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推しとの出会い

なんでよ。

ねぇ。聞いてよ智也ーーーー



智也は無視して扉を開いて行ってしまった。智也は忙しかった。久しぶりの喧嘩だ。



私の彼氏の智也は中学からの同級生。といっても今はお互い27歳。出会いなんて語るには15年も前の事になるのか・・・。

当時から井端智也(イバタトモヤ)は忙しかった。芸能事務所に所属していて、学校の授業を受けられない事もしばしば。その都度ノートを貸してたのは私。中村ユキ。ありふれた名前のありふれた中学生。私達は違う星に生まれたの。こんなにも違う。どこにいても何をしてても目立つ智也と、どこで何しててもどこまでも普通な私。



「ユキの字ってほんと綺麗。ありがとうね」そんな風に智也に言われてときめかない人いるのかな。そんな事言われたらノートを書くのも手が震えるくらい緊張した。

顔を赤らめてノートを渡す私に智也は言った。

「ユキは俺のファン1号に認定する」


もう気持ちなんてバレバレ。でもね。これは単なる中学生の好き とは少し違った。だって智也はアイドルだから。毎日ダンスレッスンに忙しいし、ツーショットは誰だとしても撮ってはダメ。クラス写真だって顔に手を当てて写ろうとはしない。智也のサインはクラスの壁の真ん中に書いてある。そして智也が所属しているグループ"earth"みんなのサインも隣に添えて一緒に飾ってあるのだ。


智也はみんなの誇り。


智也が教室に現れるだけでみんなザワザワソワソワ。いつだってみんなの視線を何もしなくても集められる。それが井端智也だから。



休み時間には絶対に机で寝る智也。ダンスレッスン、ボーカルレッスン、芸能界は忙しいんだろうな。みんな想像でしかない。なんだか智也に話しかけるのは難しい空気が流れるからだ。


そして夜になると必ずやってくるメッセージを開く。

「ユキ。今日も学校お疲れ♪俺、次の体育祭、出られないみたい。だから写真色々撮って雰囲気だけでも送ってよ」

「もちろん。智也忙しいもんね。応援してるよ」ありふれたメッセージしか送れない。


私達のやりとりはありふれていた。毎日送られてくる様々なメッセージの返事はいつも"応援してるよ"それしか返せなかった。



高校生に上がった私は、公立高校に進学した。智也は通信制に通うことになって益々芸能界の仕事が忙しくなった。


"earth"はまだまだ売れている と言ったら嘘になる。それでもこんなに忙しい智也を見ていると、普段テレビにでている人達はどれだけの仕事をこなしているのかと思う・・・。


私はただのearthのファンになった。いつでもどこでもライブが開かれたら見に行った。

「TOMOYA」なんてうちわは持てないけれど・・視線はいつでも智也に奪われた。



大学生になる頃だった。いつものように私はearthのライブに行った。今回の曲のダンスは激しい。earthの一番人気のTOMOYAの一言で曲が始まり、ライブが始まる構成だ。


このライブに足を運ぶのはもう2回目だから。最初のTOMOYAを見逃してはならないと目を開く私。そしてLIVEは始まっていく。福岡でのライブは久しぶりだった。このコンサートがまさか自分の運命を変えるなんてまだこの時は知らなかった。



まだ売れかけのearthはドーム公演を夢見るグループ。毎日下宿先からYouTube配信やファンクラブに向けた様々なコンテンツも見逃せない。

私はこの日、最前列でTOMOYAを拝んだ。TOMOYAの囁きに胸が張り裂けそうになった。


その途端・・・・



「イタッ・・・・」頭に当たった。まさかのマイクが飛んできた。そのマイクはearthのメンバーYUKI(ユウキ)のだった。すぐさまスタッフが飛んできて無事を確認された。そして気づいた時にはすでにYUKIには新しい違うマイクが渡されていた。



私はスタッフにマイクを渡して、何事も無かったようにお辞儀をした。ほんとは少しまだ頭がジンジンしていたけど。ライブのアドレナリンからか痛みもその時はあまり気にならなかった。

