第10話 暴露開始! 王太子の醜態とライバル令嬢の自滅②
王太子アルフレッドとの攻防がいよいよ佳境へ差し掛かったそのとき、突如として割り込んできたのは、ぎらぎらと輝く宝石ドレスに身を包んだコーデリア・フローランだった。ドレスから漂う圧倒的な光量に、周囲の貴族たちは思わず顔を背けるように反応する。私の目にも刺激が強すぎて、ほんの一瞬だけ視界がちらついた。
「リリエッタ、あなたこそ陰険で卑劣な手段を使って殿下を陥れようとしているんじゃなくて? 今だって、捏造した証拠で殿下を追い詰めているのでしょう?」
コーデリアはいつも以上に強気な口調でまくし立てる。王太子を庇うというより、“自分が彼の隣に立つにふさわしい相手だ”と周囲に宣言したいのだろう。だが、その見当違いなターゲットは私に向けられているようだ。
しかし、その隣の王太子は先ほどの私の追及で顔色が真っ青。まったくフォローに回る余裕などないように見える。実際、彼はコーデリアに対してちらりと視線を投げかけるだけで黙り込んでしまった。
「……私が陰険、ですか。なるほど、証拠をしっかり示すことが卑劣だと仰るのなら、あなたはどう殿下を弁護なさるのでしょう?」
冷静を装って微笑むと、コーデリアは得意げに顎を上げて続ける。
「いいわ、皆さんの前ではっきり申し上げておくわ。リリエッタの言う“証拠”など本当かどうか分かったものではないの。どうせ公爵家の権力を使って都合のいい情報ばかり集めてきたんでしょう? 殿下は無実、そして私こそ殿下の隣にふさわしい……!」
まるで自分の正しさを示すように、コーデリアはドレスの裾をふわりと広げて見せつける。その着飾りぶりは確かに目を引くが、同時に浮いているのも事実。会場のあちこちで「また彼女がやってきた」とか「これは痛い展開では……」という声がひそひそと上がっている。
それでも本人が意に介していないところが、ある意味あっぱれではあるが……。
「なるほど、私の証拠が嘘っぱちだというのなら、証明を求めたいのですが。……ノエル、先ほど用意していた資料を見せてもらえる?」
「はい、お嬢様。皆さま、どうぞこちらをご覧くださいませ」
ノエルがすっと前に出る。彼女は私の書類とは別に、念のため用意していた裏付けデータをあっさり取り出し、コーデリアの目の前に差し出す。そこには王太子が出入りしていた店の記録や、店側の証言をまとめた書類が整然と並んでいた。さらに、公費で支払ったレシートのような明細まで揃っている。
「うっ……! な、なにこれ? こんなもの、私知らないわよ! 何でそんなに細かい――」
「このあたりの情報は店主や使用人など、第三者から得ております。ちなみに殿下のサインとされるものもありますので、捏造だと言われるなら逆に反証をどうぞ」
ノエルの淡々とした口調に、コーデリアの顔が赤くなる。実際に書類に目を通すと、確かにそこには王太子の名が記されており、日付や金額も馬鹿にならない大金の形跡が映っている。たとえ公爵家の権力をもってしても、このレベルの精巧な捏造は難しいと感じるほどだ。
「そ、そんな……でも、リリエッタだって裏でいろいろやってるかもしれないわけだし……こうして殿下をはめる気なんでしょ!? 公爵家の手先なのよ、あなたたち!」
声を荒らげるコーデリアを見て、周囲の貴族たちが失笑を抑えきれずにクスクス笑いだす。まるで証拠を突きつけられた犯人が無理やり相手に罪を擦りつけようとしているみたいで、言葉に勢いがあっても根拠に欠けているのが丸わかりだ。
「私を悪者扱いしたいのなら、きちんとした資料や証言を持ってこないとね。まさか、何も用意していないわけではないでしょう? せっかく殿下を庇うとおっしゃるのだから、ここにいらっしゃる皆さんに分かりやすい形でご説明をどうぞ」
厳しい口調で促すと、コーデリアは「あるわよ、当然!」と声を張り上げるものの、困ったことに手元には何も見当たらないらしい。宝石ジャラジャラのドレスにポケットなどあるはずもなく、控えているメイドも「え、あれはどうされますか……?」とおろおろしている。
