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“王太子ざまぁ”を目指したはずが、家族と第二王子が過激すぎて大勝利になりました  作者: ぱる子


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最終話 新たな始まり…そしてハッピーエンド!②

 宴の熱気が少し落ち着いた頃、使用人たちが慌ただしく片付けを進める横で、私は一人サロンのソファでくつろいでいた。父と兄は大広間でまだ盛り上がっているらしく、ノエルもお菓子を配ったりして駆け回っている。このひとときだけはほっとできる。そんな安心感を味わいながら、私はゆっくりと紅茶を口に運んだ。


「ふう……平穏って、こんなにもありがたいものだったのね」


 口に出して呟くと、不意にサロンの扉がノックされる。誰かしらと思って「どうぞ」と返事をすると、開いた扉の向こうに見えたのは、まさかの来客――セバスティアン・イグナシオだった。しかも夜分に。

 私は思わず背筋を伸ばしながら、彼の姿を見つめる。いつもながら、あの金色がかったプラチナブロンドと整った面差しが目に入ると、少しだけ胸がざわつくのを自覚してしまう。でも、ここでうろたえるわけにはいかない。


「セバスティアン殿下……よくこんな時間にいらっしゃいましたね。うちの門兵、びっくりしませんでしたか?」


「ふふ、驚いていたよ。『こんな夜更けに、どちらさまで?』とね。でも公爵家だからといって、僕が遠慮する必要はないと思って訪ねただけさ。……それに、少し話したいことがあってね」


 軽く扉を閉め、室内に入ってきた彼は、相変わらず隙のない佇まいで微笑んでいる。宴の残り香が漂うサロンには使用人もいないため、二人きりになるのがどうにも落ち着かない。私はテーブルにあった紅茶をすすめようか迷ったが、とりあえず自分が落ち着きたいと思い、手を膝の上で組んだ。


「話って、王太子の件ですか? あれならあなたの狙い通りになったんじゃないですか。殿下が地方へ修行に出るなんて、実質的に王位継承権を失ったようなものだし」


「まあ、そう言えるだろうね。兄上が騒ぎを起こすたびに呆れ果てていた父上も、ついに見限った形だ。これで僕は王位に一歩近づいた、ということになるのかもしれない」


 セバスティアンは躊躇なくソファに腰を下ろし、足を組む。その動作さえ優雅に見えるから腹が立つというか、羨ましいというか……。私は心中で小さく舌打ちしながらも、堂々と話を続ける。


「やっぱりあなたが王になるかもしれないのね。お兄さまがあんな状態じゃ、そうなる可能性は高いと思うわ」


「そうだ。そこで、おまえはこれからどうする? 王太子への復讐は一応終わったんだろう? 兄上は転落して、もう公爵家をどうこうする力はない。おまえが得たいものは手に入れられたんじゃないか?」


「そうね……王太子に対する恨みは晴れたし、コーデリアも自滅寸前。私にとっては十分な結果。でも、だからって私があなたに従う必要があるわけじゃないでしょう?」


 突き放すように言うと、セバスティアンはクスリと笑った。どうやら、その冷たい笑みで私を逆に翻弄する気らしい。彼の瞳には楽しげな光が宿っていて、まるで私の心境を見透かすように首をかしげる。


「はは、別に従わせるつもりはないさ。ただ、おまえもまだ面白い相手が残っていると思わないか? このまま終わりでは退屈じゃないか、ってね」


「面白い相手って……あなたが王になったら、私をどうしようってわけ?」


「さあ、どうかな。おまえが望むなら保護するし、拒絶するならそれもいい。だけどもう少し、僕のそばで踊ってくれてもいいんじゃないかと思ったりしているよ」


 まるで冗談交じりの口説き文句。私は思わず顔を赤らめそうになるが、それを必死で抑え、むしろその挑発をクールに受け流すよう心掛けた。


「……あなたが“冗談”で言ってるならまだしも、本気で言ってるなら、正直むかつくわね。私に興味を持ってるアピールをして、いったい何がしたいの?」


「さあ、何だろうね。欲しいものはいくらでもあるけれど、おまえだってその中の一つかもしれない。兄上をあれだけ叩きのめしたおまえの実力を、僕は高く買ってるんだ」


「買ってる、ね。人をモノみたいに言わないで」


 私がきつめに返すと、セバスティアンは「失礼」と肩をすくめる。そこに悪気があるわけではないのだろうが、相変わらず“俺が支配者になるかもしれない”という余裕を隠せていない。

