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131 かき氷

降って湧いたつまらないトラブルを片づけた後は、一旦宿に泊まることにした。果物をもっと買い集めたいが、もう夜だ。市場が開いていないと準備ができない。ささっと就寝ログアウトして、寝ることにした。ああ、夕飯を抜かしてしまった。深夜飯をする勇気はないので諦めよう。


翌朝、昨夜抜かしてしまった夕飯分もしっかりした朝食を摂ることにした。卵がそろそろ古くなってしまう頃だし、洋食風に作ろうかなあ。


野菜室を漁ったら使いかけのキャベツが出てきた。コールスローにしようかな。適当に千切りにして調味酢を適当に掛けて、しんなりしたら絞ってちょっとマヨネーズと胡椒を掛ける。手抜き?仕方ない、他に野菜も具もなかったのだ。冷凍のコーンでもあればよかったんだけど。


近所のパン屋で分厚く切ってもらった食パンを冷凍庫から出してきてトースターに放り込んだ。片方はプレーン、もう片方はチーズを載せる。最近のスライスチーズは焦げ目が作りやすくて見栄えがいい。


オムレツは牛乳を多めに入れたふわっとした口当たりが好みなのだが、生憎と成型技術は今ひとつなのだ。まあ自分用だしと割り切ってかき混ぜていく。半熟になったら上手い事くるっとしたい、うーん。ちょっと破れたけどまあ上出来だ。


上手い事トーストも焼けたし、プレートに全部持ったら出来上がり。珈琲はイルが作ってくれるから、今は紅茶にしよう。手早く食べて、洗濯機がアラームを鳴らすまで食休みとする。洗濯物を干したら7時過ぎくらいになるかな、丁度市場も開く時間帯だろうし中々上手い時間配分だ。自画自賛しつつ、大量のタオルと衣類をばさばさ干していった。それにしても∞世界を始めてから週末の生活が健康的である。全然寝坊しなくなった。


ベランダに布団まで干しきって、いざログイン。イルと朝珈琲でのんびりして、市場に買い出しに出かけることにした。朝市ってなんか掘り出し物が見つかりそうでわくわくする。


果物屋で大方買い占める勢いであれこれ購入。かき氷の器は小物屋で購入した。匙は木材からちょっと変形させて大量生産したからいらない。後はシロップの類だが、自動攪拌機があるからフレッシュ系は心配しなくてもいいか。練乳の類があった方がいい気もするが……そう言えばニーの街の西側に農場があったんだっけ。牛乳はじめバターとか生クリームとかチーズとか売ってもらえまいか?いやいや、成功してから考えよう。シンプルイズベスト。


ひとまず、最も重要な品々は揃っただろうか。鍋やボウルなんかも小物屋で買ったし、うん。では再びシノース火山へ行こう。


セーフティポイントまでは気を使う必要もなくイルが処理してくれるので、私は最深部に続く道をたどるだけで良かった。昨日意味も無くうろついていたおかげでマップ機能がしっかり記録を残してくれている。今日は30分と掛からずセーフティポイントに着いた。さて、適当に開けてあまり隅っこでないいい感じの所を探すか。


各々のパーティが自由に野営しているので、どれからも来易いところと考えると中央付近がいいのだが。どうも真ん中あたりは有力パーティが多い気がするので、かき氷屋が分け入るには敷居が高い。あまり端過ぎると人が来ないが、しかしどうせ店員は私とイルだけなのだし人が来過ぎればさばけないと思い直して隅っこの方へ移動した。


地面の大きな石を適当に取り除いて凸凹を均した。細かい凹凸は気にしない、床板を擦らなければいいのだ。これくらいかなと当たりを付けて、おふくろさん謹製の家を取り出す。収納の文字に手を当てて家を解放すると、思ったより存在感のある平屋が展開した。うん、いいね。目立つ。ここでカリスマさん御手製の刺繍のれんを軒下に引っかける――『氷』一文字、下側に波をあしらったアレである。


「あー、それはそうやって使うんですね。何するんだろって思ってました」


イルが感心したようにのれんを見ている。それを横目に作業台に自動氷削器と自動攪拌機を設置、作業台の側に大型冷蔵庫を据えつけた。焜炉は台所だから使うときに置こう。器と匙を積み上げた籠を作業台の下、良い感じに棚を作ってくれているところに置いて、これで一応準備は出来たかな?


