でこピン事件(前編)
ブレス川を渡り終えたアルケー達は、そのままフランク大森林に入って行く…
森に入って少し行くと、目の前に臣下の礼を取る光エルフが数人待っていた。
「創造神様、願わくば我らの里に来て頂きたく参上致しました。」
「タケウチかい?」
全て知ってるよ、と言った雰囲気でアルケーが答える
「恐れながら」
「まったく…キミ達も大変だね」
メリアは思った、アルケー様もしかして彼らが来ると知っていたのでは無いか?と…
そして、何となくメリアはこの旅の終わりを感じていた。
『だからお魚とかを私に?』
ゆっくりと、だが有無を言わせぬ雰囲気でアルケーは言う。
「行くぞメリア」
「はい、お供します。」
不意に周囲の雰囲気が変わる
明らかに同じ森の中では無い森に居た。
すたすたと、いつもの様に進むアルケーと、付いて行くメリア。
程なく森の開けた場所に出た。
周囲の雰囲気に溶け込む様な感じで木造の建物がいくつか建っている広場にアルケー達が出ると、数人の光エルフが現れ
「お前達は、な、えっ?創造神様!?」
アルケーを見るなり軽くパニックになりだす。
「タチバナ様を大至急お呼びしろ!」
いかにも武人といった雰囲気のエルフが部下に指示を出しつつも、アルケーの前に来て臣下の礼を取る
「このような場所に足を運んで頂き感謝申し上げます、私は7代目マサカド・タイラと、申します」
うむ、とだけ答えたアルケーはエルフ達をそのままに集落の更に奥へと進む
しばらくしてメリアの目の前に立派な木材だけで造られた神殿が姿を見せる
「素敵な神殿…」
立派な造りなのに周りの景色と溶け込み、風景の一部分にも思える神殿の中にアルケーが入って行く。
タケウチは驚いた、突然開かれた扉に
そして、扉を開けた存在に…
「創造神様…申し訳御座いませんでした。」
メリアが神殿に入った時には既にタケウチはアルケーの前に平伏して一心不乱に謝罪の言葉を並べていた。
「へぇ〜タケウチは悪い事したんだぁ?」
「申し訳ございません。」
「何をしたのかな?」
「申し訳ございません。」
「それじゃあわからないよね〜?」
「申し訳ございません。」
うわぁ、何か凄い謝ってるけど…この人だれ?
メリアはいきなり謝罪してるエルフを見てるとアルケーが謝罪しているエルフを指差し
「コレがタケウチだよ」
「ぇ、この人がタケウチ様…失礼しました。私、創造神様に仕える聖女メリアです、よろしくお願いします。」
メリアがタケウチに挨拶してもタケウチは謝罪しかしなかった。その態度に何故かメリアはイラッとしてしまうのであった。
するとアルケーがゆっくりしゃがみ、
「タケウチ…頭を上げよ」
ビクンッ!とした後、タケウチの頭がゆっくりと上げられ、しゃがんでいるアルケーを視界に入れる
目の前にはアルケーが親指と人差し指で輪っかを作って微笑み、その人差し指をタケウチの額に近づけて言う
「タケウチ、キミの罪は『怠惰』だよ」
空気が歪み木造の神殿が破裂するように弾け、タケウチが一瞬で遠くの森まで吹っ飛ばされて行き
バツッガァァァァァァァァァッン!!!!
と、物凄い音が響く
「アルケー様、今のは…」
「でこピン」
でこピンって、攻撃魔法か何か?なの?とメリアが思っていると
『メリア、でこピンは普通の人ならばちょっと痛いだけの物だよ、やったのがアルケー様でタケウチが不死じゃ無かったら、こんなには成らないんだけど…』
「ぇ?タケウチ様って不死なんですか?」
「うむ、一応な」
そこへ光エルフ達が駆けつけた
「こ、これは…一体何が起きたので…しょう…か」
と、光エルフがほとんど吹き飛んだ神殿の入り口で放心しつつ聞いて来た。
ドォーーーーンッッ!
遠くで何かがぶつかった音が響きプロテイン山脈から煙が立ち上る…
諸説あるがエルフとドワーフが仲が悪いと言う話の原因に、
ドワーフ族の住んでる山にエルフが遠距離から無差別攻撃を仕掛けたのが原因
と言う説がある。真実は定かではないがこの時数名のドワーフがタケウチ型人間砲弾で重症に成ったのは事実である。
「アルケー様、この神殿粉々なんですけど…」
「そうだね~見晴らし良いね」
「あ…ほんと景色が綺麗」
ガタッと膝から崩れ落ちる様に座り込んで「神殿が…神殿が…」と、光エルフが泣きながらつぶやいていた。
「それよりも、タケウチ様は不死なんですよね?ちょっと私、お話しがあるんですが」
「そうなのか、ならば…ほれタケウチ、メリアが話たいと言ってるぞ」
と、壊れた操り人形の様な格好をしたタケウチが、アルケーの足元に転がる。
「本当に不死なんですね。」
「うむ、不死じゃ無かったら、脳みそが霧状になる勢いで爆散してたと思うよ」
「…グロいです」
『メリア、恐らくそれは本当だよ、頭部だけでなく、上半身は消し飛んだはずだから』
『いや、グロい解説要らないし』
それよりも!と、メリアはタケウチを正座させると滾々と説教を始めた。
「いいですか、いくら偉くても私が挨拶してるのに無視して…」
あ、これ長いやつだ…アルケーは、ゆっくりとメリアの視界から消えようとするのであった。




