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出会い→依頼→嫌な予感(5)

「──ねぇ、リュウトさん。しっかり説明して欲しいかな?」


 そして現在時間、お帰り思考回路。

 まさか髭達磨の方が正しい認識を持っていたとは、毛髪を失った代わりに教養を蓄えたとでも言うのか……いや、教養とはちょっと違うな。ただの危機管理能力か。

 いやいや、そんな事は今はどうでも良い。重要なのは今への対応だ。


「あぁ、オーケー。まず、この子はルイス。今朝、グランサスに向かう途中で知り合った」


「そうなんだ」


「ルイスは、賊にお祖母(ばあ)さんの形見を盗まれた。それを取り返す為に協力する事にしてフィリンダに案内したんだけれど、ルイスは金を持ってなかった……ここまで良いか?」


「そうなんだ」


 あっれー? さっきから同じ表情から同じ口調で同じ台詞しか出てこないのですが本当に大丈夫ですかー!?


「で、ですから、ね? だったら、今晩くらいは我が家に泊めてあげますのが最低限の責任感と言いますか……そう思いません?」


「うん、そうだね」


「成る程確かにそのような意見もあるとは思い……あれ?」


 ついさっきまで変化が無かったアリスの表情は、既に和らいだ物に変わっていた。その急激な軟化に俺が混乱していると、自然な笑顔を浮かべたアリスが包丁を置いてから近付いてくる。


「えへへ、実は最初から怒ったりしてないんだけど。流石に色々突然だったから、ちょっとだけ意地悪しちゃった。ゴメンなさい、リュウトさん」


「……そ、そっか。何か色々安心した」


 そうか、演技か……にしてはやけに真実味があったと言うか、恐怖感が尋常じゃなかったような……うん、元々そのつもりだったけど、アリスの事を一途に大切にしよう。絶対にそうしよう。

 そんな俺の密かな決意は知る由も無く、アリスは俺の後ろで成り行きを見守っていたルイスに向かって笑顔で話し掛ける。


「初めまして、ルイスちゃん。私はアリスって言います。よろしくお願いしますね」


「……ん。ルイス・フラッドライア……よろ、しく」


 アリスが差し伸べた右手に、ルイスもゆっくりと手を重ねる。この雰囲気なら何とかなりそうだ、と胸を撫で下ろす俺の横で、二人の会話は続いていく。


「えっと……私は一七歳なんですけど、ルイスちゃんは何歳ですか? 印象としては少し年下、くらいだとは思うんですけど……」


「……一三歳。結構、年下……敬語、使った方が、良い?」


「あ、それは気にしないでください。私も敬語は使わないように…………一三歳?」


 そこでアリスの言葉が不意に途切れて、視線が顔ごと上へ下へと往復。やがてルイスの中腹やや上に存在する質量兵器に視線が固定されて三秒経って、アリスはゆっくりと俺の方を向くと、そのまま胸に体を預けてきた。


「……ねぇ、リュウトさん。しっかり説明して欲しいかな……?」


「何に関してかは何となく察しているけれど、俺に聞かれても答えようが無いですよ? 強いて言えば個人差としか表現不可能だ」


「……リュウトさんも、やっぱり、その。お、大きい方が……嬉しい、の?」


 (すが)るような上目遣いでゴニョゴニョとそんな事を聞いてくるアリスに、俺は首を傾げながら正直な感想を告げた。


「……そんなに重要な事か? 確かにルイスの大きさには驚いたし、まぁ、視線が誘導されちまうのも仕方無いと思うけど。俺はアリスの事が好きだから、アリスの全てが可愛いし魅力的だぞ? それじゃ駄目か?」


「え、わ、にゃっ……」


 素直にベタ褒めしたら、アリスが久々に顔を真っ赤にしてフリーズしてしまった。もしかして、アリスが期待していた回答の五割増しでお届けしてしまったのだろうか。まぁ、だからってマイナスに影響する事は無いだろうから大丈夫か。

