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“王太子ざまぁ”を目指したはずが、家族と第二王子が過激すぎて大勝利になりました  作者: ぱる子


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第13話 兄の暗躍とノエルの情報網③

 ノエルはいつにも増して熱のこもった足取りで部屋に飛び込んできた。ドアが勢いよく開く音に、私はびくりとして手元のペンを落とす。つい先ほどから「どこかで走っている足音が聞こえる」と思っていたのだけれど、まさか我が侍女がこんな勢いで飛び込んでくるとは。


「お、お嬢様、大変です! コーデリア様が本格的に動き出しそうな気配ですよ!」


「動き出すって……ちょっとノエル、まずは落ち着いて。ほら、息切れしてるわよ。いったい何を掴んだの?」


 私は驚きながらもノエルを促して椅子に座らせる。彼女は息を整える間も惜しむように、詰まった声で報告を始めた。どうやらコーデリアがどこかの怪しげな人物と密会しているという噂が具体化してきたらしく、先日の失踪騒ぎも何らかの策略によるものと推測されるらしい。


「やっぱりそうなんだ……うん。私も嫌な予感はしてたけど、本当にまた騒ぎを起こすつもり?」


「はい。単なる空回りかもしれませんけど、どうやら今回は単独じゃないみたいで……協力者がいるという話です。詳しくは掴めてないんですが、フードを被った謎の相手と会っているという目撃情報が多々ありました!」


「フードを被った相手、ね……。あのコーデリアが、単独じゃなく裏工作っていうのも奇妙な話ね。普通なら目立ちたいコーデリアが、あえて潜伏してるわけだし……」


 私はノエルからの報告を頭の中で整理しながら、嫌な胸騒ぎを覚える。コーデリアはあんなド派手な性格だから、周囲の目を引く活動ならいくらでもやりそうだけど、わざわざ身を隠して動くとなると少し勝手が違う。そこに謎の協力者まで加われば、今度はただの自爆劇では終わらないかもしれない。


「……はあ、もうやめてほしいわ。アルフレッドの件がひと段落ついたと思ったら、今度はコーデリアが暗躍? 本当に次から次へと面倒なことばかり……」


「お嬢様、すみません。もっと早く情報を集められればよかったのですが……」


「ううん、いいのよノエル。これだけ素早く調べてくれるだけで十分すぎるわ。ありがとう」


 私が感謝を述べると、ノエルは少しだけ表情を和らげる。だけど、ここで終わりじゃないのが我が家のいつものパターンだ。案の定、部屋の奥からひょいと顔を出したのはレオンハルト兄さま。何かを聞きつけたのか、勢い込んで姿を見せる。


「ふん、コーデリアが逆襲を狙ってるだと? だったら先に潰すまでだろ。さっさと俺たちのほうが動けば楽勝だ」


「で、出たわね、兄さま。すぐにそうやって物騒なことを言わないでよ。潰すとか……」


「何を言う、あんなお嬢ちゃんが裏で動こうが、こっちが先手を打てばいいだけじゃないか。公爵家を敵に回すなんて愚かな真似をしてる時点で終わりさ」


 兄の口ぶりは相変わらず過激すぎる。たしかにコーデリアが何を企もうと、こっちは公爵家。戦力や人脈で勝っているのは間違いないけれど、私としては大事を起こさないよう気を配りたい。ここで騒ぎ立てれば、また面倒ごとが増えるからだ。


「いいえ、兄さま。そんな強引な手段を取れば、今度は私たちのほうが非難されるかもしれないじゃない。コーデリアが本当に危険なことを計画しているのかまだ分からないし」


「だが、奴はすでにおまえに散々敵意を向けてきたじゃないか。先に潰すのが最善だろう。逆にここでのんびり構えていたら、あの娘に奇襲でもされたらどうするんだ?」


「だからって、すぐに力ずくで解決しようとしないで! もう何度も言ってるでしょ?」


 ぐっと拳を握りながら、私は兄を睨む。兄は肩をすくめ、「しょうがない。妹がそう言うなら少しは待ってやる」と渋々引き下がるような態度だが、いつ反転攻勢に出るか分かったものじゃない。


「まったく、なんでみんな行動が極端なのかしら……。どっちにしろ、今は情報収集を優先するのが賢明よ。コーデリアが本当に陰謀を企んでるなら、いきなり叩きに行くより、証拠を押さえてからにしたほうが確実だわ」