この日のコンサートはやっぱりいつもと違った。TOMOYAとやたらと目が合った。恥ずかしくて手を振る事も出来ないけれど推しと目が合うことに照れてしまった。そんな私はバカだった。


幸せな時間のはずなのにあれ?やっぱり頭痛い・・・。1曲目が終わった頃、マイクが当たった頭を触ると少し血が滲んでいた。

そして2曲目が始まる頃、TOMOYAが何かをスタッフに必死に伝えているのがわかった。そしてYUKIが動揺しているのもわかった。



私のせいかも?!



まさかね・・・


曲の合間だった。YUKIが近くにやってきた。

「ほんまにごめん。大丈夫だった?」YUKIの声がはっきりと聞こえた。私の心臓が飛び出た。


「大丈夫です。大好きです。応援してます!////」

恥ずかしいけど大好きなearthのメンバーに話しかけてもらえたことがなにより嬉しくて嬉しくて舞い上がってしまっていた。



その日のLIVEは他にもラッキーな事にTOMOYAがやたらとファンサなのか、目が合うことがとても多かった。マイクが当たった事も頭から少し血が滲んだ事もそんな事は全てラッキーに思えて大満足で福岡のLIVEを終えれた。


そして帰る頃私のスマホが鳴った。相手はまさかの智也だった。

手が震えた。連絡先は知っていたけれど、中学生以来話してないからだ。それに今はLIVEを終えたばかり・・・・私にマイクが当たったからか??私は着信に頭がパニックになった。



「もし・・・・もし・・・・?」推しからの電話に声が震える。

「ユキ。痛かったよね・・・本当にごめん・・・」

「私ってわかってくれたの?ありがとう。応援してます」いつものセリフしか出てこない私。

「今どこおる?YUKIも謝りたいって言ってるしスタッフ案内させるからこっちおいで?」

「え・・・・・・??大丈夫だよ・・・」何を言っているのだ私は。earthに会いたい。なのに私は。思っている言葉と反対の言葉がつい出てしまう。


すると肩を叩かれた。スタッフだ。そして長い長い廊下に案内された。「TOMOYAの同級生なんだってね?本当にごめんなさいね。」楽屋に案内されるとそこにいたのは智也だった。

「ユキ〜〜〜〜ごめん〜〜〜どこ痛かった?」スターアイドルTOMOYAが駆け寄ってきた。メイクもばっちりキマッたままのTOMOYAは眩しくて視界に入れることが難しかった。


頭をTOMOYAに触られても今はもうこの出来事に驚きすぎて体に力が入らなくなってしまった。私は思わずふらついた。


「え???大丈夫???」智也が支えてくれた。

「当たったのがユキって俺すぐわかってた。てか毎回ライブに来てくれてるのも俺ちゃんと見えてるから♪さすが俺のファン1号」智也の声は聞こえるのに全く力も入らないし声も出せなかった。


