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左千夫君の魅了が解けたのはきっかり1時間後だった、当り前だが。神殿にて神父さんにとある質問と言う名の確認を行った後。現在は某所にて左千夫君の覚醒待ちである。
「――っ、った」
ごめんよ左千夫君。魅了にかかる前の状況を鑑みて、私は左千夫君を蓑虫状態に縛りあげていた。魅了がどんなふうに解けるのかを見るのは初めてであったので、興味深くもあったのだが。やはりと言うか直前の状況を持ち越すようで、目の焦点があった途端に体勢を整えようとしたらしい。
「すまない。ちょっと手荒な状態にしているけれど、私達は君を害するつもりはないんだ。あのまま街中で尋問を続けていれば捕まるか追われるかしていたと思うよ」
「……こんなに説得力の無い謝罪は初めて聞きましたよ」
イルの冷たい突っ込みは置いておこうか。先ず戦うところから始めるなんて非効率だろう?疑いの眼でこちらを見てくる左千夫君の傍にしゃがみこんだ。
「君の目的はあの似非二枚目だけ?他にもいるのかな」
「!!」
警戒を顔に出す左千夫君。うーん青いなあ。表情をコントロールするなんて発想すらないのかもしれない、私にもそんな時代があった。懐かしさに少し目を細める。
「うん、まあ急に君をさらったのは悪かった。だけど君が探してる奴の居場所はちゃんと聞き出しておいたから安心してくれていい。それで私が君に何を求めているかの話なんだが」
誘拐して縛りあげている時点で怪しまれないのは無理である。私にできることと言えばあとは精々手短に用件を伝える事くらいだ。冗長になればなるほど言い訳じみて胡散臭さが増してゆく。
「君には確実に、目的を遂げて欲しいんだ。具体的には、きっちりと息の根を止めて頂きたい」
端的に述べて反応を窺う。左千夫君は驚き、再び警戒色を強めつつも迷うような顔をした。私は正直人の機微に疎いのだが、これほどあからさまなら苦労しないで済むな。
「どうして、ですか」
数十秒の沈黙の後、結局答えが出なかったらしい左千夫君は口を開いた。理由か、理由ねえ。
「それがわかっても何も変わらない。私の要求も、君のやることもね。私は君の我を通してもらうために手助けする、もちろん君がそれを受け入れればだけれど。君、今のレベルは幾つかな」
魅了にかかった事を考えれば私より高くはないだろう。ただ、レンより強くなければ倒せまい。
「……56です」
思ったより低いレベルに眉が上がった。【魅了】って思ってるよりしょぼいのか?それともプレイヤーにはかかりにくいとか?いや、他のプレイヤーはもっとチョロかった。左千夫君の抵抗力は他の理由があるのかもしれない。
「そうか、低いね。それじゃとても殺せないよ。彼はどんなに低くても80はあると思った方が良い。むしろ100だと思うくらいの方が安心だ」
「ひゃ、100……」
80と言った時にはまだ気丈な顔をしていたのだが、100の話をした時には顔色が悪くなった。まあ、2倍弱って結構な差だからわからなくもない。
「そんなにがっかりしなくていいんだ。だって今から私は君を鍛えるつもりだから。そうだな、明日一杯くらいまで頑張ってごらん。君が私の期待するほど強く成れれば、彼の居場所を教えてあげよう。どうかな、やってみるかい?」
左千夫君は一度目を閉じた。眉間に皺が寄っている。まあ、意図して怪しく振る舞っていることもあって彼が私達を信用することはまずなかろう。多分、私達が会ったことがあることすらわかるまい。あのときはフードを被っていたし、イルも小さな蛇で隠れていたし。
「……わかりました。それであいつをやれるなら、僕はどんな手段でもとります」
よーし言質は取ったぞ。さあ、では行きましょう。私は左千夫君を抱え上げて飛んだ。幸いにしてとっても手っ取り早く強くなれる場所に心当たりがあるのだ。何、ちょっと谷を越えるけど【飛行】持ちになった今、大した障害でもない。猿たちの攻撃もイルが撃墜してくれる。
「えっ、ええっ!?」
動かせない顔しか出てない左千夫君が下の様子を窺えるわけも無く、彼は虚しく空を見上げる他ないのであった。さーて目指すはいつか使った横穴だ。あそこで翼竜と遊ぶところから始めよう。




