私から色々と奪う妹。男を見る目がなさすぎて私に素敵な男性を押し付けて私が超絶幸せに。妹は不幸に…。
私は小さい頃から図々しい妹に悩まされてきた。
色々なものを取られる。
私がもらったぬいぐるみも。
私が着る予定だったドレスも。
私が誘われた舞踏会の招待券も。
けど、そんな妹は愛想がすごく良くて、周りから容姿がいいとちやほやされて、幸せに生きていた。
私はもう、色々と諦めていたのだけど。
諦めたなりに静かに生きていくことも難しそうな状況になってしまった。
どういうことかと言えば…。
「私、政略結婚とか嫌なんだけど。あんたしなさいよ。なんか冴えない男だったからなおさら無理だし」
私、妹が嫌がっている政略結婚の婚約相手を押し付けられてしまいました。
☆ ◯ ☆
妹曰く、婚約相手の男性はこんな人らしいです。
「まずねえ、とろいし冴えないのが一番ね。私に相応しくないって感じかしら。
お姉ちゃんとならちょうどいいんじゃないの?
あ、それとね。なんか大して力も強くなさそう。男らしくないのよねー。
そこもダメかな」
だそうです。
まあ私はは大人しく結婚しようと思う。
諦めた生き方をしてるもんだから、一番丸く収まるムーブをしたいと思うわけよ。
で、初めて私は男性とご対面することに。
夕食の場で二人きりという状況みたいだ。
うわ。なんか色々別にして緊張するんだけども。
時間が近づいてくるとソワソワしたりして体調悪くなりそうだから、私は本を読んでそれに頭を集中させることにしていた…
のが悪かったんだけど、遅刻しそう!
まずいまずい。
私の第一印象がとんでもなく悪くなってしまいそうだわ。
私は夕食の場に突っ込んで、あらかじめ窓際の奥と聞いていたのでそのテーブルにダッシュして行ったら…。
「止まれない!」
グラスに激突はまずいでしょ!
そんな私は静かに抱き止められた。
「大丈夫ですか?」
「あ、は、はい…ありがとうございます」
彼が、私の婚約相手…。
確かに少し細身で力は弱そうだけど、でも今普通に私を抱えてるんだよなー。筋肉はあるんじゃないの?
残念なことに、私、女性の中では少し重めだしね!
そんな私は彼に降ろしてもらい、向かい合って座った。
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、急いで来てくださるなんて」
「遅刻しそうだったから…」
「真面目なんですね。素敵です。本をよく読むと聞いています。僕も少しばかり読むんですよ」
「そうなんですか? あっ、どんな本が好きなんですか?」
自然と会話が始まったなと思う。
「僕は最近は、歴史系の本を読んでいるんです。過去の航海士の話だとか、そのあたりを」
「いいですね! 私もよく読みます。最近出版された、貴族の航海の話を読みました」
「僕も読みました。とても面白い話でした。貴族だろうと関係なく、小さな部屋で、過酷な環境で未踏の大陸に行くっていう…ああいう冒険に憧れますね」
「わかります」
前菜が来たので、私たちは食事を楽しみ始めた。
料理はおいしくて、彼の注文らしいので、とてもセンスがいいんだなと思った。
「お味はどうですか?」
「最高! こんなに素敵な夕食初めてかもっていうくらいです」
「よかったです。実は、僕、今回の料理の下準備に加わっていまして」
「ええっ。りょ、料理が得意なんですか?」
「もちろんシェフの方が得意です。けど、少しこだわりがあって、大切な人に食べてもらいたいラインナップとか材料とか…それで、下準備をシェフと一緒にやらせてもらったんです」
「すごい…。じゃあもしかして、この少し変わったブロッコリーみたいな野菜も、あなたのチョイスなのですか?」
「はい。それは特に思い入れがあるというか…。以前、農家を訪ねて回った時に、その野菜は、愛をはぐくむ野菜だと教わったんです。ですので、メインディッシュのつけ合わせにしたいと思いました」
「愛をはぐくむ…なるほど、可愛い」
「えっ」
「そういうおまじない的なのを取り入れてくれるなんて、可愛いなって。ありがとうございます。あっ、そういうえば、私、お土産を…」
「お土産⁈」
「はい。この本なんですが…」
私は本を渡した。
タイトルを見て、彼は言った。
「物語、ですね」
「そうなんです。実はこの本、私が書いたというか…」
「ええっ。執筆、したんですか?」
「はい。ちょっと恥ずかしいんですけど、結婚してからも隠し続けるわけにはいかないですし」
「嬉しいです。もう今日徹夜で読みふけります」
「そんな勢いで読まれると、少し恥ずかしいかもしれません…」
「なら、まあ適度なペースでってことで」
「ふふ、それでお願いします」
☆ ○ ☆
その後も、彼とは和やかで楽しい話ができた。
料理はすべて美味しかった。彼の料理の下準備も心を込めてくれたんだろうなあと想像する。
まあ、まとめますと、めちゃくちゃいい人だったってこと。
妹は単に、自分の性格が悪いがゆえに見る目がなかったんじゃないの?
