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“王太子ざまぁ”を目指したはずが、家族と第二王子が過激すぎて大勝利になりました  作者: ぱる子


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第14話 第二王子セバスティアンの思惑①

 朝の陽射しが柔らかく差し込む公爵家の応接室。私はソファに深く腰かけ、ゆったりと紅茶を味わっていた。先日からの騒動を思うと、たまにはこんな静かな時間を満喫してもいいだろうと思っていた矢先――使用人が慌てた顔で駆け込んできた。


「リリエッタ様、第二王子セバスティアン殿下がご来訪です!」


「……セバスティアン、殿下が? 何の用なのかしら」


 思わぬ知らせに胸がざわつく。彼が私の屋敷を訪れるなんて、普通はよほどの要件があるときだろう。私が紅茶をテーブルに置き、少しだけ身だしなみを整える間に、応接室の扉がそっと開く。そこに現れたのは相変わらず優雅な笑みをたたえたセバスティアン・イグナシオだった。


「おはよう、リリエッタ。朝早くに突然申し訳ないね。どうしても話しておきたいことがあってね」


 軽やかな足取りで室内に入ってくるセバスティアン。プラチナのような髪が日の光を受けて揺れ、その見惚れるような美貌にドキリとするのを必死で押さえる。こんな時こそ平静を保たないと、彼にペースを握られてしまう。


「話って……コーデリアの動きのこと? あなた、彼女が私を逆恨みしてるって分かってるのよね」


「へえ、察しがいいな。実はね、あの女は王太子を利用して、また何か馬鹿なことをやらかす気でいるらしいよ。僕も裏で情報を集めてみたんだが、残念ながらすべてが確定ではない。だからこそ、お前に警告しておきたくてね」


 セバスティアンがソファに腰を下ろし、まるで自宅かのようにくつろぐ態度を見せる。私は少々イラッとしながら、「ふうん、あなたが私を気遣ってくれるなんて珍しい」と皮肉まじりの微笑を返した。


「はは、別にお前を助けたいわけじゃない。どちらかというと、兄上――アルフレッドがまたバカな動きをするなら、ここで徹底的に失脚させておきたいんだよ。言ってみれば、お互い利害が一致するだろう?」


「つまり、あなたが本気で王太子を追い落としたいのね。私が復讐を完成させるためにも、そうしたほうが都合がいいってことでしょ?」


「ご理解が早くて助かる。コーデリアは馬鹿げた嫉妬心と、殿下への執着で動いている。そこに兄上の中途半端なプライドが絡めば、大きな騒ぎになるのは目に見えてる。その前に僕と手を組んで、うまく立ち回らないか?」


 セバスティアンが妖艶な微笑をたたえ、私をじっと見つめてくる。あまりにも自然な仕草で隣に座るものだから、私の心臓はやや早鐘を打ってしまう。それを必死で抑えながら、言葉を繰り出す。


「手を組むって……私があなたを信じられないのは分かってるわよね。あなたは自分の都合のいいように私を利用するつもりでしょ?」


「まあ、利用という言葉は嫌うかもしれないが、僕としては“WIN-WIN”を提案してるつもりさ。お前は兄上に仕返しがしたい、僕は兄上を王位から引きずり下ろしたい。コーデリアの策とやらを逆手に取れば、一網打尽だろう?」


「勝手に話を進めないで……」


 そのとき、応接室のドアが乱暴に開き、兄レオンハルトが剣呑な目つきで顔を出す。どうやらセバスティアンの来訪を知って警戒したらしい。


「リリエッタ、こいつが何しに来た? 変な口車に乗せられるなよ。第二王子だろうが何だろうが、妹を利用するなら容赦はしない」


「ふん、僕に害意があると決めつけるとは相変わらずですね。まあ、ご心配なく。僕はただ兄上を徹底的に失脚させる提案をしているだけで、君たち公爵家に損はないよ」


「損があるかないかは問題じゃない。妹が嫌がるならそれで終わりだ」


 レオンハルトが激しい視線を投げかけると、セバスティアンは煽るように口元を吊り上げる。私は二人の間に挟まれ、冷や汗をかきながら必死に仲裁に入る。


「ちょ、ちょっと落ち着いて。兄さま、殴りかかったりしないでよね。セバスティアン殿下、あなたも挑発はやめて」


「はは、冗談だよ。僕としてはお前に協力を申し出ただけさ。強制もしない。ただ、お前の復讐がまだ終わってないなら、僕は手伝えるって話だ」


「……それはわかる。あなたを利用するのは私にとってもアリだと思ってる。でも、信じきれない。あなたがいつ裏切るか分からないもの」


 私が唇を噛みながら言うと、セバスティアンはまるで愉快そうに声を上げて笑う。隣で兄が「なんだその笑いは」と剣呑なオーラを放っていて、どうにも場が落ち着かない。


「まあ、疑いがあるなら無理に合意する必要はないさ。ただ、コーデリアの策とやらが本格化すれば、今度はお前の周りにまで被害が及ぶかもしれない。そこをどうするか考えておいてくれないか?」