 ともかく、このまま丸く収まりそうか……と思っていると、誰も居ない筈の玄関から唐突に声が飛んできた。


「……なぁリュウト。全体的に面白そうなこの状況にどんな展開で辿り着いたのか説明してくれ」


「なぁレイジ。まずは何故お前が唐突に現れたのかを説明しろ」


竜鱗城(りゅうりんじょう)からお前に協力するように要請があったから打ち合わせに来たんだが、まさかこんな状況に鉢合わせになるとはな」


「……あぁ、それがあった。とりあえず、ざっと説明するか」


 ……。

 …………。

 ………………。


「……成る程。リュウト、一度お焚き上げされてこい」


「それ即ち火葬と同義なんだけど分かってる?」


 何が悲しくて燃え盛る火の中に自分の命を放り投げなきゃならんのだ、そこまで(けが)れてねぇわ……多分。


「まぁ、話は大体分かった。ところで、ルイスで構わないか?」


「……ん……何?」


 ルイスが小さく頷いてから首を傾げると、レイジは数秒考えてから問い掛けた。


「──俺はお前が何者なのか見当が付いたし、ペンダントがどんな物かも推測は出来ている。リュウトにそれを話したとしても悪い向きに態度が変わる事は無いと断言するが、それでも素性は隠しておいた方が良いのか?」


「……、……ん」


「そうか。だったら俺もそれに乗ろう」


「……あり、がと」


 ……え、何の話だったの今の? レイジの超解釈思考能力が備わってないと何も理解出来ない領域だぞ。


「レイジ、ルイスが何者なのかって」


「見たままのロリ巨乳だ、それ以外に何か?」


「絶対に一番浅い部分の情報だろそれ! つぅか待て、ロリ巨乳という熟語(?)は一般に普及してる類なのか!?」


「え、ご存知ない?」


「あっれーどうして俺が非常識サイドに置かれようとしてんの? 非難されるべきはそのまま受け取っても単語に分解して考察しても二律背反な属性の重複を欲張りに願ってそんな言葉を開発した変態紳士の方じゃねぇのかよ!?」


「いや、ロリババアよりは現実的な存在だろう。向こうは最早幻想種だ」


「成る程、全く分からん。そしてこんな話をしていたわけでは無い筈だ」


「ルイスは素性を隠したままでいたいと願った。それを聞いた俺が話すとでも思っているのか?」


「あー……まぁ、だよな」


 そもそも、特に隠すような内容じゃないなら言うにせよ言わないにせよ、わざわざ確認を取る必要は無い。つまり、レイジが推測したルイスの素性は「少なくとも一般人ではなく、軽々しく(おおやけ)にするのが躊躇われる」内容だという事だ。そして、ルイスが種明かしを拒んだ以上はレイジが口を割る事は無い。


「まぁ、ルイスの素性は『困っている女の子』だしな。犯罪以外のオプションが上乗せされたとしても俺が力を貸す事は変わらねぇから、そこはどうでも良いか」


「まぁ、ある意味では超弩級(ちょうどきゅう)の犯罪誘発オプションを搭載しているがな」


「ルイス本人に罪は無い、周りの男が悟りを開けば良いだけだ」


 俺とレイジの言葉の応酬に、ルイスは「……?」と首を傾げるばかりだった。怖い、純粋過ぎて怖い。


「ところでリュウト、ルイスを泊めるのは別に構わない。が……ルイスはどこで寝るんだ?」


「ん? そりゃ……ちょっと待て」


 現状個室として機能しているのは二部屋。俺とアリスが使っている。そもそも客人用の布団の用意なんて無い。なら俺がリビングのソファを使って……ルイスが俺のベッドを使う? それも何だか微妙だし、アリスが俺のベッドを使ってルイスはアリスのベッドに……何それ回りくどい。アリスの部屋のベッドを二人で使って貰うという奥の手もあるけど、本来シングルサイズのベッドじゃ女の子でも二人で寝るのは狭い。


「……ここはやっぱり、ルイスちゃんに私のベッドを使って貰って。私はリュウトさんと一緒に寝るのが最善の策なんじゃないかな」


「アリス。何がやっぱりなのか分からんが、それは奥の手を踏み越えて禁じ手だ」


 しかし、禁じ手ではあるけれど確かに最善になってしまう。そう、俺が鉄や鋼を超越した神話級の金属に迫る精神力で健全性を死守すれば成立する構図だ。そうだそれだけだ問題無いそうだろう?


