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イチの街の宿屋に入ってすぐ、シュウジからメッセージが届いた。ポーションとマナポーションの作成方法を掲示板にあげても構わないかと言う内容だ。むしろ是非と返した。ずっと提供した方がいいとは思っていたのだ。掲示板でなくて∞世界内の情報屋とかあれば有り難いのに。掲示板が苦手なのは私だけなのだろうか。


溜め息を一度はいた後、イルが気を利かせてくれた珈琲を受け取る。落ち着く香りだ……


「ありがとう」


「どういたしまして。お疲れ様」


イルの労いが心に沁みる。しばらく無言の時間が流れた。


「……先生も辰砂も優しいと思いますよ」


道具を片付けきって、ストレージに収納した後。不意にイルが呟いたので、私は危うく聞き返すところであった。私が優しいとか聞こえたぞ。


「先生はそうだろうけれど、私のどこが?もう明日からは彼らに同行しないのに」


「だって、そもそも紹介だってしなくても良かったのに引き受けてあげたし。あの二人が、どうやって別人になったのか俺にはわかりませんけど……別人になった方がいいって示唆したんでしょ?それも立派な親切ですよ」


それはそうだけれど。本当に親切な人ならもっと親身に付き合うと思うんだが、と反論してみたがイルは首を振った。


「そんなことしたらよっかかられた方が潰れるだけです。親切なのと甘やかすのは絶対別です。男の方はともかく、女の方は甘やかすだけつけあがりますよ」


「……そうかな?」


「そうですよ。辰砂が気に病むことないです。あれは――、*****に、そっくりだ」


最後の、本当に小さな言葉だけは普段のイルの口調とはまるきり違って吐き捨てるような口調であった。その上、固有名詞の部分はレベルが足りなくて聞き取れなかった。私はただ、その言葉が聞こえなかったふりをした。聞かせたかったわけでもなかっただろうから。


その日は早めに休むことにして、翌朝、空が白む頃起床。現実世界で19時は今日の夜明け時である。私がいないと、ケインズも探すに探せないのだから早めに行って待っておこう。


今日は根を下ろしていられるので、露店マットを広げた。イルのクッションを目立つ位置に置いて、と。後はケインズが私たちを発見するだけだ。今日は根付を前面に並べ、投擲ポーションシリーズを後ろに並べた。ケインズが来たら、預かっていた袋を取り出すつもりである。


手持ちの石を殆ど磨き切ってしまったので、特にやる事が無くなってしまった。たまには情報収集でもやるかと、まだ読んでなかったゴーの街周辺の魔物図鑑と鉱物図鑑をめくる事にする。鉱物図鑑に黒真珠を載せるのは、心の底から異議を唱えたいところだ。


目星をつけつつ、行き交う人波をたまに見る。見た所でケインズを発見できるわけはないのだが、気分の問題だ。時折イルと言葉を交わしつつ、朝焼けを迎える。よし、約束の時間だ。


「――すまん、待たせた!」


ん?低い声が誰かに謝っているのが聞こえ、私は通りの方を向いた。カリスマさんばりの身長を誇る大男が広場に向かって走ってきている。均整の取れた体躯がギリシャの彫像のようだ。


「俺だ、ケインズだよ。辰砂だろ?」


彫像は自分の事をケインズだと名乗った。正直、前回の狼青年の名残がどこにもない。前回はどちらかと言うと出来上がってない少年みたいな身体だったのに、今回は出来上がり過ぎの感がある、いや率直に言うとボディビルダーっぽい。


「おはようございます。はい、辰砂です。ケインズさんは随分印象が変わりましたね」


ひとまず挨拶して、率直な感想を述べた。ついでにストレージから預かり品の袋を引っ張りだして露店マットを操作する。


「ああ、アレは作成の時にかなり弄ってたんだよな。今回は時間が勿体ないからやってないけどさ。あと種族的に背が高くなったし」


ケインズが自分を見下ろして、私を見下ろした。視線の合い方で、私はケインズの種族に思い当たった。そうだ、まるっきり印象は違うが私の知り合いに一人似た身体の人がいるではないか。


「もしや【最初の金剛力士・阿】では?ではこれ、1エーンです」


「おっ、よく分かったな。そうだよ。レア種族ってこんな優遇されてんのかってびっくりしたわ、なんかなまぐさ?は食えないらしいけどまあそんなん大したこととじゃねえ。おーこれこれ、サンキューな」


1エーンで袋をやり取りして、ケインズは愛おしげに袋を見つめた。それから袋から魔石を選って取り出し、こちらに突き出した。これは何でしょうか。


「お礼だよ!確か最初に露店で見てたの魔石詰め合わせだったろ?全部はやれねぇけど、お礼なら絶対これにしようと思ってたんだ。種類はこれだけでいいか?おっけ、じゃあこれ全部袋に詰めて、よし!一袋で1エーンな!」


意外な申し出に驚きつつも、頂けるものはすぐに貰った。いや正確には1エーン払ったけど。各種魔石が100個くらい詰まった袋をほくほくしながらストレージに仕舞い込み、立ちあがってケインズと握手を交わした。


「ありがとな」


「こちらこそ、お礼まで頂いてしまって。今度は頑張れそうだと言う事でよろしいですね?」


勿論、と言う力強い返答を聞いて、私は気になっていたことを聞くことにした。


「ところで生産職って何になるおつもりなんです?」


「ああ、機械作りたくてさ!自作のバイクで走り回りてぇのよ!だから分類的には――なんだろうな、整備士?」


多分整備士ではないだろうと思いつつも応援しておいた。フレンドがここ数日で1人から10人に激増している。我ながら交友関係が広がった、のだが。カリスマさんにケインズを紹介すべきかどうか、頭を悩ませる羽目になった。ウールちゃん、カリスマさん、ケインズの三つ巴、か……まいったなあ。


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