「……わかったわ。近くまた何か起きれば、そのときに話を聞くかもしれない。でも無理強いはしないで」


「了解。じゃあ、一応これを持っておいて。僕が仕入れた情報の断片だ。もし興味が湧けば、連絡をくれ」


 セバスティアンはスッと私に小さな封筒を手渡す。中には薄いメモのようなものが透けて見える。それを受け取った瞬間、兄が「無闇に受け取るな!」と声を張り上げるが、もう遅い。私は反射的にそれを握りしめてしまっていた。


「さて、僕はこれで帰るよ。妹さんの激昂に巻き込まれるのはごめんだからね」


「兄さまの激昂、でしょうに……」


「どっちもだよ。君たち一家は揃いも揃って過激だ。僕まで巻き込まれたら困るからな」


 セバスティアンがあっさりと立ち上がり、軽く一礼して退室していく。兄レオンハルトは相変わらず睨んでいるが、セバスティアンはまるで後ろからの攻撃なんて想定していない風だ。さっそうと応接室を出て行く足音に、私は複雑な思いを抱く。


「くそ、あいつは一体何を企んでるんだ……妹を誘って裏でどうにかしようなんて、絶対に認めんぞ」


「兄さま、落ち着いて。私だって無闇に彼を信用するつもりなんてないわ。正直、いろいろ怪しすぎるし」


「ならいいんだがな。あいつの色香に眩んで変な誘惑に乗らないようにしろよ?」


「だ、誰が眩むものですか! ……とにかく、コーデリアの動きを警戒する手段の一つとしては使えるかもしれない。大丈夫、変に踊らされないから」


 言葉こそ強がってみせるものの、セバスティアンの妖艶な微笑を思い返すたびに胸がドキリとする自分が嫌になる。まったく、あの人の余裕ぶった態度は腹が立つ一方、心をかき乱す。不覚ながら意識してしまうのが悔しい。


「まあ、おまえがそう言うならいい。だが気を付けろよ。もしあいつに変なこと吹き込まれたら、俺が即座に叩きのめすからな」


「はいはい、もう分かったってば。暴力沙汰は勘弁してよね。……はあ、コーデリアの話を聞くだけで面倒なのに、今度はセバスティアンまで絡んできて……」


 私は懸命に気を取り直し、封筒を見つめる。中にはどんな情報が書かれているのか――裏で動くコーデリアのことが多少は詳しく分かるのかもしれない。少なくともセバスティアンがわざわざ持ってきたものだ、得るものはあるはずだ。


「……仕方ないわね。せっかくなら彼の動向も読み解いて、状況を把握しないと。またコーデリアの悪あがきに巻き込まれたら、正直こっちが疲れ果てちゃう」


「俺も協力するぞ。妹の安全のためなら何でもするからな」


「そこまでやられるとこっちが捕まるってば……」


 兄のシスコン全開の発言にツッコミを入れつつ、私は改めて封筒を握り締める。第二王子セバスティアンの思惑――それは決して私の味方をするためのものではない。それでも、彼が動くなら私はその動きすら利用してみせる。

 コーデリアが一度は姿を消したのは確かだが、そこに謎の協力者が加わった噂もあり、今後どんな波乱が起きても不思議じゃない。王太子の件がひと段落ついたかと思えば、別方向から次の嵐が吹き荒れる予感だ。

 背筋に薄ら寒いものを感じながらも、私は胸を張る。父と兄、そしてノエルとの連携があれば、どんな陰謀も跳ね返せるはず。そしてセバスティアンをも利用するかどうか、そこは私の腕次第――そう考えると、不思議と闘志が湧いてくる。


「よし、兄さま。まずはこの資料を確認して、コーデリアの動向をより正確に掴みましょう。余計な暴力はなしでね」


「ぐっ……わ、わかったよ。すぐにでも出撃したいところだが、おまえがそこまで言うなら我慢する。……でも本当に危なくなったら即呼ぶんだぞ」


「もちろん。私も自滅はごめんだもの」


 こんなふうに兄をなだめつつ、私は次なる一手を探るべく気持ちを新たにする。第二王子の思惑がどこへ向かうのか、コーデリアがどんな策に出るのか――不安の種は尽きないけれど、だからこそ負けるわけにはいかない。

 “逆襲”が始まろうとも、私は今回こそ逃げずに立ち向かう。セバスティアンの妖艶な微笑すら、利用してやるくらいの気持ちで――そう強く誓いながら、私は小さくため息をつき、その封筒の封をゆっくりと開けた。

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