少女達に与えられた課題
百年戦争によって多くの大国がなくなり、新たに4人の指導者たちが現れ
パール・ルビィ・サフィア・クォ―ト
と4つの種族に分類されたのは、今からもう百年も昔。
ちなみに私、シャルル・ロワイナーはパールであったりする。
§ § § § § § § § § § § §
「ん~なんで私ばっかり怒られるのかな~」
授業中、美人で怖い学園のマドンナで有名なロワージ先生にこってり怒られた私はため息をこぼしながら次の授業 カナリア先生の講義 へと向かっていた。
隣ではこの学年でもトップの成績で私の親友のハルカが笑いながら私の話に耳を傾けている。
「それは仕方ないじゃない。シャルが授業中なのに堂々と寝ているのが悪いんだから。」
「…だって昨日徹夜で人形作りしてたんだもん」
ふてくされた様子でそういうと、彼女は驚いたように目を大きく見開いた。
「!なんで人形作りを…!!それは 人形師連盟 で禁止されていることじゃない!」
「…まぁそうなんだけどね。」
彼女の言った人形師連盟とは、先ほど言った4つの種族のそれぞれの人形師の決まりごとを管理している組織。
そこでは、私たちのような未熟な人形師は監督の許可なしに人形を作ることは禁止されている。
なんでも、百年戦争で使用された戦闘用人形が制御しきれずに人間やマスター(人形師)に危害を加えたことが史実に残っているからだ。
「…それは分かっているんだけどね。私、早く自分の人形を作って、この学校のみんなを見返したいんだ。」
「…シャルのやりたいことはずーっと前から知ってるよ。その気持ちもよくわかる。でも、規則を…」
ハルカが悲しそうな瞳で何かを言おうとしていたが、それを遮るように次の授業を告げるベルが鳴り響いた。
「ほら!授業遅れるよ。次はカナリア先生じゃん」
私がそう言って教室に向かって走ると、ハルカも言葉を呑みこんで私を追って走ってきた。
カナリア先生は遅刻に厳しい。
急がなきゃ!
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「…なんとか間に合ったね…」
「ほんと…」
なんとかベルが鳴り終わる前に席に着いた私たちは、肩で息をしながらカナリア先生の言葉を待った。
カナリア先生ことレーニア・カナリアはロラージ先生までとはいかないがそれなりの美人で、男子生徒からは高い身長と、豊富な胸が人気だ。
ちなみに収集癖があるのか、カーディガンの色が赤青緑…と毎日変わる。
今日はピンク色のようだ。
「はい。ギリギリの方もいたようですがみなさん着席したようですね。ではみなさん起立してください」
30人ほどの生徒たちが居る教室にカナリアのように高い彼女の声が響く。
それと同時に、私たちは一定のリズムで起立をしクラスの委員長クリア・ハイネスが桃色の髪を耳にかけるしぐさをしながら「礼」と言う。
それを合図に私たちは一斉に礼をする。
満足げのカナリア先生を横目に席に着くと、講義が始まった。
「皆さんもあと3カ月ほどで、高等部生ですね。高等部生といえば人形師連盟から直々に人形作りを許可されます。というわけで今回の講義は基礎の人形のパーツから。」
カナリア先生がそう言い教室を出て行ったかと思うと、今度は自分の人形と共に再び入る。
彼女の人形は学校でも有名で私も少なからず知っている。
ほら、周りの女子生徒たちなんて色めき立っている。
まさかの
「レオン・カナリア様!」
ハルカまで。
「うふふ。みんな知っているでしょうが これ は私の人形のレオン。今日は講義を手伝ってもらいます」
そんな生徒たちをさも当然のように見たかと思うと、彼女は執事服のレオンに指でさしずし、何かを取ってこさせた。
私はそれを虫唾が走る思いで見つめる。
自分には分からないのだ。
自分が丹精込めた人形を、自分の分身ともいえる人形にそんな指図をすることが。