「ユキさん??ごめんなさい」YUKIだった。

「本当だよ。俺の大事なユキにYUKIが酷い事するよな〜」メンバーが仲良しなのは本当なんだ。いつも配信で見ている空気感に私がいる・・・。どうしてか頬に涙が流れた。



「え?ユキ?大丈夫???」心配する智也は肩をさすってくれた。

「違うの・・・私・・・ファンなの・・・嬉しいだけなの・・・」必死で今の思いを伝えたいのに全然出てこない言葉。

「ユキさんありがとう♪智也の同級生だから謝ることできた。俺のグッツたくさんあげるからw」冗談まじりにYUKIが話してくれた。頷くのに精一杯な私。

「何言ってんの!ユキの推しは俺だから!な?」智也の視線もこれまた贅沢すぎて・・・

「earth・・・みんな大好き・・・・」

「ほらね。ありがとうユキさん♪痛い思いさせてほんまごめん!俺ら名前似てるしねww」YUKIってこんなにかっこよかったの・・・・思わず瞳に心が奪われた。



「おいユキ!!!目を覚ませw俺のファンだろ」ムッとしている智也はとても可愛かった。そんなやりとりをしていると他のメンバー達もやってきた。

「智也の同級生??」

「今日は本当にごめんね・・」

「YUKI。しっかり謝れた?」私は益々足に力が入らなくなった。

するとマネージャーも来た。

「ほんとにすみません。智也がいつもお世話になってます。1番仲がよかった同級生と聞いています。なにとぞ、許してあげてください。」

「そんなそんな・・・・久しぶりに智也とも喋れたし、earthに会えるなんて贅沢すぎます。」そしてたくさんのグッツを貰い、また私は裏口から出口に案内された。

「また連絡するわ」智也の最後の一言が私は忘れられなかった。



家に帰ってもなお心臓が飛び出そうなくらいだった。

「ありがとう。応援してます」って私からメッセージ送りたいな・・・ダメか。相手はアイドル。仕事の邪魔だよな・・・


冷静になれない自分との戦いで何度も智也のメッセージ画面と睨めっこをしていた。

すると




「今日はやっと話せて嬉しかった。本当に痛い思いさせてごめんな」智也からのメッセージは普段しないダンスを踊りたくなるほど心が弾む。なんて返事を返そう・・・返事の内容を考えては消して考えては消して・・・中々送れない。

「ありがとう。応援してます」いつもと同じ返事しか返せないと震える手を止めて打とうとすると・・・


またしても智也からメッセージが届いた。

「ありがとう。応援してくれて。俺わかってるよ?」



え・・・・先読みされたメッセージに更に返信に困ってしまった。全然返せない返信に時だけが流れていく。


「俺、毎回ユキがどの席にいるかちゃんと把握してるんだからな。俺のファンサにユキは気付いてないのかよ」

「てかYUKIに惚れるなよ」

「アイツはでもいい奴だから・・・」

「マイク落としたミスはあるけど普段は完璧」

「あ・・でも俺担でいろよ?」

「ってか中学生の頃ぶりなのになんか俺・・・やっとユキと喋れるって舞い上がって・・・」

「俺だけ?え??」


返せない私と反対に智也は次々メッセージを一方的に送ってきた。



「ファンしててよかった」返せた返事はこれだけだった。すると着信が鳴った。



「ねぇ。ユキ?ただのファンじゃないからさ。ユキは。井端智也のファンだったはずなんだけど・・・って俺バカか・・・さすがにユキも大人になってるし。色々変わってるか・・・もう18歳だもんな俺ら・・・時が経っちゃったよなって俺何言ってんだ??・・・」"もしもし"を言う暇も智也は与えてくれなかった。



「智也。ずっとこの先も応援してるよ」

「ありがとうユキ・・・」なんだか智也の声はガッカリしていた。

この電話をすぐには切りたくない私は言葉で繋ぎ止める為にしゃべった。

「earthのみんなってほんとに仲いいんだね」


「うん。みんな小さい頃から一緒だからね。中学は休みがちだったし練習生の頃から友達っていったらメンバーだけだったし。なんか家族でもあり・・・友達でもある・・・みたいな感じかな?」

「大阪のライブさ?俺フリ間違えたのわかった?」

「ごめんwwwわかっちゃった・・・」

「やっぱり?その後少し笑ってたよなユキ?」

「え???微笑んでたかもwwっていうか舞台から客席見えるの?」

「ユキだけはしっかり見えるねw目立つんだよ」

「え?私が目立つわけないよ・・」

「俺には目立つの・・・わかれよ」


少し俺様な智也も智也ならなんでも許された。それからだった。レッスンが終わるフリーの時間には毎回メッセージのやりとりをするようになった。


中学の懐かしい話や普段の生活の話、メッセージのやりとりの相手はアイドルTOMOYAじゃなくて井端智也に戻ってくれていた。


私は井端智也がやっぱり好きだった。

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