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ゴノース森は、ゴウエスト林に比べて薬草の茂り方が多かった。泉にはやはり住人がいて、精霊さんが根を下ろすには規模が小さすぎることを確認した後。私の用事、採集をさせてもらったのだがあっという間に予定数が集まって驚くことになった。
「この森は樹精さんが沢山いられるほど豊かだからねえ。樹精さんは豊かな森に住んで恵みをもたらすから、理想的な関係なのよ」
この森と樹精はウィンウィンとか言う理想的な関係性を築いているらしい。それで普通有り得ない密度で草も樹も生えているわけだ。道らしい道なんてほとんどないのである。
「なんにせよ、有り難い話です。もう少し時間がかかると思っていたのですが、さてと。お待たせしました」
薬草袋の口を括ったことを確認してストレージへ。いや、多分別に中でばらけたりはしないのだろうが何となく落ち着かない。呼びっぱなしにしていた水も散らして鋏も仕舞ってと。精霊さんはいいのよと笑ってくれて、また蒼玉の中に隠れられた。
「次はえーと、ここから西南西に下って行ったところにあるわね」
精霊さんの指示を聞きながらマップ機能で照らし合わせる。ここは行ったことがない、場所としてはサンの街の北東あたりか。詳細がよく分からないな。ま、それはともかく行ってみようか。このまま進んでもどうせ壁に遮られて関所を通らねばならないので、一旦ゴーの街まで戻ることにした。
もろこし屋は相変わらず焼きもろこしを売っている。いつのまにやら子供向けにハーフサイズも展開していた。プレイヤーもだが住民受けが良い様で、子供たちの行列が出来ていた。値段が安いからお小遣いで買いやすいのだろう、祭りのときには隣でかき氷屋をやろうかな。
神殿経由でサンの街に行き、そのまま北門から東側へ進む。サンの街の北東側は唐突に岩山になっていた。本当に急だな、この脈絡のない地形は本当ファンタジーである。
多分とても歩きにくいせいでここには誰もいなかった。と言うわけで惜しみなく浮遊と飛行を駆使して移動する。魔力探査にそこかしこが引っ掛かるので掘り返したいのだが、精霊さんが優先である。後だ後。
精霊さんのナビに従い、岩山を登っていくと頂上に泉があった。こちらにも先客が。挨拶すると出てきてくれたのだが、水の精霊なのに身体各所からつららのような石が下がっている――これには見覚えがある。鍾乳石じゃないか?
「あらまあ、随分土の気を帯びているのねえ」
精霊さんも驚いたようである。と言う事はさっきから引っかかっていたのはアレかもしれないなあ、とだいぶ関係ない事を考えつつ、水精とも土精とも言えそうな先客さんを見つめた。
「ずっとここにいたらねえ……うん……いつの間にかねえ……」
……その在り様のせいなのか、話を聞くのに随分時間がかかったのはご愛嬌であろうか。最初はただの水精だったらしいのだが、ここを住処と定めて幾年月、いつの間にやら体の随所に鍾乳石が生えて来たらしい。土に埋まるのも水に揺られるのも居心地が良いと本人は結構幸せそうであった。
「うーん、ここはちょっと遠慮したいわねえ……」
精霊さんは先客さんほどゆったり生きるのは趣味ではなかったらしい。環境としては申し分ないらしいのだが、土の気を帯びることに抵抗があるらしい。
「やっぱり水精でいたいわ、私。あ、誤解しないで頂戴ね、あの子がどうとかじゃないのよ、私が変わりたくないだけなの」
先程のやり取りと精霊同士の仲の良さを見ていれば誤解など生じようも無いので、分かっていますと頷いておいた。イルは興味深げに土水精とでも言うべきなのか、先客さんを見つめていた。手足の土でも水でもある不思議な質感が気になるらしい。
先客さんと別れ、山のふもとで再び精霊さんにお断りして採掘作業を行った。掘るべき場所はわかっているのでじゃんじゃん採れて素晴らしい。出てくる出てくる大理石。時折色味の変わったものも出てきて美しい。黒瑪瑙が混じって出てくることもあり、久しぶりに石磨きも出来そうだ。近頃は専ら備蓄でイルの作品作りをやってもらっていたからなあ。
「色味の綺麗な石ですねえ。ずいぶん柔らかいけど」
イルは下に落ちた欠片を拾い上げて見ている。アイテム名としては、屑大理石または大理石の欠片となっているので、まあ使えない事も無いのか?
流石に山を掘り尽くすほど私も採掘に熱を上げてないので、目当てのものが作れそうなところで切り上げた。もっと時間がある時にここの地下に洞窟がないか探ってみるのも面白いかもしれないな、覚えておこう。鍾乳洞は結構好きなのだ。
「次は、ニーウエスト湾でしたっけ」
「ん、終わった?お疲れ様。そうよ、海の側の洞窟の奥に素敵な泉が確かあったはずなの」
「良かったですね辰砂、一度に用事が全部済みますね」
何ともお誂え向きな話である。一連の話を知っているイルは訳知り顔で頷いているが、全くその通りなので私も頷いておいた。さあ、では3か所目に行こう。グラススライムもついでに集められそうで気分が浮き立つ。