踊り子と皇子
加筆は苦手なのでこれが限界でした。
「次は何処にいくの?」
「パレッティナよ」
私達は移動しながら躍りを披露する踊り子の一座。
次の場所はどんなところだろう。
そのときのあたしは、楽しみで仕方がなかった。
あの男が現れるまでは―――――
「熱心だな」
テントの外を見て、ニヤニヤと笑っている。
「座長」
「お忍び様、今日も来てるわよエブリア」
〈はやく会いに行けば〉と仲のいい踊り子が言う。
昨日はっきり断ったのに、また来たのか最近パレッティナという国に滞在してからよく来るようになった男、どういうわけか冷たくしても余計に会いにくるようになった。
はっきりいって変なやつだ。
『よかったね超セレブ様からご指名だよ!』
ちょうどこの国に滞在したのが三日前、一座のリーダー的存在の踊り子からあたし当ての客がいると紹介された。
しかしあたしはそんな不純な真似をするためにここに来たわけじゃない、純粋に踊り子に憧れたから入ったのだ。
たとえ金にこまったとしても、舞台以外で媚びるなど死んでもごめんだ。
『そういうことはお断りしてます』
言い寄る富豪の誘いを全て断るとおとなしく引き下がってくれる。
いつもならこれで一安心なのだが、ただ一人断っも引き下がらないしつこい男がいたのだ。
『皇子さま、こればっかりはご自分で口説いてもらわないと…』
座長は困ったように皇子とやらを宥める。
『そこをなんとか彼女とお話だけでも…これ、ああ、つまらないものですが』
まっすぐきれいな白髪の男は、金品の沢山はいった袋を両手に、必死に座長に詰め寄っていた。
『金をいくら積まれてもですね…』
座長は昼間からお酒は飲むけど不当な賄賂には屈しない、けっこういい人だ。
だいたい、もし彼が性格の悪い人間ならあたしはここにいないだろう
座長と交渉する彼を、他人事のように見ながら―――――
どういうわけか次の日も男は懲りずに来た。
「ではあらためて本人に聞いてみてくださいな」
座長はあたしに気づいていたらしく隙間をから目が合う。
というかあたしのことだったのか、最悪である。
「ようやく会えましたね氷結に聳え咲く華よ…」
なんというか変なネーミングをされたのだが、実に迷惑な客だ。
「ここだけの話、僕はある国の皇子なのです」
どこぞの国の皇子がお忍びで踊り子漁りだと?
それをあっさりただの、一踊り子に言っていいはずない。
「皇子様、お城を抜け出して大丈夫ですか?」
だいたい皇子様が城を抜け出して遊び歩くなんて、城の人達が気の毒だった。
「大丈夫です今日は、ちゃんと言って来ましたから」
今日は、ということは
よく外出をできたものだな、そんな感想しか浮かばない。
「普通に踊りを見るだけならいいんですけどね…」
外見だけなら落ち着いて、教養がある皇子のようだが、この分だとまともに踊りに興味があったわけではなさそうにみえる。
「正直に言います踊りはまったくわかりません」
どう誤魔化すのかと思ったが意外とあっさりバラした。
「さらに言えば初めに踊りに興味があったわけではなく貴女に会いたくて来ました」
彼が本当に皇子で、踊りが観たいと思ったなら城に呼ぶのが普通である。
踊りに興味がないと言われて不快に思うどころか、必死に笑いを堪えている座長。
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『また会いに来てもよろしいでしょうか?美しい貴女に』
――――あたしの答えはきまっている。
座長だってわかっているはずだ。
『お熱いなエブリア』
どうしてそうなる―――!
