おかえりなさい
聖域歴7年その年は異常なほどに出産成功率が高い年だった、例年ならば出産で命を落とす母子が各種族に数名は出るのに、この年だけは0であった…
メリアが魅惑的な体に成った事に気づいてからは、子作りの祈りはしなく成ったのだが…
繁殖期が近づいて来るに連れて、各種族が異常なほどに求愛行動を取る様に成っているとメリアは報告を受けて事実を調べる為に、ロワの元に来ていた。
「ちょっと異常ね…」
まだ繁殖期前なのにメリアでも解るくらいにオスもメスも発情している個体が多く、この感じではオスの数が足りないどころの騒ぎでは無く成る可能性が出て来たのでメリアは、タケウチが用意した幾つかの打開策をロワに提示したのだが…
「ダメだろっ(笑)ムリムリ(笑)唯一出来んのは、傭兵として戦争に行ってる連中を呼び戻すくらいだろーな!」
と、用意していた打開策がことごとく却下され、唯一残されたのはオスを群れに戻す事くらいだった。
仕方なくメリアは傭兵国家クロアテア王国国王宛に使者を出して獣人傭兵を群れに戻すよう要請し、交渉をより確実なものにする為(タケウチに言われ)に自ら傭兵国家へ向かうのであった。
ちょうどブレス川を渡る準備をしていたメリア達に、クロアテア国王宛に出した使者が人族を連れて現れる…
人族はクロアテア国王からメリア宛の使者で、クロアテア国王が獣人の傭兵達を群れに戻す手伝いをメリアに要請する為の使者だった…
「どう言う事ですか?」
メリアが使者に尋ねると使者は
「獣人傭兵達が発情して人族獣人問わずに繁殖行為を初めてしまって、手が付けられないから群れに戻したい、聖女殿には間に入って上手く仲介して欲しい…との事です。」
メリアとしても獣人傭兵達を群れに戻したいが…良い方法が思いつかない
「どうしよう…ギン、どうしたらいい?」
タケウチが居れば良い案が出たかも知れないけど、今頼れるのはギンしか居ないメリアはギンに助けを求める。
「簡単だ、ロワの名前で強制的に獣人達を群れに帰還させればいい」
「でも、まだロワさんに相談してないよ?」
「じゃあ、メリアの名前にすればいい、お前は獣人連合国家の代表なんだから」
あ、そっかぁ〜と、メリアは自分が獣人連合国家の代表だって事を思い出し、クロアテア国王宛の使者とメリアに向けて来た使者に代表としての権限で、クロアテア王国内の獣人達全員を獣人連合国家へ戻る様に『命令』する事を獣人達に伝える様に指示するのであった。
この機転によりこの後、獣人連合国家の繁殖率が異常なほどに跳ね上がり、一時的な食糧難に成るのだが、不思議なくらいこの年は豊作で草食系獣人も大量に発生した為に生態系のバランスが取れてしまったのである。
「ギン!さすがね、ありがとう♪ちゅっ♡」
嬉しさのあまりメリアはギンに抱きつきギンのオデコにキスしてしまい、ギンを真っ赤にさせてしまっていた…
『コレはスキンシップだ…コレはスキンシップだ…コレは…』
「…(ふぅ…)」
必死に自分と戦うギンを、ヤレヤレと行った感じのシルバが呆れ顔で見ていた…
いよいよ繁殖期本番となった頃…シルバが繁殖の為にメリアの元を離れて行った…
「ギンは?ギンは私と一緒に居るよね?」
出来ればギンも繁殖期本番はメリアから距離を取りたかった、以前のメリアならまだ我慢できたが、今のメリアは魅惑的過ぎてギンの精神力が耐えられるか不安だったのだ…しかしメリアがそれを許さ無かった…
ギンが理性と戦う日々を送る中、メリアのスキンシップは日に日に激しさを増していく…
ギンは何かが変だ…と、感じていたが『何か』が解らずににいた。
そんなある日…ギンは光の神殿でルクスに祈りを捧げていた…ノクスではなくルクスにしたのはルクスの方が良いと、なんとなく思ったからであった…
《どうした人狼?珍しい事があるもんだね〜》
ギンは素直にルクスに相談した、最近のメリアの様子が変だ…と
《あぁ、ソレはノクスがメリアに授けた加護の影響なんだよねぇ〜》
『加護?ですか?』
《お前には見えてるだろ?メリアを包むピンクの光が…》
『アレがメリアをおかしくしている原因ですか?』
《人狼、間違っても手を出すなよぉ~メリアの純潔を奪ったら…殺す!》
ギンは最後の1言がとても怖く感じた…アルケー様も同じなのか?ならば俺は…自分の気持ちと神の意志との間でギンは苦しんでいく…
「どうしたのギン?」
神殿で祈りを捧げていたギンの後ろからメリアが声をかけ、抱きついて来た…
「…!!」
ギンは思わずメリアを払い除けてしまう
「ぇ!?ギン、どうしたの??」
物凄く驚いたメリアが声を震わせて立ち尽くす。
「すみませんメリア様、俺…仕事を思い出しました。」
そう言うとギンはメリアを置いて走り去って行った…
『ごめんメリア…今は、耐えられそうにない』
その光景を見てニヤニヤしながらルクスは言った
《くぅ~っ!若いねぇ〜》
ギンは走った…とりあえず走った…何処に行くなど考えず
気づけばギンは狼の姿で聖域の外に居た…
このまま聖域を離れて一匹の狼として生きるのも良いかも知れない…そう考えながらトボトボ歩くギンの鼻がメスの匂いを捕らえる。
そこからの事は良く覚えていなかった、ただメスの狼が居た事は覚えいて、その後の事は思い出せ無かったが、そのメス狼が発情していた事は覚えてた…
ギンはパニックになっていた…どうして俺は?なんであの狼と?解ら無い、何も解らなかった、ただ…メリアの時に帰らなければいけない気がしてギンは聖域内に戻っ行った。
聖域に戻ったギンだったが、メリアの顔を見れずにメリアの部屋の前をウロウロしていた…
「ギン?」
部屋の中からメリアの声がした、一瞬逃げそうに成り扉に背を向けて逃げようとした時、部屋の扉が開き中からメリアが姿を見せた。
「あ、…う、お、俺…」
言葉が出ない
メリアになんて言う?
どうしたら良い?誰か教えてくれ!
ギンの頭に色々な気持ちと考えが混ざり合う
そんなギンをメリアは黙って後ろからハグする…
「おかえりなさいギン…」
暖かな温もりがギンを包む
何故かギンの目から涙が流れだす
ギンはメリアと向き合いメリアを強く抱きしめると
「…ごめん」
とだけ言う
メリアは静かに微笑み、そっとギンの手を取る。
扉がゆっくり閉まり、
夜の聖域に二人の気配だけが溶けていった。
この夜の事を、メリアは生涯忘れる事は無かった…




