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店のあったところまで戻ると人がうろうろしていて驚いた。野営セットを広げたいのかと思ってみていたら肩を落として去って行ったし、もしかしてかき氷目当ての人だったのかもしれない。素早く店の準備を行うと予想は的中し、良い大人がルンルンしながら店にやってきた。


「よお姉ちゃん!全部のせ3つくれ!」


初の男性で全部のせ注文である。しかしこの人はどう見ても1人しかいない、ストレージにしまうのだろうか?


「いやいや俺が食うのよ!俺ちょっと今かき氷食えなくてさ、どうしても食いたいからここまで来たんだわ!ここなら制限なく食えるから!」


はあ。入院か何かしているのかもしれないな。深く突っ込むことはせずに、折を見て順にお出ししようかと聞いてみる。その方が良いと頷かれたので、今は客もいないしまず1つ作って渡した。残念ながらサボテンフルーツが欠品で、代わりにラズベリーが入っている。ラズベリーも嫌いじゃないけどね。


「はーこれこれ!うめえうめえ!ぐああ来たああ」


男はかつて見たことのない勢いでかき氷をかっ込み頭を押さえてのた打ち回った。人がいなくてよかったのか、人がいないからなのかはわからないがイルは変人を見る目で見ている。


あっという間に1杯目を平らげた男に2杯目を渡し、瞬く間にこれも食べられて3杯目でやっと落ち着いたらしい。匙の速度が普通になった。


「ふぁー、フルーツだらけってのも悪くねえなあ。俺が食うにゃあちっと乙女チックだけどな!」


3杯目を渡した時点でお金は頂いたし、後は自由に食べて行っていただければそれでいいのだが、男はなぜか私たちに話しかけてくる。装備を見ると、背中と腰の間くらいにメリケンサックがセットされているので超前衛のような気がする。しかしそれにしては腰に巻いたチェーンが下がっているし、担いでいるのは鉄パイプにしか見えない棒と木刀だ。服装もどこかで見たことがある……あ、


「特攻服か」


思い当たって思わず口から出てきてしまったが、そうだ。白の特攻服にサラシを巻いて、ヤンキーどころか伝統的不良スタイルである。なんでリーゼントではないのかの方が気になってくるほど統一されたコーディネートだ。


「お、分かってくれる?ったく近頃のわけぇ奴らときたら!ボンタン見て猿パンツがどうたら言いやがんだよな!わかってねぇよ」


猿ではなくサルエルパンツと言われたのだろうなと思いつつ、曖昧に頷いておいた。私も世代ではない為詳しくないのだ。


「背中のは何と読むんです?」


特攻服には必須なのだろう、背中の刺繍もちゃんとあった。『悪灸兎麩餡斗夢』である。うーん、後ろ4文字はファントムだと思うのだが前半は何だろうか。


「これか?『悪灸兎麩餡斗夢おきゅうとファントム』だぜ!俺らのチーム名なんだよ、もう今ないけどな」


おきゅうとファントム。……おきゅうとって、確か九州の方のどこかの郷土料理じゃなかっただろうか。動揺を押し殺しつつ、再び曖昧に相槌を打った。


「俺おきゅうと好きだからよ!初代総長としちゃやっぱゆずれねーもんを掲げねえとな!だから俺の名前も悪灸兎羅罵図おきゅうとラバーズだしな!ほら!」


咳き込んで誤魔化せたのは奇跡に近かったと思う。イルには絶対に伝わらないのだけれど不意打ちは止めてほしい。ご丁寧にフレンド申請で漢字まで教えてくれたもんだから危うく噴き出すところであった。悪灸兎羅罵図さん――バズさんとかキューさんと呼ばれているらしいので私もバズさんと呼ぶことにした――はすぐに申請を引っ込める。名前よりずっと常識的な人であるらしい。


「ははは!おきゅうとわかってくれて嬉しいぜ!結構マイナーだからよ。さーて行くかあ、ごっそさん」


食べる手は休めていなかったバズさんは、器と匙を重ねて返してくれた。本当見た目に似合わぬ普通さが違和感を感じさせるなあ。それから腰に下がっているポーチからポーション類を取り出して数えている。


「はーあ、ソロは辛いねぇ。ポーションがもうちっと買えりゃなあ……ま、言ってもしゃーねえか。んじゃな」


む?商機到来ではないだろうか。私はすかさずバズさんを呼び止めた。


「私、本業は調薬師なのですが。ポーションをお探しでしたらお譲りしますよ」


素早く商品を見せるため、マジックバッグから各種ポーション類を取り出す。茶色いお手玉状の投擲シリーズには怪訝そうな顔を隠さなかった。


「んだこれぁ?ポーションつったってこりゃ飲めそうもねぇぜ」


今は露店マットがないので、所有権のないバズさんには詳細が見えない。手渡して所有権を一時的に移すと驚いたらしく眉が跳ね上がった。へぇ!とか言っている。


「投げつけるねえ。あー、見たことあるわ!なんつー仲のわりい奴らだと思ってたわ。違ったのな」


性能にもご納得頂けたようなので、残り少ない瓶のポーションを50本ほど売った。普段からポーションは飲んでいると言う事で、残念ながら投擲ポーションは断られてしまった。


「仲間が出来たら買うかもしんねーけどなあ。悪ィな」


「フレンド申請して頂ければ、ご注文も承りますよ。プレイヤーの調薬師もそろそろ増えてくるでしょうから、私も固定客を増やしておきたいのです。もしよろしければの話ですが」


そう言うわけで、私のフレンドが11人に更新された。もっとも太い客である少年少女達がシュウジに移るだろうことを考えると、もう少し付き合いを増やした方が良いかもしれない。ぼちぼち新規開拓を続けよう。


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