でこピン事件(後編)
今、アルケーは息を殺して相手の動きを見ていた…
タイミングを間違えれば即アウトと言う緊張感の中、少しずつ足をずらし…
ゆっくりと出口を確認する。
光エルフが数人出口前に居るが、彼ならば間をすり抜けて行ける幅だった…
3歩?いや…4歩有れば出口前に行ける!アルケーはゆっくりと呼吸を整える…
今だ!スッ…と足を伸ばして移動する
ふっ…我ながら素晴らしい動きだと自画自賛し2歩目を…
何かに服を引っ張られている…
ドクン…と心音が聞こえた気がする…ゆっくりと、しかし優雅にアルケーは振り返る。
「アルケー様ぁ…どちらに行かれるのですか?」
メリアが微笑みながらアルケーの服を掴んで離さずに、タケウチの隣りを指差して言う
「こちらに…」
油断してたつもりは無かった…しかし現実としてメリアはアルケーの服を掴んでいるのだ。
「ふむ…」
仕方なくアルケーは、タケウチの隣りに座る…
「正座」
メリアが怖いくらいの静かな声で言う…渋々アルケーも正座をして座る。
「アルケー様?後ろ、どうなっているかご存知ですか?」
ご存知も何も、アルケーのでこピンで神殿は半分ほど崩壊しているのだ、そう…アルケーのでこピンで…
「エルフの皆さんがせっかく丹精込めて造り上げた神殿がバラバラですぅ…どうしてでしょうか?」
「うむ、それはコヤツが悪い!」
ビシッ!とタケウチを指差してドヤ顔しながらアルケーが言いながら、タケウチに2発目のでこピンをぶちかます。
タケウチが瞬く間に遠くへ消えていき
バツッガァァァァァァァァァッン!!!!
と、物凄い音が響きわたる
「ちょっとアルケー様、確かにタケウチ様が原因ですが、私は光エルフさん達が可哀想だと言ってるんです」
ドォーーーーンッッ!
遠くに有るプロテイン山脈から煙が上がり本日2発目のタケウチ型人間砲弾がまたしてもドワーフ族の集落へ着弾した。
じいっとメリアに見られ(睨まれ?)てるアルケーは『ホイ』と言うと、神殿が以前の様に元通りに成った。
「これで良いだろ?」
そう言うとアルケーは『フフン』と言いそうな顔で立ち上がるが、またしてもメリアに捕まる。
メリアがさっきまでタケウチが居た場所を指差し『まだ終わってません』的なオーラを漂わせるのでタケウチをそこに出すと、メリアはタケウチを正座させた。
光エルフ達は震えた…まさか延長ですか?
さすがに延長戦は行き過ぎな気がした光エルフのタチバナが勇気を振り絞ってメリアに懇願する
「神殿も元通りですし、今日はこのあたりで…」
「ダメです!まだアルケー様が罰を与えてません」
タチバナは思った。もしかして、聖女様が1番怒らせると怖いのでは?…と
メリアに促されアルケーは少し真面目な雰囲気で言う。
「うむ…ではタケウチに罰を与える」
「タケウチの全ての権限を剥奪するものとする。
タケウチから不死を剥奪するものとする。
タケウチから全ての職を剥奪するものとする。」
「えっ!?」
余りの内容にタケウチが驚き
「えっ?」
メリアは厳しい内容に驚き
「へっ?」
「な、なんと厳しい」
光エルフ達も驚きを隠せないでいた。それでもタケウチは姿勢を正し深々と頭を下げ
「承りました。」
開放感なのか、諦めなのか、厳しい罰を全て受け入れるのであった。
「タケウチ様は、それで良いのですか?」
「聖女様、私に『様』は不要でございます。タケウチと、お呼びくださいませ。」
光エルフの中には、タケウチの潔さに感服する者もいたが、メリアは違った。
「タケウチ様、貴方様はもう不死では御座いません。残りの人生をどうするおつもりですか?」
「私は…今まで通り祈りを捧げるだけで御座います。」
タケウチは何か悟ったかの様に微笑む
「はあっ?そんなの私が許しません!」《バン!》
さすがのタケウチも光エルフ達もこの言葉には驚いてしまう。
「いいですか?《バン!》貴方様は今までサボってたから罰を受けたのです《バン!》なのに何故今まで通り祈る?」
かなり興奮してるメリアが床をバンバン叩きながらタケウチに話す。かなり強い力で叩いてるのか、メリアが床を叩くたびに建物が軋み座っているエルフが少し宙に浮く。
「今まで以上に働きなさい!《バン!》」
「聖女様の言われる通りかもしれません、しかし私には罰が必要なのです」
「全て剥奪する事で罰は与えられたでしょ!《バン!》」
「それは創造神様の慈悲で御座います。罰では御座いません。」
メリアはアルケーの方を見て
「アルケー様、私がタケウチ様に罰を与えます!それでタケウチ様の全ての罪をお許しくださいませんか?」
「ほぉ…よかろう、好きにしろ」
アルケーから許可をもらったメリアは、人差し指と親指で輪を作りタケウチの額に向ける…
タケウチは姿勢を正して目を閉じる
「聖女様!タケウチ様はもう不死では御座いません!死んでしまいます!」
「聖女様!どうかご再考をお願いします!」
「創造神様!聖女様をどうか聖女様をお止めくださいませ!」
光エルフ達が口々に懇願するが、メリアは大きく息をして…
ペチッ!
女の子らしい『でこピン』をした…
「これで終わりです♡」
ニッコリと微笑むメリアはタケウチの手を取り言った
「これから残りの人生をかけて、エルフ族の為に働いてください。」
目を見開きメリアを見るタケウチの目から大量の涙が溢れ出す。
「聖女様……ありがとうございます!」
光エルフ達も口々にメリアへ感謝の言葉を発する
「あ…良い事思いついたぁ♪」
またアルケーが良からぬ事を思いついたのであった…




