫君とレべリングを兼ねて練習した時のが効いている。


「193個ほどありますのですべて納品します」


全部ストレージからトレイに移して確認してもらった。倒し方によっては人造魔石だけ生きた状態で取れたりするそうだが、私のはすべて死んでいるそうだ。まあ冷やして倒したし無理もあるまい。


「ああ、大方足りました。後はそうですねー……サトスネークの抜け殻を2つと言う依頼が貢献度的にはぴったりですが、お手持ちはいかがですか?」


検索。こないだお坊ちゃんに持たせる行燈ランタンに1つ使っちゃったからなあ……あ、でもまだ5つあった。早速取り出して納品。これで合格らしい。


「まあ、流石戦う調薬師様です!シサウス山で採れるものは食べ物ばかりなので、この依頼も随分長い事放置されていたんです!塩漬け依頼は戦う調薬師様にお願いすれば解決するとサンの街の受付嬢に聞いたんですが本当でしたわ!」


おい誰だ噂流した奴は!どの受付嬢だろう。塩漬け依頼って坊ちゃんの例のアレの事か。とんでもなく面倒臭そうな評判が流れているではないか。がっくりしながら昇級試験の手続きを始めて貰った。


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