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しばし後。一体何と言って言いくるめたのか、上機嫌なユミエと疲れたシュウジの組み合わせが店から出てきた。


「グレッグ先生には謝りました。すっごい急いでやってくるんで、ほんとに申し訳ないんですがもう一回紹介してもらってもいいですか」


シュウジの頼みに頷く。噴水の前をうろついている旨を伝えるとシュウジがほっとした顔をした。


「よろしくお願いします」


もう一度シュウジは頭を下げて、ログアウトしていったらしい。続けてユミエもぶっ倒れた。二人の体をとりあえず壁に寄りかからせて、私たちは噴水前に移動しておくことにした。もしかしたら待っている間にケインズと会えるかもしれないし。今度はケインズは一体何になっているのだろうか?


待つ事2時間、現実世界では20分。ケインズとは出会えていない。これはやはり明日に期待だな。どこかで何かしらやっていると見た。夕方になってようやっと、ユミエとシュウジは私の前に現れた。今度は――鬼とエルフか。さっきとまるきり逆転した組み合わせになっている。


「お待たせしてすみません」


気まり悪げにシュウジが謝った。一緒に頭を下げたユミエは角が気になるらしく、しきりに感触を確かめている。


「行きましょう」


ユミエの種族選びに手こずったのかもしれないと思いつつ、謝罪をスルーして私たちは立ち上がった。イルは口を開こうとすらしない。うっかりユミエに絡まれるのが嫌なんだろうなあ。


再びモグリ薬品店へ。グレッグ先生には、とても習得できそうにないと言う事で、辞退させてもらったのだと言う。今度は男を連れて行くけれど、断られないといいなあ……


「やあ、今日は沢山お友達を連れてくるねえ」


グレッグ先生に、少なくとも表面上は気にした様子がない事にほっとしつつ、再びシュウジを紹介した。ユミエは申し訳ないけれど、店の外で待ってもらっている。下手をすると彼女は自分が別人になった意識すらなさそうなので。


「俺、絶対に立派な調薬師になりたいんです。どうかお願いします」


「うん、構わないよ。ところで君は僕の話が聞こえてる?」


「?ええ、はい。聞こえてます」


「うん、それなら大丈夫。じゃあ辰砂君が君の姉弟子だから、教えてくれることをちゃんと聞くんだよ。材料を集めておいで。ギルドに依頼を出しておくよ」


と言う、確実に先程の影響を匂わせるやり取りを交わした後、さっきと受ける依頼を逆転させて再びノース山へ向かった。ユミエは背負った大斧を握りしめて気合十分である。私はシュウジに、買っておいた初心者採集三点セットを押し付けた。


「えっ、これ」


「いいから。時間がもったいないから先に買っておいただけだ。それに調薬師になったら、すぐきちんとした道具を誂えざるを得ないんだからお金は貯めときなさい。後、彼女があまり離れたら呼び戻してくれるか」


「あっはい」


ユミエが兎を追いかけて遠くへ行きかかっている。私が呼んでこっちに来る気がしないので、シュウジに呼んでもらった。シュウジが見える範囲で戦わないと下手したら迷子になりそうだ。


先ほどもシュウジは逐一メモを取っていたけれど、文字通り別人になっているのでメモもやり直しである。切り取り方、根を痛めない、水で洗う――水魔法をきちんと習得してきていたが、魔法名が決まっていて、応用が利かないことが発覚した――等々、採集の基本を教える。


今度はシュウジはきちんと魔法が使える種族だったので、魔力で周囲を探って採集に役立てる技を教えてみた。険しい顔ではあるが、きちんと展開できているようだ。薬草類には魔力が通ることに驚いていた。おお、やはりこれが出来ると捗る。


ユミエが魔物と木を一緒くたに殴りつける他はいたって平穏な採集であった。とても可哀想な状態の木が打ち捨てられていたので、とりあえずストレージに回収して、根っこ側には緑の手をフル活用しておいた。回復すればいいのだが。


精霊さんに謝って、さっさとイチの街へ戻った。シュウジは今回も、祠には挨拶する旨をきちんとメモに記載していた。実に対照的な二人組だ。シュウジはユミエをフォローするが、逆はないらしい。出来ないのかもしれないけれど。


今回の薬草の品質は文句なしのAB混合であった。どうやら私も無事にお役目を果たせたようである。グレッグ先生も、言う事を逐一メモに取り、動作を食い入るように見つめる弟子の事が気に入ってくれたようで何よりだ。


さて、これで私はお役御免でいいだろう。シュウジに、採集面ではもう教えることがないので明日からは二人で行動するように伝えた。元からそのつもりでもあったし、出来るだけユミエと関わりたくなかった。いやごめん、私も聖人ではないのだ。苦手な人っているよね。


シュウジの一日目の授業が終わり、ユミエを伴ってギルドに向かわせた後。私は改めてグレッグ先生に頭を下げた。


「昼間は申し訳ありません。あれほど向かないとは思いませんでした」


「あっ、いや大丈夫だよ。僕も調薬師になって長いけど、今までの弟子にも色んな人がいたからね。残念だけど、話を聞いてくれない子たちは一人前になる前に辞めてっちゃうんだ。彼女も聞いてくれなかったから、ああ多分駄目だろうなって思ってたんだ、実は」


グレッグ先生は力なく笑った。


「指導者として考えてはいけない事なんだけど、ね。僕もまだまだ力不足だよ」


先生は窓の外に目を向けて、もう遅いから気をつけてお帰りと言ってくださった。私たちはお暇を告げて、言葉少なに店から出た。イルも私も、先生にかけるべき言葉は見つからずじまいだったのである。


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