とりあえず果物あれこれやら氷やらを冷蔵庫に収納していると、近づいてくる一団がいた。来客だといいのだが。


「いらっしゃいませ」


まだ向こう側の出方はよく分からないが、念のため挨拶だけはしておく。若干戸惑い気味のパーティだったが一人が代表して口を開いた。


「のれんが見えたんだけど、つまりかき氷屋ってことでオッケーすか?」


若者言葉が似合わない大男である。肯定を返すと、パーティは顔を見合わせた。


「メニューは今の所、白蜜とフレッシュフルーツのコンビです。果汁のかき氷は随時追加するつもりですが、一杯いかがでしょうか?500エーンです」


市販のかき氷シロップの味は全て同じで、色を変えているだけだとも聞くけれど。色付けの素材はまだ手に入れられてないので白蜜のみで勝負である。個人的には黒蜜も好きなんだけど、黒糖なんて何処で手に入れるのかさっぱりだ。


「えっと、フルーツってなんですかぁ?」


メンバーのローブを着こんだ女魔導師から質問が飛んだ。今日の果物はえーと?買い込み過ぎたので冷蔵庫を確認しようか。


「林檎、オレンジ、キウイ、夏蜜柑、スイカ、葡萄、ライチ、桃、無花果、ビワ、サボテンフルーツに洋梨ですね。ご指定がなければお任せで3種類つけますしお好みの取り合わせでも大丈夫です。フルーツ追加は1種類毎100エーンです。全部のせされると1000エーンでお得ですね、またフルーツ抜きでしたら200エーンです」


ちょっと買い過ぎたなあ。説明が面倒なので、メニュー表を作った方がいいかもしれない。聞いてきた女魔導師が全部のせ、男3人がフルーツ抜き、最初に声をかけてきた大男がオレンジ、夏蜜柑、ビワの取り合わせ。ビワが最初から出るとは思わなかった。


イルに自動氷削器の取り扱いを見せつつ、器に冷蔵魔法をかけて冷たくする。ちょっと持てばいいので15分くらいかな。これなら器1つにMP2で済む。器を回転させつつ、落ちてくる氷を綺麗に盛る。お椀をひっくり返したような形になったら一度白蜜を回しかけ、さらに上に氷を乗せる。山型になったらもう一度蜜をかけて、フルーツ抜きはこれで完成だ。


「じゃ、イル、今の要領でやってみてくれるか?あと2つが今のと全く同じだから」


「ん、任せてくださいー。面白そう」


自動氷削器の立てる軽快な音を背後で聞きつつ、果物の皮を剥いていく。冷蔵庫の上に物を置くのはあまりよくないらしいが、最初から置くために設計しておけば話は別だ。作業台にするために高さよりも幅を大きく取ったのだから。鼻歌を歌いつつそれっぽくカットして、冷蔵庫に戻す。丁度イルもかき氷を完成させたので、木盆で持って行ってもらう。


「お待たせしました。お一人あたり200エーンです、器はお返しください」


イルも丁寧語が板についてきたなあ。問題なく小銭のやり取りをしているのが見える。その間に3種盛りを作ろう、氷の盛り方はさっきと一緒だ、ただ後から果物を飾るだけである。オレンジとビワの色味が被っているので夏蜜柑を挟んでおこう。


「3種盛りのお客様、お待たせしました。500エーンです」


「結構沢山のってんじゃん、美味そう」


どうやら喜んでもらえているようだ。とは言うものの一人あたりの果物の使用量は大したことはないのだが。さて、では全部のせを作ろうか。果物の量がとんでもないので、氷を盛りつつ果物を埋めないといけないのだ。


「イル、これはすぐにできなくてもいいから。見るだけは見ておきなさい」


その日その日で果物は変わるし、常に同じ形に整えられるわけでもないので慣れが必要だ。基本的には全部のせは私が担当するつもりである。氷を適量盛っては各種果物を挟み、また氷を削る。ところどころ白蜜でしっとりさせつつまた果物を飾る。出来上がった果物全部のせはカラフルな山であった。うーん、お得感はあるがやり過ぎ感も半端じゃないなあ。


「お待たせしています、全部のせです。1000エーンです……ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


「わあ……これ凄くない?ねえこれで1000エーンってヤバい!頂きまーす」


喜んでいただけたようで何よりだ。どこから食べようか悩んでいる女魔導師の可愛い声を聴きながら、もう少し果物を剥くことにした。男たちの苦しむ声も聞こえるが、まあそれもかき氷の醍醐味だ。幸先の良いスタートが切れたようでよかったよかった。


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