 それでも、以前のような純然たる疑いだけではなく、どこかロマンスじみた妙な空気を感じるから腹立たしい。私は態度を崩すまいと決め、ソファに背を預けながらうつむく。


「……あなたは私を手駒として使うの? それとも何か本気で想っているかのように振る舞って、私を惑わそうとしてるの? どっちにしても性格が悪いわ」


「それは褒め言葉として受け取っておくよ。僕は世間からすると、腹黒くて得体の知れない人間らしいからね。でも、おまえだって世間には“ちょっと過激な公爵令嬢”と見られてるんじゃないか? 意外とお似合いかもしれない」


「うるさいわね。……そんな見られ方を好んでるわけでもないし」


 顔が熱くなるのを感じて、私は思わず扇子で口元を隠す。セバスティアンが少し身を乗り出してきたのを感じ、ドキリと胸が高鳴る。どうしてこんなに落ち着けないんだろう。悔しいけれど、この人の色気はやっぱり無視できない。

 そうこうしているうちに、彼はソファからゆっくり立ち上がった。私に近寄ることはせず、わずかな距離を保ったまま、残酷にも美しい微笑を投げかける。


「まあ、ここで結論を出す必要はないさ。ただ、これからも僕が王位を狙う以上、おまえにもメリットがある話かもしれない。……利用するかどうかはおまえ次第。僕は別に強要しないから安心してくれ」


「安心なんかできるもんですか。あなたが口にする“メリット”って、絶対ロクでもないものばかりでしょ」


「はは、それはどうだろうね。ともかく、王太子が失脚して退場した今、俺が王になるかもしれないことだけは事実だから。忘れないでくれ、リリエッタ」


 私の名前をフルネームで呼んだ後、セバスティアンは踵を返して扉へと向かう。風のように現れて風のように消えていくその姿に、私は内心ため息を吐く。あの金の瞳がラスト一瞬、私を捉えていたことが妙に焼き付いてしまった。

 何か言い返そうと思ったが、結局言葉が出ないまま、扉はそっと閉じられる。サロンに残った静寂と、心臓の鼓動だけがやけに大きく感じられる。


「……面倒くさい人ね。まだ何かが続くというわけか」


 私はそう独りごちる。王太子への恨みは晴れたけれど、セバスティアンという新たな要因はまだ場を離れずに存在している。それが悪いことばかりではない――しかし、私の感情を揺さぶる相手であることは間違いない。

 ああ、忌々しい。口説き文句めいた言葉にまんまと胸がざわつくなんて。私らしくない。悔しさともどかしさが入り混じった気持ちで、私はテーブルに戻り、ややぬるくなった紅茶を一口含んだ。ほんのりと甘い味わいが、いまは苦味さえ感じさせる。


「……むかつく。でも、無視できない。ほんと、あの男は性格が悪いんだから」


 軽く自虐気味に笑いながら、私は紅茶のカップを置く。視線を窓に向けると、夜の闇がしとやかに広がっていて、まるで先の見えない道筋を示しているかのようだった。

 王太子が消えても、物語は終わりではない。セバスティアンの存在がある限り、私が完全な平穏を手にする日はまだ先かもしれない。でも、同時に心のどこかでほんの少しだけ期待している自分もいる。彼とどこかで一緒に戦うことがあるのなら、王太子以上の厄介事が起きるのかもしれないし、意外な幸運が訪れる可能性も捨てきれない。


「また嵐がやってくるのかな……。でも、まあいいわ。王太子よりはマシかしらね」


 妙に前向きな結論に落ち着きながら、私はひとつ大きく息を吐いた。胸の鼓動がまだ騒いでいるが、夜はもう深い。宴で騒ぎ疲れた家族と、自分の揺れる感情を整理するために、今は少しだけ眠りたい。

 セバスティアンの“冗談交じりの口説き文句”を思い出して、顔が熱くなるのを感じながら、私は頬を押さえて立ち上がる。サロンの扉を開けると、廊下から吹き込んだ静かな夜風が心をクールダウンさせてくれた。


「……さあ、どんな面倒が待ってても受けて立つしかない。私には家族とノエル、そして……ちょっと腹黒い、でも無視できないあの王子がいるし」


 少しだけ笑みを浮かべ、私は一歩踏み出す。夜の公爵家は宴の名残でまだ騒がしいが、私の胸にはほのかなときめきと警戒心が入り混じり、これからの物語を暗示しているかのようにざわついていた。

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