「いやー無理だわー」


「えぅっ……そんなに、嫌だった……?」


「いや違う! 今のは何と言うか、もっとこう………前向きな意味でだな!? お願い察して!!」


 思わず発声していた俺の結論に、アリスがちょっと涙目になってたじろいでしまったので慌てて釈明する(出来てない気もするが)。

 だって、ほら! 完全に恋人同士になった状態でアリスと狭いベッドで一緒に寝るとか、心理的なリミッターが緩くなった関係性で密着状態とか……こう……こうっ(適切な表現が思い付かずに勢いだけで心の衝動を伝えようと試みた結果)!!


「……やれやれ、仕方の無い奴だ。行き当たりばったりも結構だが、たまにはしっかり考えてから行動しろ」


「柔軟な対応と表現してくれ……そこまで言うなら、レイジには何か考えでもあるのかよ」


 本気で呆れた様子で肩を竦めるレイジを軽く睨んで、俺はそう切り返した。ここまでの流れを客観視していただけの奴が急に主観の中に放り込まれて、一体どんな答えを捻り出すのか見せて貰おうではないか……。


「……ふん。それなら、『柔軟な対応』とやらをしてみるか」


 そう呟くと、レイジは俺と合わせていた視線をスッ、と横に逸らした。向かう先は──ルイス。


「ルイス。お前が俺を信用するなら俺の家の空き部屋を貸してやるが、どうする?」


「……な。ん、だと……」


 待て、どんな風の吹き回しだ。血管の中を雪解け水が流れているようなレイジが、ついさっき知り合った女の子を自宅へ招き入れる……だと?


「レイジ……まさかお前、既にルイスの悪魔的質量に狂い始めてるんじゃ」


「この距離なら瞬きの時間があれば頭を消せるが、続けるか?」


「何でもないぜ親友。念の為に向こう一分は瞬きしないけどな」


 何ならいつも以上に全力で目を見開いて視界を確保し、命の危機に備える。一瞬、本気の殺意が眉間に突き刺さって冷や汗が流れたが……そこまでだった。マジで危なかった。


「そこの馬鹿の妄言は気にするな。それで、どうする? 俺は信用に値するか?」


「……一つ。教えて、欲しい」


 それまで沈黙していたルイスが、ゆっくりと口を開いて首を傾げた。


「……どうして。そこまで、してくれるの?」


 それは、俺にも問い掛けた「理由」だった。会ったばかりの自分に、どうしてそこまで出来るのか、と。


「……少なくとも、リュウトと同じ答えは期待するな。予想は出来るがそもそも別物だ」


 どうして俺が回答済みだと看破したし、というツッコミは飲み込んで、レイジがどう答えるのかを待つ事にした。

 事実、レイジがそこまでする義理は無い。俺から頼んだならともかく、自分から提案するというのは何だか「らしくない」。そもそもルイスの寝床に関して言及したのもレイジだった事を加味すると、それを俺に確認した時点でこの選択肢を用意していた節すらある。レイジをそうさせた理由は、俺も少し気になる部分でもあった。


「理由としてはイマイチだ。これで納得するかは俺も疑問だからな。それでも正直に言うのが最善なら、俺の答えはこうなる」


 そう前置きをしてから、レイジは改めてルイスの目を見ながらその理由を明らかにした。


「今のお前は、昔の俺に似ている。『あの日、拠り所を失った俺』と同じ目をしている。だから放っておけない……まぁ、そんな所だ」


 レイジが語った理由に対して、ルイスは微かに肩を震わせる。アリスは「……?」と疑問符を浮かべている。そして俺は、レイジが「あの日」と表現した状況の内容には察しが付いていた。しかし、いくら出会ったばかりとは言ってもルイスの様子は俺からだと普通に見えた。

