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結局、運命ならば私が紹介せずとも出会えるはずだと言う些か乱暴な結論に落ち着いた私は、イチの街を引き上げてヨンの街に移動していた。グレッグ先生の依頼を放り投げていたことを、遅ればせながら思い出したためである。確かカストリと言う調毒師宛の手紙を預かっていたはずだ。


ギルドでカストリと言う人の居場所を尋ねてみると、街の北東側の他と離れた一軒家がそうだと教えてくれた。ここの受付嬢は、イルに全く反応しない。やっぱりゴーの街の受付嬢だけがおかしかったのか。あの人、担当替えられてないといいが。


「ねえ辰砂、こないだ沢山集めた草はいつ食べるんですか?俺結構楽しみにしてるんですけど」


イルが屋台の匂いを嗅いでそんなことを言った。そうなんだよなあ。食べたいのは山々なのだが、今のところ料理器具は初心者調理セット以外に持っていないのである。あれも調薬セットと同じく子供だましであったし。包丁の刃渡りが5センチっておかしいと思う。まな板はペラペラだったし。


「道具を揃えるのもありかな……ついでにそろそろどこかに拠点を作りたいけど」


全然返答になっていない私の呟きが聞こえたのか、イルはまだかかるのかとため息で返した。ごめんって。なんたって本職じゃないのだから勘弁していただきたい。そしてあれで正解を導き出したイルは私の事がよく分かっていると思う。


「あー、あれじゃないですか?なんか周りが不自然に荒れ果ててますけど」


しばらくして街並みが途切れた先にあったのは、唐突な荒地であった。正確には、一軒家に近づくほど荒れ果てた土地と言った方がいいだろうか。街側の土地には草も生えているのだけれど。これ、住んでいる人は大丈夫なのだろうか。


若干近寄りたくない気もしたが、さすがに足を踏み入れただけで死ぬような強烈な毒が蔓延していることはないだろうと家を訪ねることにした。これでカストリ氏が留守だったらとんだ無駄足である。


「入りなさい」


扉におどろおどろしいノッカーが付いている他はただの大きな家に見える。戸を叩いてすぐに入れと言われたので、素直にお邪魔することにした。家の中はグレッグ先生の薬品店とはかなり趣が異なっている。


「何の用かな。何を殺すつもり?」


開口一番衝撃的な質問である。とりあえず否定しつつ、グレッグ先生の手紙を取り出した。かなり変わった人のようだ。


「ええと、グレッグ=モグリ先生からお手紙を預かって参りました。投げつける毒に関しての仮説――」


「貸しなさい」


まだ全部説明してないのに、手紙がひったくられた。一瞬で手紙の封が切られている。調毒師と聞いていたけれど、もしかしてかなり手練れでもあるのかもしれない。


「ふーん。興味深いな」


便箋に目を通しつつ、カストリ――女史は背の高い椅子に着地した。背中の透けた羽根がぱたぱたと動いているのはわざとなのだろうか。


「なるほど、発案は君が。熊の愛弟子?へえ。ご苦労だね」


手紙を読み終えたのか便箋を畳んで、カストリ女史は椅子の上に立ち上がると腰に手を当てた。幼稚園児ほどの背丈だが、なにぶん座った椅子が高いので私と視線の高さが揃った。


「仕方ないから熊のお願いをこの僕が聞いてあげよう。面倒な頼みだよ、まったく。さあ僕は実験で忙しくなるから用が済んだならとっとと帰ってくれたまえ」


口ぶりの割にはとても嬉しそうに、カストリ女史は羽根を震わせて宙に浮いた。空中で身振り手振りをすると、合わせてあちこちの棚から材料が飛び出してくる。何ともファンタジーな空間をもうしばらく見ていたかったのだが、何かの塊が危うく顔面に衝突するところだったので諦めて家から出た。


「ああ、たまにここに来なさい。熊に連絡することもありそうだ。君は伝書鳩におなり」


と言う声を背中で聞きつつ、街に戻る。先生も人が悪い、カストリ女史が女性であるとか妖精であるとか大分変わってるとか、教えてくれても良かっただろうに。あと酷い研究肌で、本題を伝える前に質問はした方が良い、とか。


毒には結構興味があったのだが、まあまた来いとも言われたし。急ぐものでもないからまた次の楽しみにしようか。


折角街の端まで来たので、噂の火山にも行ってみようかと北門へ向かう。確か北と西に火山があったはずで、どっちが休火山だったかまでは聞かなかったな。まあ、どちらにも行けばいいだけのことだ。


火山に近づくにつれて、岩肌がむき出しになっていくのがわかった。植生がぐっと変わっている。薬草類が全然なくなってしまったが、代わりに何やら良さそうな植物類を見つけたのであれこれ採集した。真っ赤な実を付けた草は名前をトンガラシと言うようで、明らかに唐辛子である。思わず何本か採集してしまった。


火山がどんどん大きくなって、現実ではありえないがところどころに溶岩が穏やかに流れていたりする光景が広がってきた。周りのプレイヤーは暑くてたまらない様子だが、私はいたって快適だ。【環境無効】万歳である。


「みんな大分暑いんでしょうね、俺も【環境低減】なかったら服脱いでたかもしれないな」


イルも周りを見渡して、大分辛そうなのを見て取ったらしい。そう、イルも環境系のスキルが付いているので少々の過酷な環境ならばどんとこいなのである。すっかり忘れていたけど。


もう火山は目の前だ。イルが久しぶりに水を呼んだ――そんなにここの敵は手強いのか?


「いや、なんか暑苦しいので。気分です」


あ、そう。


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