僕に出会った僕
「おい、起きろよ」
やだよ。まだ眠いんだ。
「起きろってば!早くしろよ!」
うるさいなあ。
「起きろってばよお!望!」
バシッ!!!!
「いってえ!何すんだよ!」
痛みに飛び起きると、目の前にふくれっ面の僕がいた。
「やっと起きたか。早くしないと遅刻だぞ」
確かに、早くしないと遅刻だ。
しかも、今回遅刻したら、おめでたいことに二十回目の遅刻だ。
でもちょっと待て…。
「お前誰だよー!!!!!!!」
僕は僕に向かって思いっきり指さした。
「何言ってんの、お前。俺は倉橋望だよ」
くらはしのぞむ…。
何処かで聞いた名前だなあ。って…。
「それ僕だからー!!!何言ってんのってお前が何言ってんのお!!!」
倉橋望と名乗る僕そっくりの男は、迷惑そうに顔をしかめた。
「俺は倉橋望。十七歳。高ニ。彼女なし。今は学校に遅刻しそう。そんでお前も、倉橋望。十七歳。高ニ。彼女なし。今は学校に遅刻しそう。オッケー?」
オッケーだけどさあ。
僕、理解できない。
「お前、置いてくから。このままじゃ俺もお前も遅刻。じゃ」
そう言って、倉橋望と名乗る男は僕の部屋から出て行った。
僕は頭を掻きながら、時計を見る。
八時。
遅刻だ。完璧な遅刻だ。
ベッドから抜け出して、着替えを始める。
そういえば、さっき出て行ったあいつもこの制服を着ていたっけ。
そして、僕は一つの考えを思いついた。
階段を駆け下りて、その考えを口に出した。
「母さん!僕って、もしかして双子だった?」
母さんは僕を数秒見つめると、優しくこう言った。
「望、あんた、どっかぶつけた?あんたに双子の兄弟なんて、いたことあった?」
僕は少し考えてから答えた。
「無いね」