第18話 王家会議、開幕! 偽証 vs. 暴露合戦②
王家会議の大ホールは、静かに重々しい空気が漂っていた。国王フレデリックが正面の高座に座り、その両脇を重要貴族や高官たちが取り囲む形だ。壇下には公爵家をはじめ、セバスティアンや他の重鎮たちが一堂に会しており、会議というよりは一種の公開裁定に近い雰囲気が漂っている。
そんな中、王太子アルフレッドとコーデリア・フローランが、まるで勝ち誇ったかのような態度で中央に立っていた。厳かな場に似つかわしくないほどの張り切りようで、背筋をピンと伸ばしたコーデリアがまず大げさにお辞儀をし、周囲に向かって声を張り上げる。
「皆さま、ご清聴いただけますか? 本日は、王太子殿下の冤罪を晴らすため、私がとっておきの“証拠”を提出させていただきたく存じます!」
その一言に場内がざわついた。貴族たちは「え、冤罪って……」「あの殿下が被害者?」と疑問を口々に囁き合い、壇上の王も半ば眠そうな目をわずかに開いた。一方、セバスティアンは薄い笑みを浮かべて静観しており、公爵家の席にいるリリエッタは不安げな面持ちを隠せない。
コーデリアはそのざわめきに頓着せず、一枚の書類を手に掲げた。
「ここに示されているのは、公爵令嬢リリエッタ・フォン・グラディスと第二王子セバスティアン殿下が不正な金銭のやり取りを行い、王太子殿下を貶めるために計画的に捏造を行ったという動かぬ“証拠”でございます!」
場内が一段と騒がしくなる。書類には何やら金の流れを示すような数字やサインが書かれているらしく、周囲の貴族モブたちが首を長くして覗き込みたい様子だ。
アルフレッドはその隣で胸を張り、「そうだ、オレは罠にはめられてたんだ!」と息巻く。
「前回の舞踏会でも、やたら証拠を突きつけられてオレを追い詰めたけど、全部リリエッタと第二王子が裏でぐるになって仕掛けてたってわけだ! オレが遊興に浪費してたとか、そもそも嘘だったんだよ!」
言い分だけは威勢がいいものの、明らかに眉唾な気配が漂う。そもそも王太子の浪費は目撃証言も多いし、誰がどう聞いても辻褄の合わない話ばかり。だが、コーデリアはさらに勢いを増して説明を続ける。
「こちらの書類には、リリエッタ・フォン・グラディスとセバスティアン殿下が定期的に資金を動かしていた証跡が記されております。殿下を嵌めるために闇の使途へ回していたという証言も……!」
彼女が得意げに書類を振りかざすと、モブ貴族のあちこちで「ほんとかよ……?」「まさか公爵家と第二王子が結託してたのか?」という声が飛び交う。一方、壇上の国王フレデリックは眠そうに杖をトントンと打ちならすが、目がどこまで開いているのか怪しい。
セバスティアンは隣の席に座ったまま、涼やかな瞳でコーデリアを見上げた。彼の唇に浮かぶ冷笑のようなものを見て、幾人かが「絶対にあの人は黙ってないぞ……」と背筋を震わせている。
当のリリエッタは、公爵家の席で蒼白な顔になりながらも必死に平静を保っている。ヴォルフガングとレオンハルトが今にも立ち上がりそうな勢いを見せるので、何とか「待って、まだ様子を見て!」と小声で説得しているらしい。
「で、殿下とコーデリア様がおっしゃる“証拠”とはどんなものかな?」
静かに口火を切ったのはセバスティアン。彼は笑みを湛えながら腰を上げることなく、コーデリアのほうを軽く顎で示す。その仕草が挑発的で、コーデリアも一瞬「うっ」と言葉を詰まらせたが、すぐに張りのある声で叫ぶ。
「お見せしますわ、第二王子殿下。これこそ、あなたがリリエッタと裏で糸を引いていたことを示す、決定的な資料です! さあ、何と仰いますか!」