そう思う。
☆ ○ ☆
それから、彼と結婚生活を始めたわけだけど、彼は本当に素敵な人だった。
なので、ほんとに、
妹は単に、自分の性格が悪いがゆえに見る目がなかったんじゃないの?
ですわね。
あ、ここでいったん妹の近況が色々大変なことになっているので、その話をしようと思います。
妹は、別の、妹曰く、冴えてるいい感じの男と婚約することにしたそう。
で、そのことを私に自慢してきて。
色々鼻が高そうではあったけど、なんと…。
その男が何人もの女性と浮気していたらしい。
しかもみんなと結婚の約束をしていたらしい。
約束がほぼ何の効果がなしという、ろくでもない男だったってことですよ、いやー。ほんとにまずい人でしょ。
やっぱ、妹、見る目なかったんじゃないかよって話。
で、妹は怒って今その男と大喧嘩中。
男も開き直って応戦していたりするらしく、なかなかすごい熱意のあるバトルを目撃した人だって、いるらしい。
その結果、噂好きの女性たちの話のネタの第一位になっているみたい。
私も色々歳を重ねたら、全然関係ない所で起こっている浮気関係の話とかに興味を持つのだろうか…。
と、まあ、そんな状況となっています。
で、妹が、あんたの夫、意外といい人だったのかもしれないし、私と婚約することにやっぱりするのは…云々言い出した。
絶対そんな事させませんけどって感じ。
まあ、もっとも彼が妹の方がいいと言い出したら、話は別だけど…それはたぶんないかなと思う。
☆ ◯ ☆
「今日は、馬車で市場に行こうと思うんだけど、君も来るかい?」
「うん、行く!」
私と彼は平和なので、今日は買い物に行く。
馬車を出してもらって、それに乗って市場に。
最近二人で料理することも多く、シェフなしで自分たちでコース料理を作って、自分たちで食べている事も多い。
なにせ、私が彼の料理のセンスをすごく尊敬しているから。
で、市場に着くと、今日はいつも以上によさそうな食材のオンパレードだった。
素晴らしい。
「よし、これとこれを買ってみようかなと思うんだけど」
「いいと思う! あとこのお魚は?」
「見たことないね。でも白身魚かな、美味しそう。よし、これ、メインディッシュにしてみるか」
「チャレンジングだねー」
「まあね。とりあえず、オリーブオイルとか使って焼けば、いい風味になると思う」
「それを信じる」
市場から帰ってきた私と彼は、早速料理に取り掛かる。
異国の職人が作ったらしい金属の大鍋で、野菜とを煮込む。
「いい感じですわね」
「うん。魚も焼いてみようか」
「はい。オリーブオイル」
「やっぱりオリーブオイル推しなんだね」
「もちろん」
私はうなずいた。
でも、私がオリーブオイル推しなのは彼の影響。
だから、彼も、もちろんオリーブオイル推し。好みが変わってなければね。
で、前菜の茹で野菜のサラダができた。
前菜は生野菜の方が多いかもしれないけど、私たちはあったかいサラダが好き。
さて、前菜を味わっているうちに魚も焼き上がってきた。
「うわあっ。美味しいでしょこれは」
「成功っぽいね」
そして実際に食べてみたら、本当に美味しいお魚だった。
「最高の味だね」
「うん! もっと魚料理に挑戦したくなってきた。南の国の海沿いとかなら、もっと色々な新鮮なに魚が手に入るのかしら」
「そういえば…今度南の国を10日ほど訪ねる予定があるんだ。しかも海沿い」
「そうなの⁈ でも魚をお土産ってのは難しいもんね」
「とはいえ、何か美味しいもの買ってくるよ」
「ありがとう。ていうか、その時は10日くらい、私とは会えないのね」
「そう。それは寂しいな…」
「私も」
楽観的な諦めた人生を送るつもりなはずなのに、寂しいということとは別の不安も感じているのが、自分でわかった。
彼が10日間、南の国へ行く当日。
私は彼をお見送りしていた。
「いってらっしゃい」
「行ってくるよ」
馬車が動き出した。
彼は馬車に乗って、まず港まで行くのだ。。
私も港まで行きたかったけど、彼が、そもそも港までも遠いし、それはいいよっていうから。
