俺はアイドル
好きになった相手は1人だけ。
中村ユキ。
中学の同級生だ。俺は井端智也。小さい頃からダンスを習っていて、小学生の頃から有名芸能事務所に入っている。環境が少し特殊だし、学校行事には参加できない事も多い。部活動だってやる事はできないし、事務所ならではのルールもたくさんある。そのせいか学校では中々友達と呼べる人はできなかった。
親の友達はやっぱりメンバーや事務所の先輩、ダンス仲間になってくる。学校では少し浮いているのも理解しているつもりだ。
中村ユキは、物静かだけど芯がしっかりしていた。俺が目を合わせれば教科書通りのように照れた顔して、俺が誰かから陰口を言われている時はユキが怒った顔してるからすぐわかる。
なんでもユキを見れば、俺の周囲の状況が理解できてしまう。それくらい感情豊かな女性だった。
わかってる。俺はアイドル。
事務所からは期待されているせいか、制限がとても多い。それでもまだ売れているわけでもないから「芸能人かぶれ」なんて言われてるんだろうな・・・
アイドルは1人を好きになってはいけない。
ファンみんなを恋人のように大切に思わないといけない。でもユキが俺のファンだから俺はユキを大切にしたくなる。そんな風に上から言っているけど、実は不安で仕方なかった。
「中村ユキって綺麗だよな。身長少し高めなのが少し近づきにくくするんだよな」そんな風に言ってる奴の話を聞いて「ユキは俺のだ」なんて奪い去りたい気持ちにさせる。
バカか・・・・
付き合ってもいないんだった。
というかこれから先も付き合うことはないんだった。
恋愛をしてはいけない。でも人を好きになることは止められない。それが両思いでも俺らが交わることは決してない。これからも。
中学を卒業してからもLIVEには必ずユキがいた。まだまだ観客が近いホールでのLIVEは前列にいるユキがとても目立って見える。
高校生になったユキが突然ショートヘアにした時、何があったのか聞きたかった。何度も連絡しようか迷った。でも俺はアイドル。LIVEでユキを見かけるたびに言い聞かせる。少しずつコンサート会場が大きくなっていくにつれて、ユキが探せない日も増えてきた。でも・・・・必ずいてくれていると信じていた。
19歳のそんなある日、事件は起きた。メンバーが落としたマイクがファンにあたった。
ユキ
パフォーマンス中でも焦っているYUKI。落ち着け。落ち着け。落ち着け。ユキ?大丈夫?YUKI落ち着け。心臓が張り裂けそうだった。
スタッフにすぐに確認させた。
「俺の友達なんだ。中村ユキ。怪我がないか確認を回してくれ」
「了解」
返事はすぐにきた。
「中村ユキさん。頭に当たったけど大丈夫 とのことです。安心してTOMOYAはパフォーマンスに集中して。YUKIにも伝えてあるから」頷いた。それからというもののユキの様子が気になって気になって視線がすぐにいってしまった。
俺はアイドル。呪文のように唱えるんだ。たくさんの恋人の前でのパフォーマンス。1人に気を取られるな。
LIVEは無事に終わった。でも手は止められなかった。何度も連絡をしようと思って止めてきた手なのに。この日だけは止められなかった。そして一度ストッパーが外れた俺は、もう、ユキへの気持ちを止める術がなかった。
ユキ ずっと俺を見ててくれ。
この言葉しか出てこない俺は男として本当に情けないし、辛かった。そして毎回ユキの返事はわかってる。
「応援してるよ」だ。
これがいつか違う人に取られそうでたまらなく悔しい。独占したい。
俺は中村ユキに惚れていた。




