熱々焼き魚と鬼ごっこ
風間のエルフ達はウィーンの街で
《バルト山に穴が空いた》
《オスメン帝国が消失した》
と言う、明らかな創造神絡みと思われる情報を入手した。
「創造神様の所業で間違い無いだろう…」
「その後の足取りは?」
「いや、掴めて無いが、スパルタの街ならばもう少し情報が手に入れられるだろう」
「ではクロアテア経由で?」
「うむ、一部分を東のベラルー方面に向かわせ、我々は傭兵国家クロアテアに向かうぞ」
風間一門は、アルケー達に追いつけるのだろうか?
タケウチの祈りを無視し続けるアルケーの真意とは?…
「魚って食べたくない?」
「あれって食べ物なんですか!?」
「エルフ達の中には『生』で食べる者も居るらしいぞ?」
まるで『うぇ〜』とでも言いたげな表情でメリアにアルケーは、
「美味いらしいぞ?」
「えぇぇ…アルケー様が先に味見してくださいね」
と、とても罰当たりな発言をするのであった。
「人魚達の主食だぞ?」
「人魚!人魚いるんですか?」
人魚と言う名前を聞いて食いつくメリアに
『人魚とは、分類的には魚人族の中の1種族だよメリア』
苦労人ポジションが定番化したグラキエルが説明する。
魚を食べたいアルケーと、人魚が見たいメリアはクロアテアから南西に向かっ先にある運河都市ベネツアへと歩を進める
ブレス川にはルールが有る
元々は西のジブラルタ海峡を渡るルールだったのだが、ベネツアとジェノバを魚人族が支配した事で、ブレス川にもそのルールが適用されたので有る。
そのルールとは…
対岸へ渡りたい者は、魚を川岸に捧げてその魚を魚人族が受け取れば、渡って良い
…と言う物で、コレを無視して渡ろうとすると魚人族の『餌』にされても文句は言えないと言うルールである。
そして、唯一そのルールが適用されないルートが、ベネツアとジェノバ間の定期便である。
獣人の街と人族の街との交易でベネツアの街は大いに栄えていた。
「うわぁ~水の上に街が有るみたい…」
ベネツアの街へついたメリアの感想通りベネツアの街は道の代わりに運河が街中に張り巡らせてあった。
アルケー達は、泳げない種族用に作られた道を進み、ベネツアの市場へ出る
彼らの目的は『魚』だ、アルケーもいつの間にか物々交換で色々な物を手に入れてて、それらで良い魚を手に入れるつもりだった。
「坊っちゃん!さっき上がったばかりの魚は要らないかね?」
露店の店主がアルケーに話しかける
籠の上にはまだ息をしている魚が数匹と…ウネウネしてる何かがあった。
「うぇ〜何このウネウネ…」
「あぁ、それは墨を吐くから気を付けなよ」
ウネウネ気持ち悪いなぁと、メリアが思っていると、アルケーが野菜とアルケーの体の半分くらいの魚とを交換して来た。
「それ、美味しいんですか?」
「なんだ嬢ちゃん知らねぇのか?その魚は格別に美味いぞ!塩焼きが1番美味い!」
「ほぉ、塩焼き…おっちゃん、この辺りで火を貸してくれる所は?」
神なのに不思議とメリアよりも人族っぽいアルケーにメリアは少し驚きながらも、店主の魚人に聞く
「あの…魚人さん達が魚を食べるのって共食いとかに成らないんですか?」
「ぷっ」
「がぁっハッハ!嬢ちゃん面白い事言うね!」
怒るどころか、笑いものにされるメリア、アルケーも何をくだらない事聞いてるんだとでも言いたげだった。
「嬢ちゃんは、狼が鹿を食べたら共食いって言うかい?違うだろ?それと同じだよ」
「え?」
「愚か者、魚人と魚では種族も何もかもが違うのだ、同じなのは水の中で生活するって事だけだ。」
『メリア、魚にも肉食と草食っているんですよ』