久々に1人でのんびりな、私単体の時間が流れ始めたなと思った。
さて、そんな私がやばいと思ったのは、妹が1人で彼と同じ船に乗るっぽいとわかったからだった。
どうして私がそれを知ったかというと、妹と私の名前を間違えて、
「南の国に行ったんじゃなかったの?」
と聞いてきた、なんでもとりあえずしゃべりそうなタイプの上品なおばさんと会ったからだ。
どうやら、妹は夫と離婚して、南の国へ旅に出ることにしたらしく、そういう噂好きの人たちはみんなそれを知っているが、いざ妹の顔はあやふやで、私を妹だと思ってる人もいるってことみたい。
南の国への船は滅多に出ないから、彼と同じ船でほぼ確定って感じかな。
ってなってくると、なんか妹が、彼に色々絡んだりするのが想像できて怖い。
彼は妹に対して、どのように振る舞うのだろうか…。
色々想像すると、どんどん疲れそうなので、私は本を読みまくることにした。
本を読みまくった結果、一日でめちゃくちゃ歴史に詳しくなった私。
ちなみに…このペースで10日間過ごしたら、とんでもなく博学になるぞ。
と思ったけど多分そんなことはないな。
読めば読むほど、ちょっと前に読んだのを忘れていくに決まってる。
なおさら、この10日間が本当に意味のないものになってしまう。
でもなあ…。
どうしよう。
今頃妹と彼は同じ船に乗って、波の上にいるはず。
だから…気になるでしょ!
決めた。違うジャンルの本読もう。
物語ね物語。
私、書く側の割には物語読まないけど、こういう時に読むのがベストだよね。
で、二日目は物語を読みまくってみた。
ダメだ。
全然いつものように物語を楽しめない。
ほんと…どうしたらいいんだろう…。
私は決めた。
そうだ。
彼が帰ってきたら振る舞うために、料理の研究をしよう。
新しい料理をいっぱい考えるんだ。
自分しか食べないから失敗した時のリスクも小さい。
彼がいないのが逆にチャンスってわけ。
三日目。
私は市場でたくさん買い物をした。
量がたくさんってより、種類がたくさん。
よーし。めっちゃ美味しい新たなメニューを作ってやる。
というわけで、色々作って色々味見した。
あ、もちろんその間、執筆の原稿を進めたりもしてるからね。
だけど、執筆して料理してだと…ほんとに運動しないで食べるのだけはいつも以上ってことになるわけよ。
10日目…。
私、太りました。
短期間での増量。
騎士団の人たちが体重増やして鍛えようとしてるって聞いたことあるけど、それみたいなことになってそう。
これじゃあ彼に会いたくない…。
私はなんとかふわっとしたワンピースを着て、彼を出迎えることにした。
そして彼が帰ってきた。馬車から降りてすぐに私に笑いかけてくれる。
「ただいま」
「おかえり。ねえ、新しく考えたすごく美味しい料理を作ったよ」
「ほんとに? ありがとう」
「うん。もう少ししたらできるから、ゆっくりしてて」
そしてその後、久々の二人でディナー。
「ワンピースを着るなんて珍しいね。それにちょっとぶかぶか?」
「あっ。それはね…」
もう私は決めた。
全部話した。
色々不安で、結局料理しまくることにしだ結果、それで太っちゃったことを。
「不安にさせてごめんね」
「謝らないで。私が勝手に不安になっただけだから」
「でももう、僕は君をそんな気持ちにさせたくないんだ。だから…遅くなってごめん」
「これって…」
「指輪だよ。これがお土産なんだ」
「嬉しい…!」
彼とは急に婚約も決まったし、指輪とかもまだだった。
けど、こんな急に、密かに私に用意してくれるなんて…!
私は感動していた。確かに指のサイズの話はしたことがあったかしら。でも、その時は酔っていたし、雑談気分だったのよ。
私は涙を浮かべて指輪をはめて…涙が増大した。
「あれ、もしかして…」
「ゆ、指も太ったあ!」
指輪、入りませんでした。
でも安心したから私は笑ってしまった。
それで、彼に抱きついて、もっと安心した。
ちなみに、次の日から猛烈にダイエットをして、一週間で指輪もはめられるようになった。
めっちゃ頑張りました…。自業自得だけどね。