「リリエッタお嬢様のおっしゃるとおりです!」とノエルが満面の笑みで同調してくれる。兄は「フン」と素っ気なく鼻を鳴らして、私たちを見やる。


「じゃあ早めに何を企んでるか突き止めろよ。俺はいつでも力の行使に賛成だが、妹の方針も尊重してやる」


「はいはい、ありがとう、兄さま。とにかくコーデリアが何をしようとしてるか、みんなで慎重に見極めましょう。もしあの子が馬鹿な真似を仕掛けてきたら、そのときは一緒に止めましょうね」


「そのときは“止める”というより“叩き潰す”だが……ま、いいか」


 兄が苦笑まじりに言って引き下がると、私は大きく息をつく。そもそもコーデリアには、これまで散々ふざけた嫌がらせをされたとはいえ、わざわざ武力で対抗するほどの深刻な脅威とまでは思っていない。もちろん、今回ばかりは協力者がいるという話があるから油断はできないけれども、どうしても大騒ぎに発展する未来しか見えないのが嫌だ。


「お嬢様、これからどうされますか? 私、もう少し調べを進めてみますけど……」


「うん、ノエルの情報網は本当に頼りになるからお願い。でもくれぐれも無理しないでね。コーデリアに直接ぶつかるのは危険だし、何よりあの協力者が何者か分からないわ」


「はい、承知しました。暗殺術を使うような相手だったら怖いですもんね」


「そこまで想像したくはないけど……まぁ警戒しておいて損はないわね」


 私としても、こんなに短期間で何度も大騒ぎを経験するのは勘弁願いたい。ただでさえ、王太子の婚約破棄を巡って苦労したばかりなのだ。しばらくは静かな日々が戻ってくると思ったのに、再び不穏な空気が漂いはじめたというわけ。


「まだ何かしてくるつもりなのかしらね、コーデリア。あれだけ派手に失敗したのに……」


 大きく肩をすくめつつ、私は苦笑を浮かべる。きっと彼女の性格上、簡単に反省なんてしないのだろう。むしろ舞踏会での屈辱を糧に、ますます逆恨みを燃やしている可能性が高い。


「……ふう。結局、平穏なんてまだまだ先みたいね」


「お嬢様、大丈夫ですよ。どんなに大騒ぎになったって、私はお嬢様を守るつもりですから。兄さまも……過激だけど味方してくれますし」


「それもそうね……でも、あまり周囲に迷惑はかけたくないし。コーデリアがどう動こうと、今度こそ可能な限り穏便に終わらせたいわ」


 「穏便」で済めばいいけれど、父と兄の過激発言を思い出すと、思わず頭痛がする。でも、私は諦めない。もう一度コーデリアを迎え撃つことになったとしても、先に情報を押さえておけば対処は可能だろう。それに、前回のように独自の計画を練って待ち構えるぐらいの余裕が生まれている。


「本当にもう……彼女もやめておけばいいのに。でも、そこがコーデリアの残念なところかしら」


 自分で言いながら、苦笑してしまう。あの浮世離れした派手好きと自己顕示欲は簡単には直らないのだろう。そんな彼女が怪しい協力者を得たなら、ある意味最悪の方向へ向かうのは自然の流れかもしれない。

 私は窓の外を見やる。さっきまで涼しかった風が、やや生ぬるい気配を漂わせてきた気がする。まるで嵐の前ぶれのようで、胸の奥に再び嫌な予感が疼く。


「さて、次はコーデリアの謎のパートナーを探る感じかな……」


「はい、私にお任せください! お嬢様に危険が迫る前に、その協力者がどんな手段を使うかも調べてみます!」


「頼もしいわ、ノエル。くれぐれも気を付けてね。コーデリアも協力者も、いつ何を仕掛けるか分からないし」


 ノエルが力強く頷き、笑顔で部屋を後にする。その背中には「お嬢様のためなら全力!」というオーラが漂っていて、私が少し怖くなるくらいの勢いだ。

 こうして、次なる“大騒動”の火種がちらつきはじめる。コーデリアの動向だけでなく、その謎の協力者――もしかすると、二人でかなりの悪知恵を巡らせているかもしれない。それを考えると気が滅入るが、もう逃げる気はない。私は深く息を吐き、椅子に戻った。


「ふう、本当に平穏への道は遠いわね……でもまあ、やるしかないでしょう」


 それでも前よりはずっと自信があるのは、私に父や兄、そしてノエルがついているからだろう。皆、やり方こそ極端だけど、いざとなれば力になることは間違いない。

 そう自分に言い聞かせながら、私は空に浮かぶ薄雲を見上げた。この先どんな大嵐が来ても、今ならたぶん何とか乗り切れる。コーデリアとその協力者が何を企もうと、負けるつもりは毛頭ない――そんな確信を胸に、私は再び書類を手に取り、日常へと意識を戻していく。

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