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“王太子ざまぁ”を目指したはずが、家族と第二王子が過激すぎて大勝利になりました  作者: ぱる子


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第9話 華麗なる(?)舞踏会開幕!③

 王宮の大ホールに設置された壇上は、まばゆいシャンデリアの光を受けて威厳を放ちながらも、どこか呑気な雰囲気に包まれていた。そこには、一人の老人――国王フレデリック・イグナシオが、杖を片手につっかえつっかえ歩を進めていたからだ。周囲の貴族たちが緊張した面持ちで見守っているが、当の国王はマイペース。壇上に辿り着くまでに何度か小さなつまずきを繰り返しては、モブ貴族が慌てて支えに入る。


「いやはや、すまんの。近頃は足腰が弱っていかん。……おっと、おぬしら、わしに構いすぎるな。まだ若いつもりじゃからな」


 国王が杖をトントン鳴らして笑う。ぼんやりした様子をよそに、彼の傍で控えるモブの側近が「さあ陛下、どうぞおかけください」と慌てながら椅子を勧めるが、フレデリックは「ふん」と鼻を鳴らして立ったまま周囲を見回す。


「せっかくの舞踏会だ、立ったままでいいだろう? ほれ、皆も楽しんでおるか? ……ん? なぜそんなに静かなんじゃ?」


 ざわついた客人たちが瞬時に息をのむ。いつにも増して突飛な行動を取る国王の姿に、一部は不安、一部は期待混じりの好奇な視線を送っていた。横のほうでは第二王子セバスティアンが意味ありげにニヤリと微笑み、その視線の先にはうんざりした顔の王太子アルフレッドがいる。どうやら、この舞踏会で何か起こるのは間違いなさそうだ。


「よし、そろそろ始めるか……皆、ちょいと耳を貸せ。わしから話したいことがある。……ほれ、アルフレッド? あの婚約破棄でゴタゴタしておるという噂を聞いたぞ。どこかで“公爵家といざこざ”があって、なんだか面倒が増えとるとか」


 話題が唐突に飛ぶせいで、貴族モブたちは戸惑いの表情を浮かべる。だが、さすがに王の言葉を無視できず、一様に静まりかえっていく。壇上のフレデリックは「ふむ、皆黙ったな」と呟いて杖を軽く振った。


「わしは眠い。年をとるとな、いろいろ気苦労も増えてかなわんのだが……あの婚約破棄のスキャンダルをこの場でまとめて晴らしてしまえば、わしもゆっくり寝られるじゃろ? ほら、舞踏会というのはこう……皆が集まるだろう? ならここで全部白黒つけたら早いではないか」


 あまりにあっさりした発言に、場内はさらなる沈黙と混乱が広がる。華やかな音楽も止まりかけ、数多くの貴族たちが「なにを言っているのかしら……」「婚約破棄って、あの騒動のこと?」と小声でささやき合う。そんな中、セバスティアンは軽く顎に手を当て、わざとらしくクスクスと笑いをこぼす。


「父上、まさか本当にここで決着をつけるおつもりなんですか? 舞踏会というのは社交と音楽を楽しむ場でしょうに……でも、僕としてはぜひやっていただきたいですね。ええ、是非」


 セバスティアンがそう言葉を添えると、フレデリックは「やはりおぬしは話がわかる」と嬉しそうにうなずく。ごく一部の貴族が彼らのやり取りを聞きながら、「やっぱり何か仕掛ける気なのかしら……」とざわめく。まるでセバスティアンが国王の思いつきを利用しようとしていると悟ったような空気が漂う。


「ま……まじかよ……」

「これはただの舞踏会じゃなくなるかもしれんな」


 モブ貴族たちのひそひそ声が重なる。そうして目線を向ければ、王太子アルフレッドが青ざめた顔で壇上を見ているのが分かる。一方、コーデリアはアルフレッドの隣に立って「これは私にも都合がいいんじゃないかしら」などと鼻息荒くしているようだが、当の王太子は完全に内心パニックの様子だ。


「陛下、そ、それは……私どもにとっては少々突然でして……!」

 誰かが意を決して口を開くが、国王は無頓着な顔で話を続ける。


「なんじゃ、おまえたち。突然かもしれんが、わしはとにかく面倒が嫌いでのう。このまま放置すれば王子だの公爵家だの、あちこちで揉め事が増えるじゃろ? なら、この機会にそやつらを表舞台に立たせて、全員で“真相”とやらを聞けば早い。……なんだか眠いんじゃが、まあ今夜はがんばって起きておこう」


 あまりの自由奔放な発言に、場内はどよめきが止まらない。国王の耄碌ぶりといえば有名だが、ここまで思いつきだけで国政を動かすとは――貴族たちは呆れと興味をないまぜにして見守っている。


「というわけで……明るいうちに踊りたい者は踊ればよい。食事も好きに楽しむがいい。その後、この場で話がある者は順に名乗り出よ。わしはそこでいろいろ聞いてから裁定を下す」


 国王は眠そうな目をこすりつつ、何ともむちゃくちゃな提案を高らかに宣言する。会場の中心付近では、アルフレッドが額に汗を滲ませながら「ま、まさか……本当にやるのか?」と呟き、コーデリアが「ええ、チャンスですわ!」と勝手に解釈している。

 一方、セバスティアンは楽しげに肩をすくめ、「どうなることやら」とだけ呟いて頬笑みを浮かべる。彼にとって、兄の失態が表に出れば出るほど有利というわけだ。


「……おいおい、本当にやる気だぞ……」

「こんな舞踏会、聞いたことがない。結局、公開裁判みたいになるのか……?」


 モブ貴族たちが困惑の声を上げる中、フレデリックはまるで「よし、おしまい」とばかりに杖を立てて壇から下りようとする。そこで側近が慌ててマイクならぬ音声拡声の役目をする道具を差し出すが、国王は「もう疲れたからおまえたちでやれ。わしは酒でも飲みたい」と言い捨ててしまう。


「では、みなの衆、存分に楽しむがいいぞ。何か騒ぎになったら知らせてくれ。わしは寝ておるかもしれんがな、はっはっは」


 国王が笑いながら壇を離れると、会場は大きな動揺の波を迎える。何が起こるか分からない“スキャンダル暴露の場”になるかもしれないと気づいた人々が、そろそろと周囲を見合っているのだ。

 セバスティアンはその光景を目の端で捉えながら、アルフレッドに視線を移す。王太子は顔から血の気が失せ、コーデリアが「殿下、どうなさるんです?」と問いかけても要領を得ない。まさに今夜がクライマックスに向けて動き出した瞬間である。


「さて、これで舞踏会がどうなるか……ますます面白くなりそうだな」


 第二王子の小さな呟きは、周囲の大半に聞き取れないほど低く、しかし不気味なほど確信的な響きを帯びていた。国王の珍采配によって生まれたこの場で、一体何が暴かれ、誰が追い詰められるのか――貴族たちは息を呑んで見守るしかない。

 こうして、華やかな舞踏会は一変して、王太子の婚約破棄に関する騒動を公に裁く不穏なステージとなる。フレデリック国王の耄碌ぶりと突然の決断力がもたらす波紋に、会場はますます落ち着きを失っていくのだった。

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