一斉にダメ出しされてしまうメリア…
「あ、はい…何となくわかりました。」
「何!?創造神様達が先日までこの街に居ただと!?」
「はい、風間の者が誤って創造神様の食べ物を落としてしまったようで…」
風間一門のまとめ役をしているエルフは悩んだ
『なぜ創造神様はここに来た?ここに何が有ると言うのだ…』
創造神様と接触した闇エルフや、状況を見ていた光エルフから事情聴取を済ませて彼らはアルケーが向かったベネツアへと急いだ。
「おばちゃん、この野菜とコレあげるから、この魚焼いてよ〜」
「あいよっ!あ、坊っちゃんその草と野菜もくれないかい?そしたらとびきり美味いの作ってあげるよ」
「ほんとか?ならば全部やる!めちゃくちゃ美味いヤツたのむぞ」
と、アルケーは手持ちを全部店主に渡してウキウキし始める
最初は不気味がっていたメリアも料理されていく魚を見ている内に『美味しそう…』と、ヨダレを垂らしながら待っていた。
「うむ、美味い!」
「熱っ!うまっ!」
焼き立ての焼き魚を無心で頬張る2人、そんな2人を遠くから見つめる人影…
「ありがとうございました」
「じゃぁね〜」
美味しい焼き魚を焼いてくれた店主と別れたアルケー達が、定期便が出る桟橋へ向かう。
が、ジェノバへの定期便の出る桟橋まで来た時にちょうど定期便が出発した後だった。
「あら、出たばかりですね~」
「なんだ?乗りたかったのか?」
少しだけメリアが嫌な予感を感じると…出たばかりの定期便が『後ろ向きに戻って来た』のである
「あー!ダメですって!元に戻してください!」
「そうか」
何事が起きたのか定期便の魚人達がバタバタと慌てふためく。ほんの僅か後退させられた定期便だが、すぐに元に戻って運航を再会して行く。
「乗りたかったんじゃ無いのか?」
「いえいえ、歩いた方が早いし(笑)」
「確かに…」
と、川岸へと向かう2人を魚人達が止めに入る、
「待ちな嬢ちゃん達、ここのルールは知らないのか?」
「ルール?」
「そうだ、魚を捧げて魚人が取ったら渡って良いってルールだ」
「前にきた時は、普通に渡れましたよ?」
この人達は何を言っているの?とでも言うようにメリアが話す
「よい、ゆくぞメリア」
「あ、は〜ぃ」
後ろから『おい、やっちまえ』『へぃアニキ』などと言う声も聞こえたが、アルケー達はそのまま川に向かい歩き続ける
もう少しで川、というタイミングでアルケーに声をかける者達が居た。
「お待ち下さい創造神様!」
風間一門のエルフ達である
が、アルケーは待たない…そのまま川に入って行く
「創造神様、魚人達に襲われます!お戻りください!」
チラッとだけアルケーはエルフ達を見る
メリアはエルフ達に笑顔で手を振っている
桟橋からは『戻れ!』『危険だ!』と言う声も飛び交う、普通ならば生きては帰れ無いだろう…普通ならば…
「アルケー様、グラキエル様に凍らせてもらえば沈まないかもしれないですよ」
「うむ、採用…やれ氷龍」
一瞬…水面が薄い靄の様に成った後には一面が凍結していた…
『メリア、パイラ兄さんも呼んで。マリス母さんに水温下げるなって怒られるから』
『うん解った。パイラ様お願いします!』
桟橋に居た人達もエルフ達も何事も無かった様に水面を歩いていく2人を見て絶句していた…水面を歩いていく2人の脇には幻影の様な火龍さえ現れる
夢でも見ているのだろうか?と、互いの頬をつねる者まで居た。
「風間に追いつかれたか…仕方ない、行くか。」
まるで、鬼ごっこの終わりを告げる様にアルケーがつぶやいた。