周りのみんなはその様子をキャーキャー言いながら傍観しているが、この様子になにも違和感を感じないなんて。
机に肘をつきながらその様子を死んだ魚のように見つめる。
鬱陶しい自分の長い髪を手でくるくるしながら時間を過ぎるのを待つ。
するととなりの席で騒いでいたはずのハルカが「どうしたの?」と尋ねてきた。
どうやら先ほどの騒ぎはもう収まり、本題に入っていたようだ。
カナリア先生とレオンは、前の机でたくさんの宝石を説明している最中だった。
「あなたたちがまず一番初めに作ることになるのは自分のパートナー。人形の瞳は多くの場合が宝石を使用しています。ここに並べたのは私がよく用いるものです。宝石にはそれぞれ意味があります。自分が人形に一番求める要素が強いものを使うとそれに近くなります。」
それを聞いて一人の少女が手を挙げた。
大きなリボンを頭につけ、学校一可愛いと有名なローズ・ユメリアだ。
カナリア先生に指をさされ彼女は声を発した。
「ではレオン様は何の宝石を身に着けておられるのですか?」
およそ中等部生とは思えないとてもかわいらしい声が響いたかともうと、今度はうっとりするほどの美声がかえってくる。
レオン・カナリアだ。
「僕の瞳はアクアマリンです。聡明・勇敢・沈着などの意味があります。」
にこりと頬笑み、レオンはローズにそういった。
この頬笑みで今何人の女子が落ちたのだろう。
そのほかにも沢山な宝石が並べられており、生徒たちはみんなそれぞれの意味を聞いては未来の自分のパートナーに思いを寄せていた。
その様子を横目に私がこっそり教室を退室したのをハルカは見逃さなかった。
「シャル!」
こっそり退室したはずなのに、後ろからは私を呼ぶ声がした。
ハルカだ。
ここら辺では珍しい黒髪を風になびかせながら私のもとに彼女は走ってくる。
「なんで?まだ授業あったでしょ?」
私がそう問うと
「まぁ、あんな基礎中の基礎だいぶ前に予習してるしね」
とさすがトップの言うことは違うなあと思っていると、急にハルカが真剣な表情をして私の手を握った。
「…さっき、途中で話途切れちゃったよね?」
幼いころからの付き合いのハルカだがこんなに真剣な面持ちは見たことがなかったので、私は思わず口をつぐんでこくんと頷いた。
「…シャルさっきもカナリア先生のレオン様への態度見て不機嫌になってたよね。…私も分かるよ。シャルが人形を作って一刻も早く人形の扱いを変えようとしていること。でも人形師連盟の掟を破ってしまったものの末路は…」
「やめて!」
そこまで言った彼女に私は大声でそう言った。
幸い、宝石の話題で盛り上がっていた教室にこの声は届いていなかった。
ハルカも私の大声を聞き、落ち着きを取り戻し「ごめん」と一言言った。
鉄格子に囲まれた窓を見上げるともう空は夕時をしらす月が上がっていた。
私たちはそのまま教室を後にすることにした。
§ § § § § § § § § § § §
人形師育成学校は太平洋に浮かぶかなり大きな人工島にある。
入学した際、生徒は卒業するまで外部との接触を禁じられるため生徒たちは種族別の寄宿舎に寝泊まりすることになる。
パールの私とハルカは、人工島の西側にあるパール寄宿舎に行く必要がある。
不平等を生じさせないため学校から東西南北同じだけ離れたところに建てたということを入学式のときに聞いたような気がする。
寄宿舎に帰ると、先ほどの授業に受けすらしてない悪ガキブラッツ・グリーンがシェアルームのソファにどかっと腰を据えて何やらパイを頬張っていた。
「ブラッツ!あなたまた授業サボったでしょ!あれだけ受けてって言ってるのに!!」
ハルカがぷんぷん湯気を出しながら怒ると、さすがのブラッツもうろたえて
「…授業なんて受けなくても、俺いちよーお前の次に頭いいんだぜ?」
と言い訳を始める。
そして怒るハルカにそのパイを差し出す。
「!これ…dolltownのどんぐり亭の限定アップルパイ!!」
