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翌朝。そう言えばイルと一緒に動くようになってから、目覚めて一人なのは初めてな気がする。ひとつ伸びをして、イルを起こしに行った。


「おはよう」


「うう、おはようございます……」


どうやら昨日調子に乗って夜更かししたらしい。水風呂がそんなに嬉しかったのだろうか、さすがは元水龍である。目が覚めたらおいでと言い残して作業台へ向かった。昨日作っておいた果汁の氷はどうなったろう。果汁と言うか擂り潰した果物というか。無難なところでオレンジを取り出してみた。きちんと凍っている。とりあえず削ってみようかな。


朝食が珈琲とオレンジ100%のかき氷という不思議な献立になったけれどまあまあいけた。この分ならば他の果汁系の氷もメニューにしても良いかもしれない。数量限定で書き足しておこう、限定5食でオレンジ、林檎、桃と。1つずつしか作らなかったのが悔やまれる。


果物類の準備をある程度終えたら、ガラス窓を開けて開店する。途端にわらわらと人が寄ってきて驚いた。昨日より多い。何が起きたんだ。


「かき氷ひとつ下さい!」

「フルーツ抜き3つ!」

「全部のせくださぁい」

「この果汁かき氷って何ですかー?」


わーわーと一度に話しかけられても困る。私は聖徳太子では無い。勢いに押されて一歩下がったところでイルにぶつかった。ごめんよ。イルは無表情のままだったが、涼風というか、寒風が家の外に向かって吹き出しているのがわかった。落ち着かせるには冷た過ぎる気がする。


「御覧の通り、店員は2名ですから一度にご注文頂いても伺う事ができません。恐れ入りますが一列にお並びくださいませ」


火山の中の筈なのに震えるプレイヤー達に、イルは見事なビジネス敬語を使いこなした。いつの間に『恐れ入ります』なんて習得したんだ。気圧されたらしく、プレイヤー達がそそくさと並んでくれる。途端に風はぴたりと止んだ。こういう時のイルはとても水風呂を喜ぶようには見えないなあと場違いな感想が頭に浮かんだ。て、そんな場合じゃなかった。


「並んで頂いてありがとうございます。それでは順番にお伺いいたします」


今度は私が声を張る。イル一人に対応させている場合ではない。客達は心なしかおずおずとしつつも注文してくれたので、それに果物を1種サービスすることにした。個人的にはやり過ぎだとは思わないが、つまらない恨みを買うのも好かないので。


しばし淡々とかき氷販売を続けた。客達も徐々に普段通りの様子に戻り、ちょっとした会話も出てくるようになった。


「ここで営業しても良いんですか?」


「ええ、冒険者ギルドからお墨付きを頂きました」


「果物が一杯のってますけど赤字ですか?」


「大丈夫ですよ。ご心配なく」


「どうしてかき氷屋さんをしようと思ったんですか?」


「ここは暑いのでかき氷が食べられたら嬉しいと思ったからですね」


概ね、本当にちょっとした会話だったけれど、時折ダンジョンのボスに関する話や最深部に出没する魔物の話なども聞けた。最深部と言われる層には、マグマゴーレムではなくファイアエレメントと言う魔物が出るらしい。ドロップ品が種らしく、使い道が解らないアイテムなのだそうだ。興味深い。


数量限定の果汁かき氷も早々に売り切れてしまったので、あとは昨日と同じラインナップである。ちょっと予想より客足が伸びているので今日の営業が終わったら一旦引き上げて果物を仕入れに行かなければならないな。一番人気なのはスイカとオレンジだった。無難だからかねえ。私はライチと桃が好きだ。


溜まっていた人を捌いたら、昨日と同じく小休止できた。ダンジョンに向かう前に食べて行った人が多いようだ。セーフティポイント全体の人の数が減っている。一息つこう。


「ねえ辰砂、この分だとまた夕方とか、人が増えるタイミングでわーってお客さん来るんじゃないですか?果物、今のうちに仕入れといた方がいいんじゃないかな」


イルの提案に相槌をひとつ打って、自分用に剥いた桃を一切れ齧った。汁が滴るような桃も歯ごたえのがっしりした桃も等しく好きだが、これは完熟しているので柔らかい。イルと半分こして食べる間に誰も来なかったら客が途切れたと思って良いと思う。果たして客は来なかった。