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「ちょっとぉきいたわよぉスノーズ様のお誘い袖にしたらしいじゃないのぉ!あんたくらいの美人ならぁ側室も夢じゃないわよぉ?」
話し方がカンに触る彼女だが性格は悪くない。
というかスノーズと言うのかあの男。
「それは興味がない、踊りがあたしの生きがいなの」
だいたい城に籠って側室生活などつまらないだろう。
そもそも側室なんて半端な立場、
にはなりたくはない。
退屈していた時、偶然町で公演していた一座を見かけ、美しい踊り子に惹かれて自分から頼んで入った。
今では天職だったらうれしいとさえ思うほどになっている。
次の踊りの練習があるのに浮かれ皇子の相手などしている暇はない。
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「…また来たんですね」
皇子はテントの前でニコニコとしている。
「今日、ここを出ると聞きまして」
だれがそれを教えたか、座長に違いない。
この国の男は白い髪ばかりで見飽きているが、さすがに彼は皇子の風格のようなものがあった。
しかし彼はそこそこどころか異様に自由そうな立場に見えるので三男坊くらいだろうか。
「どうかしました?」
スノーズ皇子は笑顔のままこちらを見ている。
「皇子、これから問う事で誤解しないで頂きたいのですが」
思いきって、第何皇子か問うことにした。
「こんな質問をなさるとは…まさか僕の妻になってくださるとか!?」
やはり勘違いされてしまった。
はじめに断りを入れたのに無駄だったか―――
「貴女が王宮に入るのを拒むならこちらが貴女について行けばよいのでは?」
何を言い出すんだこの皇子
「第三皇子です実際は兄が3人いるのですが…」
彼は四男なのに第三皇子。
何やら事情がありそうなので深くは聞かないでおこう。
「兎に角、後継ぎには優秀な兄がおります」
後継ぎじゃないからといって、一座についてこられるわけがないだろうに頭が霜焼けをおこしているのか凍傷皇子。
「こんな太陽の照る国に雪なんてないですよ」
なんでわかったんだろうまさか顔に出ていた?
「後継ぎにはならないとはいえ皇子が城を抜け出していいとは思えないのですが」
テントの中に去ろうとするあたしをスノーズ皇子が引きとめる。
彼がいつもとは違う雰囲気をまとい、真剣な表情になり、驚いた。
「貴女が踊り子を辞めたくないのはここ数日で痛い程わかりました」
あたしはこくりとうなずき、肯定した。
「だからついていきたいのです」
スノーズ皇子はあたしの手を握り何かを握らせる。
「僕にとって貴女の命の次に大事な物です」
「王宮の宝かなにかですか?」
さすがは皇子、豪華そうな首飾りだ。
「母の肩身なのです」
つまり肩身をやるからついていかせろと言うことか、それはすごく重い。
「…お気に召されませんか?」
スノーズ皇子は不安気に荷物を漁った。
「これは受け取れませんただの踊り子には荷が重すぎる」
あたしが断ると、首飾りを受けとりスノーズ皇子は残念そう俯いていた。
「だから何も受け取らない…でも貴方を名前で呼んでいいならついてきてくれてもいいですよ座長が許可をくれたら」
肩身は受け取れないが、多分彼の身柄くらい構わないだろう。
「ありがとう…エブリア!」
スノーズに勢いよく抱きつかれそうになるのを避けた。
「そこに誰かいる?」
さっきから近くで気配を隠している男が居たので、暗殺にのだと思っていたが一行にその素振りがなかった。
つまりスノーズの護衛か何かだろう。
「お見事、と言いましょうか」
青い髪の青年が姿をあらわした。
「クリアさん…どうしてここに?」
スノーズは気がついていなかったようで、クリアという男の登場に驚いている。
スノーズは、はっとして首飾りをクリアに手渡した。
「そうだこの首飾り、兄上に『王家の伝説の宝』とでも言って渡してくれませんか?」
スノーズはニッコリ微笑む、腹黒いのか素なのかはわからないが、顔も知らない兄皇子が哀れだ。
「貴方も中々黒いですね…わかりましたスノーズ殿下の最後の頼みですから」
そんな根性の別れのような事を言われても困るだろう。
「そのような不吉な発言は、戦に行くわけではないので」
「ああこれは失礼しました」
それからすぐに皇子もついて行く許可をもらって、私達は次の町へ移動した。
「皇子が城を抜け出すなんて物語だけにしてもらいたいわ」
「僕にはよく似ていると言われる叔父上がいるのですが、叔父上もまた城を抜け出し衣装屋を営んでいるそうです」
先人がいた――――――。
―――――
「大変ですカラーズ皇子!スノーズ皇子がお戻りになりません!!」
兵士はカラーズの前で慌てふためく。
「…なぜ俺の周りにいる奴は禁断のロマンスに走るんだ…」
カラーズはため息をつく
「まあよい…この国はいずれ滅びる宿命ということなのだろう」
幸せになれスノーズよ。