dolltownとは人形師育成学校の区域に隣接する商店街のような場所。
外部との接触を禁止されている生徒たちを思っての学校側の配慮でつくられた。
そしてそこで一番の人気のケーキ屋さん どんぐり亭 の限定アップルパイはその日の昼には完売と言う人気商品なのだ。
それを差し出されたのだ嬉しくなるのも無理はないのだが…
「ねえ!ブラッツさっきから私のこと忘れてない?」
あまりにもハルカとブラッツが私のことを忘れてほのぼのとパイを頬張りだすものだから私はそう突っ込む。
すると案の定
「お~忘れてた」
と言いながら青色の短髪を揺らし私にもパイを差し出してくれた。
…女子からも人気があるイケメンさんなので、もう少しふるまいをどうにかすればいいのに…と言いたいが、なにせ授業中に居眠りをする少女ことシャルルなので、そんなこと口が裂けても言えないが。
ブラッツから受け取ったパイを口に運ぶ。一口食べるだけでパイの中に入った欠片のリンゴが溶けて甘さが広がった。
「おいし~」
と一言呟き、そのあとは無我夢中で貪りついた。
ブラッツが「せっかくの可愛い顔が台無しだぞ~」なんて言葉も無視して。
先にもらったハルカなんてもう食べ終わってるし。
美味しく食べ終わったパイの礼を彼に言う。
「ありがと。ブラッツさっきまで私たち雰囲気悪かったんだけど、あんたのおかげだよ!」
「ほんと!ありがとねブラッツ。でも、明日は授業でなさいよね。」
二人して彼にお礼を言うけど、ハルカは最後まで念を押している。
時計を見るともう6時30分だった。
夕飯は8時でこのパール寄宿舎の寮母さん達が寝泊りをする生徒500人達の分を作っている。私たちは中等部生なので中等部の食卓にいってその料理をいただく。
「ハルカ!速く部屋に戻らないと用意できないよ!」
「いっけない!」
生徒たちは料理の前に制服から着替え、その寮専用の部屋着になる必要がある。
ブラッツに別れを告げた私たちは目の前に続く階段を3つ駆け上がった。
そして303というプレートを見つけた瞬間、扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。
ガチャリ
という音とともにドアノブをひねり、それと同時に中に足を踏み入れた。
私とハルカは同じ部屋なのだ。
「ほんと、こういうとき同じ部屋って便利だよね。」
私のこの問いかけにハルカは黙って頷く。
優秀な彼女のことだ。
今は夕食の時間に遅れない!ということで頭がいっぱいになっているのだろう。
彼女をみならって私も黙って制服のリボンに手を掛けた。
シュルッと床に落ちたリボンを拾い部屋のクローゼットから部屋着を出す。
パールの部屋着は、名前の通り宝石のパールのように白を基調としたものになっている。
「だからってふんだんに白を使うのはどうかと…」
自分の髪が金髪で青い瞳のため、こんな白い服を着れば訳が分からなくなる。
おまけにリボンが大量についているし。
そんな文句を言うと
「え~シャルはえーっとフランス人形みたいに可愛いんだからいいじゃない。私なんて黒髪で映えないもの」
彼女の言葉を聞いて私は笑った。
人形。
昔から何度となく言われた言葉。
思えば私が居眠りをしてみたり、授業をさぼったりするのもその人形みたいという言葉を聞きたくないからなのかもしれない。
だって、その言葉は人形師になりたいと思っている私が…いや今はやめておこう。
§ § § § § § § § § § § §
部屋着に身を包んだ私は部屋のもう一つ上にある4階の食卓ルームへ行った。
お風呂にも入ったので体もぽかぽかだ。
用意された食事に目を奪われつつも席に座る。
誰からともなくいただきますの声がし、私たちもすかさず「いただきます」と言ってスプーンをてに取った。
大好きなシチュー。
クリーミーな味わいがたまらない。
先ほどパイを食べたばかりなのに、嘘のように胃の中におさまっていくシチュー。
ハルカもそれは同様のようだった。