 まぁ、洞察力は完全にレイジの方が上だ。もしかすると、レイジにしか分からない程度の微かな違和感があったのかも知れないが。


 暫く考え込むように沈黙していたルイスだったが、「……ん」と小さく頷いてから顔を上げた。


「分かった。えっと……何て、呼べば、良い?」


「そう言えば、自己紹介は省いていたな。ヒムロレイジだ、呼び方はレイジで構わないし敬語も必要無い」


「……ん……よろ、しく。レイジ」


「えーっと。良い感じに都合が付いたって事でオーケー?」


 何となく話が落ち着いた気がしたので、控え目に確認してみた俺にレイジが冷めた視線をぶつけてきた。


「リュウト、何か俺に言う事は無いか?」


「本日はレイジ様の柔軟な対応と寛大な心に深い感謝を示させていただきます!」


 腰を九〇度曲げて最敬礼しながら、大袈裟ながらも内容的には結構本気でレイジに感謝する。

 いや、だって打つ手無かったし。俺が理性の限界に挑戦する事になってただろうし。そして寝不足で朝を迎えてたし。


「言葉は要らない、誠意を見せろ」


「言葉を求めたのはテメェだろうが!?」


「あの、それなら。今夜は、レイジさんにもご馳走するとかはどうですか?」


「その言葉を待っていた」


「最初からそれが目的か」


 的どころか眉間を射る精度であろう俺の指摘に対して「何か問題が?」とレイジは視線で語る。

 まぁ、一応今回は恩人だし。アリスの手料理で借りを作らずに済むならそれに越した事は無いか。

 いや、それでいこう、と呟いて、気付けば四人分の料理を作るアリスを手伝う事にした。


「……ごめん、アリス。いつの間にか負担が倍になっちまった」


「全然平気だよ? たくさん料理を作るのも、結構楽しいし」


 これを素で言えてしまう辺り、やはりアリスは凄い。前世も来世も天使だと思われる。いや、もう女神の域か。地上に存在する時点で奇跡か。


「ね、リュウトさん。今回のお仕事は……危なく、ない?」


「……今の所はどう転ぶか分からないな。ただ正直言うと、ルイスの(ほう)ではかなり危ない橋を渡る事になるかも知れない」


「大丈夫、なの?」


「大丈夫だよ。アリスが待っててくれるなら、地獄からでもスキップで帰ってこれる」


「……そもそも、地獄に寄り道しないで欲しいのは私だけなのかな?」


「いや、俺だってしたくねぇよ? ただ俺の場合、寄り道と言うより正規ルートの通過点に地獄が混ざってる場合が多々あってだな。自分で言ってて複雑な気分になってくるけど」


 本当に、どうしてこう修羅場巡りの常連になっているのやら。七聖剣の頃だってここまでじゃなかった気がするんだけど。


「……まぁ、それでも無事で済んでるんだ。だから大丈夫だよ、幸運の女神が微笑んでくれてる限りはな」


「それ、いつまで続いてくれるのかなぁ」


「そりゃ俺の働き次第だろうな。頑張るから頼むぜ女神様」


 頭を撫でながらそう告げると、アリスは数秒ポカンとしてから「ふぇ? 女神様……何で私……え、私? ふえぇっ!?」と狼狽える。その様子に笑みを浮かべながらふと後ろを見ると、レイジとルイスが冷めた視線でテーブルに肘を付いていた。


「……胃もたれ、してきた」


「奇遇だな、俺もだ。おい家主、胃薬を寄越せ」


「既に息ピッタリかお前等」


 こうして(?)、レナードとランファードからの依頼やらルイスとの出会いやら、色々と密度の濃い一日が過ぎていった。


 ただ、正直この時点の俺は。

「いつもの厄介事」程度で済むと、まだ思っていた──。




……本当に長くて申し訳無いです。本来の予定より一万文字くらい増えてます

スムーズに書ければ問題無いのでしょうけれど、心のモチベーションで執筆速度がブレッブレになるタイプなので。……何も考えたくなくなるようなドン底状態とかだと、話なんて思い付きませんよね。そうですよね!? あ、ごめんなさいすみません節分の後で処分を忘れたイワシの頭を投げないでください。最終処分場はシンクの三角コーナーでお願いします


きっとまた忘れた頃の更新になるのでしょう。そんなんだから閲覧数も伸びないのでしょう。でも頑張って……るかはともかく、一応生きて続き書きます。早めの更新は期待せずにお待ちください


それではまた

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