「よし、一旦撤収」


手早く出しっ放しのあれこれをストレージに回収して家を収納。出しっ放しで仕入れに言っている間に所有権が放棄されたと見なされたら、おふくろさんに顔向けできない。昨日と同じくヨンの街へ。


顔をひきつらせている果物屋さんには悪いが、再び買い占める勢いで果物類を購入。昨日ほどの量が無い。当り前だ、いくらなんでも毎日生るわけがない。というわけで街を移動、サンの街、ニーの街、イチの街で果物を買いまわった。ただ、ヨンの街の果物屋を半泣きにさせてしまったので今度は半分ずつ買う事にしたけれど。儲かれば何でもいいわけじゃないな。


「あんまり長い事はできそうにないですねえ、この調子で買ってたらどの町の果物屋さんも売る物がなくなっちゃうんじゃないですか」


イルはイルで買い占めてしまいそうな現状を心配しているようだった。私もそう思う。


「明後日くらいまでやったら一旦止めよう。また果物市場が落ち着いて気が向けばやればいいし、ずっと忙しいのはちょっとな」


いや本当、ダンジョン探索と調薬の合間にちょっとやったらいいやくらいに思っていたのである。だから最初の仕入れでひと月くらいは保つと思っていたのだ。何がどうしてあんなに人だかりができていたのかさっぱりだ。


「俺もあれは……辰砂の手伝いでも何日かが精一杯ですね。ずっとは無理です」


「だな」


満場一致でかき氷屋は後2日、という事に決定した。このペースで行けば仕入れた果物はほぼ捌けるし、たとえ捌けなくても止める。残れば私達が食べればいいだけの話だ。期限を切ってしまえば気持ちも切り替わる、シノース火山へ三度向かうことにした。夕方あたりには営業を再開しよう。それにしても、忙しい割にポーションより儲からないなあ……



辰砂しんしゃ Lv.88 ニュンペー

職業: 冒険者、調薬師、魔法道具職人

HP:1455

MP:4280

Str:470

Vit:250

Agi:550

Mnd:630

Int:630

Dex:600

Luk:250


先天スキル:【魅了Lv.11】【吸精Lv.10】【馨】【浮遊】【飛行】【緑の手Lv.9】【水の宰Lv.15】【死の友人Lv.8】【環境無効】

後天スキル:【魔糸Lv.29】【調剤Lv.5】【鑑定Lv.7】【自動採集Lv.17】【自動採掘Lv.10】【魔力察知Lv.22】【魔力運用Lv.24】【魔力自動演算Lv.4】【冷蔵魔法Lv.9】【減衰魔法Lv.1】

サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.16】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.11】【調薬師の心得】【冷淡Lv.4】【話術Lv.8】【不退転】【空間魔法Lv.9】【付加魔法Lv.15】【細工Lv.6】【龍語Lv.8】【暗殺Lv.2】【料理Lv.11】【夜目Lv.4】【隠密Lv.12】【魔法道具職人の心得】【文字魔法Lv.25】【木工Lv.5】【蹴脚術Lv.16】【宝飾Lv.9】


ステータスポイント:0

スキルポイント:24

称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【龍人の標】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】【老職人の一番弟子】


イルルヤンカシュ Lv.1 龍人

HP:10000

MP:7000

Str:1000

Vit:1000

Agi:1200

Mnd:800

Int:800

Dex:1200

Luk:100

スキル:【水魔法Lv.30(Max)】【治療魔法Lv.5】【高速飛行】【強靭】【環境低減】【手芸Lv.26】【アヴァンギャルド】【風魔法Lv.29】【雷魔法Lv.28】【龍化】【身体強化Lv.3】【息吹Lv.1】【龍眼Lv.1】【人語Lv.6】


スキルポイント:13

称号:【災龍】【水精の友】【ツンデレ】【絆導きし者】


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