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(終わった……)
バレてしまったからには、もうこの平穏な生活は消えてなくなってしまうはず。諦めの気持ちが心を支配していく。
私はチラリと視線を向けた。私の秘密を知ってしまった目の前の男性は、一体どんな表情をしているのだろうか。きっと驚いているに違いない。そう思いチラリと視線を向けてみたのだが……
(え?な、なんで?)
私は戸惑った。間違いなく驚いていると思っていのに、なぜだか目の前の男性は目から涙を溢していたのだ。
普通この状況で、まさか泣いているとは思わないだろう。こっちは絶望しているというのに。むしろ私の方が驚いてしまったくらいだ。
でもどうしてこの人は泣いているのかはすごく気になる。気にはなるが、今はこの場をなんとしてでも乗りきらなければ。
(……できればこの手段は使いたくなかったけど)
相手が貴族であるのなら、この方法は間違いなく有効な手段だろう。だけど雇われているだけの身としては、いささか申し訳ない気持ちになる。しかし私が目の前の人物に口止めするには、この方法しか思いつかなかったのだ。
(……うん。背に腹は代えられないわ!どうかお許しください、ご主人様!)
私は心の中で、一度しか会ったことのないご主人様に謝罪した。慈悲深く優しいご主人様なら、きっと許してくれると信じている。
私は覚悟を決め、口を開こうとしたが、先に口を開いたのは私ではなかった。
「……き、君は」
「え」
「君は一体……」
何を言われるのかと身構えていた私だったが、それ以上の言葉が続くことはなかった。
何を言おうとしたのかは分からないが、ホッとした私は気を取り直し、今度こそはと口を開いた。
「フローリア」
私が告げるのはたった一つの事実だけ。
「フローリア・ペンゼルトン。これが私の名前よ」
「っ……」
この国で知らぬ人などいない。この国に唯一存在している公爵家、それがペンゼルトン公爵家。そして私はそんな唯一の公爵である、ペンゼルトン公爵様の妻なのである。
そう、私は貴族の女性の中で一番位の高い存在である公爵夫人なのだ。
……ただ十年間放置されている、という言葉が付いてくるのだが。
(今日は間違いなく最悪な日よね、これ)
果たして私はこれからどうなってしまうのだろうか。
(はぁ……)
ただそんな状況であっても、シルバーブロンドの髪は太陽の光に照らされて、一際存在感を放っていたのだった。