「ぐっ……じゅ、準備は……していたはずだけど、どこに……。メイド! 早く出しなさいよ!」
慌てふためくコーデリアが、メイドをきつい目でにらむ。だがメイドは小声で「すみません、まだ内容が固まってなくて……」とさらにしどろもどろ。要するに“捏造資料”をちゃんと完成させる前に、彼女が突入してしまったようだ。
このやり取りを見た会場のモブたちが「おやおや、これは……」と吹き出しそうになる。あまりにお粗末な展開に、私も少々呆れ顔を隠せない。
「……ということは、何も証拠がない状態で私を罵倒し、殿下を擁護なさっているわけですか。ちょっと無理があるのでは?」
「やかましいっ! 私こそ……ほんとはもっと……もっとすごい資料を用意していたんだからっ!」
コーデリアが必死に言い返すが、メイドはバツが悪そうに床を見つめるばかり。こうして彼女は、言葉だけで私を貶めようとしていたことが瞬時に会場へ伝わってしまった。自分は特に物的証拠を用意できず、私の提出した証拠は明らかに本物感が強い。さすがに勝負にならない。
「こんな……こんなはずじゃ……。殿下を、殿下を守ってあげようと……」
コーデリアが泣きそうな声で呟くと、視線が王太子のほうへ向けられる。だが、王太子自身も今の状況で余裕がなく、まったくコーデリアを助ける気配すら見せない。むしろ「知らないよ……」と目を逸らしている。
「殿下、なぜフォローを……。私、あなたに尽くしてきたのに……!」
「え、ああ……い、いや、俺も今それどころじゃないというか……めんどくさいから……」
王太子のそっけない返事を聞いて、コーデリアは「そんな……!」と声を震わせる。自分が全力で庇おうとした相手に冷淡にあしらわれるのは、さすがにショックが大きいのだろう。さらに会場の貴族たちが失笑をこらえきれずにささやき合う。「あの二人、なんで組んでるのかしら……」「ほんと、まるで漫才だわ」などと笑い声を漏らしているのが丸聞こえだ。
「うっ……もういやっ! 殿下なんか、殿下なんか……!」
涙ぐんだまま、コーデリアはバタバタと会場の端へ逃げていく。その後ろ姿を気にする者はほとんどいない。むしろ「言いたいこと言って自爆した」「結局彼女のほうが痛々しい」という評判が固まってしまい、場内は軽い失笑の空気で満ちていた。
「……彼女、あれで撤退かしら。予定よりずっと早く脱落しちゃったわね」
私は心中で静かにツッコミながら、再び王太子へ目を戻す。彼はコーデリアへのフォローもせず、一人肩を落としているが、このまま終わらせるわけにはいかない。せっかくいい感じに場内の流れを掴んだのだから、ここでさらに追い詰めるのが得策だろう。
「殿下、先ほどの続きですが、コーデリアさんが用意できなかった資料とは違い、私のほうにはまだまだ書類が残っておりますの。どうします? この場で全てお披露目しましょうか?」
「……ひ、ひぃ……」
王太子が顔を引きつらせながら後ずさる。その姿はまさに「こんなはずじゃなかった」と同じ境遇を味わっているようで、もはやコーデリアと似た運命を共有しているかのようだ。あちらが先に爆発して去ったせいで、殿下が盾にするものは何もない。あとは自分の醜態を周囲に晒すだけの運命だ。
「さて、では引き続きまいりましょう。私もこれで終わらせるつもりはありませんので」
そう言って私は書類を見直し、次の議題を確認する。場内の貴族たちが好奇心に駆られて身を乗り出し、王太子を取り囲んだ“公開処刑”の熱量が一気に高まっている。この流れなら、コーデリアが自滅しただけでなく、王太子を致命的に追い込む大波を作れるに違いない。
泣きながら撤退していくコーデリアの姿が印象的だったが、彼女が引っ込んだおかげで余計な絡みを受けずに済むので正直助かる。思わぬ形で一人敵が消えたことに、ほんの少しだけ胸を撫で下ろしながら、私はさらに王太子への追及を加速させるのだった。




