第3話 結双儀《天輪の間》
天輪の間は、静謐の極みにあった。
円蓋の高みに広がるのは、かつてこの世界の天を写し取ったという星図。
微光を放つ毒結晶のシャンデリアが、その中心でわずかに揺れ、毒の香を漂わせている。
この日、ヴァレリオン宗家の各星から選ばれた天花たちが、その主に陪花を推挙するという儀式《結双儀》が行われていた。
名を呼ばれる少女たちは、ひとりずつ御簾の向こうへ進み、承認されれば陪花として指名が成立する。
第一の周回、血統上位の名門たちの名が順に読み上げられていく。
どれも、予測された通りの指名だった。
シアノ・コーエンは、呼ばれなかった。
予想通りだ、と自分に言い聞かせる。
まだ、搖光からの正式指名は出ていない。
……だから、まだ、この静けさの中にいられる。
呼ばれたくないという気持ちが抑えきれない。
しかし。
二周目の始まり。
読み上げられる名に、一瞬、ざわめきが走る。
「天樞天花、黒鳥サシャ・マリール。天樞の陪花一席に、シアノ・コーエンを指名致します」
世界が止まったようだった。
場に沈黙が落ちる。
御簾の内側で、何かが話し合われている気配があった。
でも内容は聞き取れない。
ありえない、という視線が集まる。
天樞は、陪花を持たないと明言していた星だった。
天花サシャも、これまで誰ひとり薦めたことはなかった。
──その彼女が、制度上すでに指名が進んでいたと見られていたシアノを、割り込む形で推挙した。
しばしの沈黙の後、天の砦の侍女が一歩進み出た。
「天樞天花の指名を受理します。シアノ・コーエン、天樞の陪花一席」
毒の光が、もう一度きらめいた。
天井の星が、僅かに揺れる。
それが、制度の決定だった。