コーデリアが手渡そうとした書類をセバスティアンは受け取ろうとしない。軽く手のひらを上げて拒絶し、「いや、そこまでやらなくていい。何と仰うか、ね。まずはそちらの話をすべて聞こう」と再び腰を下ろす。
あくまで余裕を見せる第二王子に、アルフレッドが苛立たしげに「おまえこそ認めろよ!」と声を荒らげる。
「セバスティアン、おまえはオレを嵌めるためにリリエッタと組んでたんだろ! ここで全部暴露してやるからな!」
貴族たちは「はあ?」と曖昧に首を傾げる。まさかこんな話が真実だと信じる人は少ないが、王太子の態度があまりにも自信満々なので、彼らも判断がつきかねている様子だ。
壇上のフレデリックが「ふが……なんだ、また揉め始めたのか?」と呟いているあたり、まだ本格的に介入する気はなさそうだ。王太子とコーデリアは、このすきに一気に攻勢を仕掛けようとでも思っているのだろう。
「王太子殿下の“浪費”とされていた数々の証拠は、リリエッタ・フォン・グラディスが巧妙に仕立てたんです! そして、第二王子殿下も加担して公に殿下を失墜させようとした――これこそが真相ですわ!」
大ホール全体が「ほんとに?」という空気に包まれる。コーデリアの声は澄んでいるが、説明の根拠が曖昧すぎて、むしろ皆の不信を煽っているとも言えそうだ。
その一方で、アルフレッドは「そうだ、オレは罠にはめられたんだ! オレが馬車を買ったとかドレスを買い漁ったとか、全部でたらめだ!」と騒ぐばかり。明らかに辻褄が合わないのに、彼はそこに気づかない。
「ええ、国民も騙されていたんですよ。あの優雅な公爵家にまさか裏の暗部があったなんてね。だからリリエッタがやたらと殿下を叩いていたのも納得できません?」
コーデリアが得意気に言うが、セバスティアンは笑うでもなく、ただ「ふむ」と鼻で笑うような素振りだ。貴族たちも何か言葉に詰まり、「いやあ、さすがに強引では……」という声がちらほら聞こえる。
リリエッタが向こうで明らかに困惑した表情を浮かべているのが見える。傍らのレオンハルトやヴォルフガングが「あいつらふざけやがって!」と今にもぶち切れそうなので、リリエッタが必死に止めているようだ。
「……どうやら、そちらの話だけで皆を納得させるのは難しいかもしれないね。さあ、どう証明するのかな?」
セバスティアンが低く静かな声で言い放つ。その言葉に、コーデリアは一瞬ムッとした顔をするが、すぐに自信満々の笑みで書類を掲げた。
「証明ならお任せを。これから次々に“事実”を出してまいりますので、第二王子殿下こそ覚悟なさってください! この大舞台で、あなたが仕掛けた数々の陰謀をすべて暴いてみせます!」
モブ貴族たちが「本当か?」と興味津々で前のめりになる。王太子アルフレッドは隣でさらに気を吐いているが、あまりに自信過剰な姿勢に「なんか胡散臭いぞ……」と思う者が増えている模様だ。
こうして「公爵家と第二王子の共謀」という大見得切りのシナリオが、コーデリアと王太子から一方的に提示される形となった。国王フレデリックはまだ本腰を入れていないのか、壇上で杖をトントンやりながら「ふが……まあ、話を聞こうか」と言うのみ。
一方、リリエッタのほうは大人しく座っているのが精一杯の様子だが、その場の流れを冷静に見極めようとしているらしい。セバスティアンはそんな彼女の姿を横目で捉えつつ、冷笑を深めるばかり――いよいよ“偽証”と“暴露”のバトルが幕を開けた、といったところだ。
これから起こるのは、コーデリアと王太子による荒唐無稽な主張の連続か、はたまた公爵家やセバスティアンが用意した反撃か。いずれにしても、ここから先は大騒ぎ必至。貴族たちは期待と不安でざわめき、王国の未来を賭けた(?)一大ショーの始まりを前に、息を呑んで成り行きを見守るのだった。