誰も会話をせず、無我夢中にスプーンでシチューをすくうカチャカチャという音だけが響いた。
そんななか、寮母さんが私たちのもとにやってきた。
「シャルルとハルカ。お前たちに校長先生からのお呼び出しが下ってるよ。後で行ってきな。」
その声と同時にカチャとまたさっきとは違う音が鳴る。
ハルカだ。
「…どうしよう!今日のが…」
顔を青くしてそう考え込んでいる。私はというと毎度のことで慣れっこだが。
とにかくハルカを落ち着かせ残りのシチューを掻きこむ。
おかわりもしたかったが、それはハルカに激怒されるだろうと我慢することにした。
寄宿舎の扉を開き、まだ寒さの残る外に一歩足を踏み出す。
ハルカは尋常じゃなく震えているがきっとそれは寒さからではないのだろう。
校長室はこれまた公平のためどこの種族の寄宿舎からも同じ距離に建てられている。
なので必然的に学校の近くになるのだが…
「何度来ても迫力あるよね~校長の人形さん?」
さすがに校長になるとSPもつけるのか知らないが必ず顔を合わすのが坊主頭の色グロ野郎。
何と私が何度話しかけても口を利いたためしがないのだ。
そして今回もそうで、厳重に閉じられた門を開けてくれたかと思うと、さっさと私たちを中に入れ、また門を閉め元の定位置に戻った。
いちいちこんなことに気にしている自分もバカだとは思うが、人形と人間は意思を伝え合う必要があるのだ。
私の夢を現実にするためにも。
ハルカをつれ見慣れた校長室に足を踏み入れる。
コンコン
とノックをすると、あんな厳重措置に似合わないのほほ~んとした雰囲気の男性の声がした。
「は~い入っていいよ~。」
それと同時に今にでもぶっ倒れてしまいそうなハルカを支えながら部屋に入った。
そこには
「やあやあ!久しぶりだねシャルルさん。クスノキさん。」
季節外れのサンタクロースのようなおじさんが、どしっと椅子に座ってお出迎えしていた。
§ § § § § § § § § § § §
「いきなり何なんですか?校長先生」
私が強気でそういうと、ハルカが慌てて口をふさいで来た。
校長はというと相変わらずのほほ~んとした雰囲気で私たちを見ている。
そして、ふうっとため息をついたかと思うと、
「実はね…」
と何かを話し出した。
ここからが本題のようだ。
「今回はシャルルさんとクスノキさんを罰しようと呼んだわけじゃないよ。実は3ヶ月後に君たちが高等部にいくその日にクォート本拠があるアフリカ地方で dollcontest があるんだ。だから君たちには今日からそれに出場する人形を作ってもらいたい。勿論、人形はパートナーが居ないと使いものにならないから君たちもアフリカに行ってもらうが。」
校長の 使いものにならない という言葉に少し苛立ちを覚えたが、私はその話を聞いて目を輝かせた。
しかしハルカは
「…ですが私たちは 人形師連盟 で決められているように、人形を作ることはできないのでは…」
と不安をのぞかせている。
「心配いらないよ。監督がOKを出した場合は除くと書いているのだから。」
そう言った校長の言葉を聞いてハルカは安心したのか私のように喜んだ。
いよいよだ。
いよいよなんだ。
やっと私の夢が!しかもコンテストにださせてもらえる。
さっそく今日中に取り掛からなきゃ。
頭の中では人形の完成図はできている。
宝石も。
後は形を作るだけ。
私はハルカの手を取って言った。
「絶対最高のパートナーを作ろうね!」
「ええ!」
そんな私たちの様子を校長があんな思惑のこもった瞳で見ているなんて知らずに。
§ § § § § § § § § § § §
「いいのですか?校長。」
隣で先ほどの彼女たちの様子を見ていたロワージが言った。
おそらく問題児と世間で言われている彼女シャルル・ロワイナーを出場者に選んだからだろう。
「いいんだよ。君はまだ分からないだろうが彼女ほど今回に必要な人材はいないよ。」
そう、彼女ほど。