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首尾よく任務を達成した私は、寝入ってしまった坊やを抱っこしたまま街に戻る途中である。これがまた首に齧りついて離れないのである。四苦八苦する私をよそに、イルが仕方なさそうに肩をすくめていたのが印象的だった。


「辰砂が苛めたから疲れたんでしょう」


という失礼なコメントまで付いてきた。まあ感じの悪い坊やだったので優しくはしなかったけど。しかし最初に比べればかなり坊やの事を見直したぞ、私は。


もうそろそろ日が暮れようかと言う頃合いであるが、俄かにイルが止まるように言い出したのでもう一山を残して砂漠の途中で立ちどまることになってしまった。


「門の所にかなり大勢人がいますよ。20……22人、かな。飛んで戻ったら目立ちますけど」


イルレーダーの精度は相変わらずだ。心当たりは……無くも無い、おろおろ執事が大事にしていれば有り得る人数である。あーなんかそんな気がしてきた、やっぱり引きずって連れて行くべきだったろうか。くそう。寝ているよりは起きている方が良かろうと坊やの背中を叩いてやる。


「もうすぐ街に着きますから、起きてなさい。もしかしたら坊やのお迎えかも知れません」


「んぅー、はあい……」


寝ぼけた声は年相応の可愛らしさが残っている。まあこれから頑張れよと内心だけで応援して砂山を登った。一番高いところまで上がると西門の様子が一望できる。予想通り、冒険者パーティが2組と大人が複数名である。おろおろ執事も見えたのであいつの仕業であることは想像に難くない。


何故かこちらを見てざわつくプレイヤー達と明らかにほっとした様子の受付嬢とおっさん達を余所に、坊やは元気に手を振った。なかなかの大物になれそうだ。


「お父様ー、お母様ー!ただいま帰りましたー!」


おーいおーいと手を振る坊やに、お母様と思しき眼のつり上がった夫人がこちらを見てハンカチに顔を埋めた。いかんなあ、これもしかして私たちの事を誘拐犯だと思ってたんじゃないのか?執事が本当に余計な仕事をしたらしい。


「ああボンニャ!わたしのボンニャ!お前が連れ去られたと聞いて生きた心地がしなかったわ!」


ぼちぼち歩いて数分、集団の前まで到着して坊やを降ろしてやると、お母様と坊や改めボンニャは固く抱き合った。


「お母様、大丈夫です。僕が日暮れまでに帰らなきゃいけないって言ったから、冒険者さんが急いでくれただけなんです。言いそびれちゃったから、ローレンは驚いてしまったんだと思います」


ほー、おろおろ執事はローレンと言う立派な名前なのか。ボンニャが私達まで庇っているのでお母様は立派な息子にまた咽び泣いていた。その後ろで気の弱そうな中年男性が困ったように微笑んだ。


「ボンニャ、なんだか朝よりずっと大人びたね。今回の冒険はボンニャにとって実り多い物だったようだ、だけどお母様をこんなに泣かせるようではいけないよ」


「はい、お父様。ごめんなさい」


やんわりとした宥め文句にボンニャが謝ると思ってなかったらしい。お父様が驚いた顔をした。一つ瞬きをして気を取り直したのか、お父様は良い子だねと言うに留めた。


「お母様も、心配かけてごめんなさい」


ボンニャはにこっと笑って、お母様の腕を優しく外した。お母様があっけにとられた顔をしている、ボンニャの今日までの悪行が透けて見えるなあ。ボンニャは今度はギルド職員の面々の方に歩いて行った。手に握りしめていた砂漠薔薇の滴を見せる。


「受付のお姉さん、僕が出した依頼は確かに完了しました。砂漠薔薇の滴をこの手で採集して来ました。冒険者のお二人は何処にも文句のつけられない、立派な仕事ぶりだったことを保証します。証言のほかにもサインが必要ですか?」


「え、い、いいえ。依頼人ご本人の証言を、これだけのギルド職員で保証できるのでサインまでは必要ありません。では、ボンニャ様のご依頼は完遂と言う事でよろしいですね?」


「ええ!」


こちらが元々の性格なのだろうか。大変しっかりした立派なお子様に変身したボンニャはギルド対応もばっちりこなして、最後に私達に振り返った。


「辰砂さん、イルさん、僕の我儘に付き合ってくれてありがとう」


「どういたしまして。草臥れる前に一休みするのが頑張るコツだからね」


湖の底で交わした会話あれこれはお互い知らない事になっているので、私は非常に無難な返事を返した。言いたい事はきちんと伝わったようで、ボンニャは両手をぐっと握った。


「誰も優しくないなら僕が優しくなればいい。頑張るよ!」


「なんか心配ですね。君が初心を忘れないように、かつ頑張りすぎないようにこれを上げます。何でも程々が一番ですよ」


イルが肩をすくめて、懐から腕輪を取り出した。あ、それ一番新しい奴じゃないか!新作の菱形をモチーフにした中性的な一品だ。しょうがないのでまた初回特典、600程付加しておこう。イルがボンニャの左腕に付加守と化した腕輪を巻いてやり、ボンニャはそれを何やら決意した顔で見つめていた。


「あー、すいませんみなさーん。緊急依頼はなかったことになりましたー。補償の話とかするんでギルドに移動してくださーい」


良い感じの空気が漂う背後では、ギルド職員がプレイヤー達を先導したりプレイヤー達が不服申し立てをしていたり女子たちは良かったねーとか喋っていたりしたのだが、今凄くいい所なので聞こえない事にしておいた。


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