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異世界転生……に、阿弥陀如来が来迎した

作者: 筅葉 笹礼
掲載日:2026/05/19

 佐藤太郎(仮)は社畜だった。

 何とか潜り込めた会社で、上司の嫌味とサービス残業に耐え、少ない給料に愚痴をこぼしながら、異世界転生物で心を慰める日々だった。

 そして、彼は死んだ。

 何故、死んだのかは重要ではない。

 重要なのは、彼が死後に訪れた場所だった。


「よくぞここまで来ましたね、佐藤太郎(仮)」

 そこは神域だった。

 目の前には女神様。背景は青空と雲と神殿。

「……ここは天国ですか? 女神様」

「いいえ、違います。

 ここは生と死の狭間。あなたの魂に、ある提案があるのです」

(え、まさか……)

 佐藤太郎(仮)には、この展開には聞き覚えがあった。

(まさか、俺みたいなやつに、こんなチャンスが……!)


「ええ、あなたの願いの通りです、佐藤太郎(仮)。

 あなたには、私の管理する世界へ転生してもらいます」

(……! やった、本当に、転生はあるんだ……!)


「あなたには、英雄として私の世界で果たしてもらうことがあります」

(……っ! 俺がこれまで見た話の中でも、結構な待遇……!

 これなら、楽しい来世が待っている可能性は高い!

 少なくとも、苦労ばかりのパターンではないっ)


「そこで、あなたにはこのチートスキル……」

「……それは無用である」

 女神が何らかのリストを取り出そうとした瞬間、厳かだが深く慈悲に満ちた声が、神域に響き渡った。

 黄金の光が神殿の中を照らし、神域全体が近づいてくるものの存在の大きさに震える。

 周囲の雲が紫色に輝きだし、どこからともなく美しい天上の音楽が鳴り響く。

 そして、大いなる光を背にした如来が、幾尊もの菩薩と共に現れた。


「……っ あ、あなたは、阿弥陀如来!?」

 女神が慌てた声で叫んだ。

「なぜ、十万億仏土の彼方にいるはずのあなたが、このような遠い果ての世界に!?」

「かつて、その者は我が名を呼んだ、それ以上の理由は不要である」

(えっ、えっ、どういうことだ?!

 阿弥陀様……って、あの仏像のだよな!?)

 阿弥陀如来の優しい視線を受けながら、佐藤太郎(仮)は混乱していた。


「この人間は、私の管理する世界へ転生し、英雄になることを望んでいるのです、

 そのことがわからないあなたではないはずです!」

「無論、知っている」

「ならば、なぜ、あなたのような遠い浄土の教主が!」

「ゆえに来た。

 再び輪廻へと戻る事にさえ、汝の力にすがらねばならぬ衆生であれば、

 我が本願力による往生もまた、受け入れられよう。

 我は決して、汝を捨て置かぬ」


 阿弥陀如来の慈悲に満ちた言葉に、佐藤太郎(仮)は耳を疑った。

 放たれる光のため、彼からは女神がほとんど見えなくなってしまっている。

 無限にすら思えるほど偉大な如来が、自分にそんな優しい言葉をかけてくれるなんて、信じられなかった。


「そんな……俺みたいなどうでもいい社畜を、あなたのような仏が救ってくれるなんて、そんな価値はないですよ。

 もっと、まともな……立派な人たちを助けてあげてください」

「我は汝の言うような立派な人たちも救おう。

 だが、我の正機(救うべきもの)は、汝のごとく流され苦しんだ衆生である。

 さぁ、来るがいい。汝を極楽浄土へと導こう」

 この言葉に、佐藤太郎(仮)に残っていた不安は、静かに消えていった。

 黄金の光はますます強く彼を包み込み、上空からは蓮の花びらが雪のように舞いながら降り注ぐ。

  

「あ、でも異世界転生も楽しそ……」

「我が迎えに来た以上、もはやキャンセルは不可である」

 そして、彼は光に包まれて西方浄土へ往生した。



 ……そして彼らが去った後、神域で散らばった蓮の花びらを片付けながら、女神はため息をついた。

「はぁ……誰が最近の日本人は転生させやすいって言ってたのよ、もう……」


                              始まる前に 完

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